チェックワード
2018.10.10
「押しも押されぬ」は「中途半端な実力」を意味する?
本日のチェックワード 69「押しも押されぬ」
「押しも押されぬ看板商品に育て上げましょう」
新製品のプロモーションに関する打ち合わせで、後輩が上記のようなひと言。この言葉を聞いて、何か違和感を感じませんか?
「押しも押されぬ」は、「堂々たる実力を誇っている」といったニュアンスで使う人が多い表現ですが、実は「押しも押されもせぬ」が正しい言い方。本来は「自分から押すこともなく、他人からも押されない」という意味で、そこから「確かな実力を備えていること」を表す慣用句として用いられるようになりました。「押しも押されぬ」だと、打ち消しの「ぬ」が「押され」だけにかかるため、「自分から押すことはあるが他人からは押されない」となり、「実力が中途半端ということ?」と解釈される可能性もあるのです。
2003年度に実施された文化庁の「国語に関する意識調査」では、約5割の人が「押しも押されぬ」が正しいと誤解しているとのこと。「押しも押されぬ」を会話の中で使っても意味は通じるでしょうが、上司などの前では正しい言い方を心がけた方が安心です。
監修/篠崎 晃一(Shinozaki Koichi)
東京女子大学教授。専門は方言学、社会言語学。『例解新国語辞典』(三省堂)編修代表や、テレビ番組「ワーズハウスへようこそ」(日本テレビ系)の監修など幅広い分野で活躍。『えっ?これっておかしいの!? マンガで気づく間違った日本語』(主婦の友社)など、日本語の誤用に関する著書も多い。