リサーチ
2019.12.05
アルムナイ(退職者)は企業にとって貴重な人材となり得るか
アルムナイとのつながりが社員の仕事にプラスの影響
人材不足に悩む企業が増えてきた近年、アルムナイという言葉が注目を浴びている。アルムナイ特化型SaaS「Official-Alumni.com」とコンサルティングを展開している株式会社ハッカズークは、2019年4月30日~19日、『アルムナイとのつながりに関する意識調査(対象:会社経営者・役員、会社員、公務員140名/インターネット調査)』を実施した。
アルムナイ(alumni)とは英語で「同窓生」という意味であるが、人事領域で使われるときは、企業の離職者や退職者を指す。終身雇用制度が終わりを迎え、転職が一般的になりつつある現代では、あらゆる企業において“人材不足”が深刻である。その問題を解消するために、アルムナイを貴重な人材資源とみなし、離職後・退職後も関係性を保っていこうという動きが広がってきているのだ。
株式会社ハッカズークが実施した『アルムナイとのつながりに関する意識調査』では、アルムナイと現在つながっている人、今後つながりたいと思うアルムナイがいる人は、9割に達していた。
アルムナイとつながりたい理由は、「仕事に関係なく友人として付き合いたいから」が81.0%で1位だった。以前から個人的に友人関係を続ける元同僚同士は珍しくなかった。元同僚の友人であれば話しやすいことや、理解されやすいことも多いため、アルムナイに仕事の相談をしていた人も少なくないかもしれない。しかし、個人的な関係ではなく、企業が「アルムナイと良好な関係を築く」、「退職しても互いのプラスになる存在であり続ける」という発想は、終身雇用時代にはあまり見られなかった。近年はアルムナイとのつながりが企業からも好意的に見られるようになってきたので、より有益な関係を築きやすくなるだろう。
2位の「今の仕事へのアドバイスが欲しいから」、3位の「仕事上で付き合いたいから(受発注や協業など)」、4位の「自社に関する客観的な意見が聞きたいから」、6位の「採用候補者や営業先などを紹介してほしいから」は、仕事に関する直接的な好影響を期待する内容だ。企業がアルムナイを「貴重な人材資源」とみなし、関係性を保とうとする狙いは、こうしたメリットが背景にある。
「過去にアルムナイとつながったことで、よかったと思うことがある」と答えた人は84%にのぼり、多くの人がメリットを実感していることがわかる。フリーコメントの回答では、以下のような意見が挙がっていた。
・業務上のアドバイスを他社視点でもらうことができた。(30代/会社員)
・顧客を紹介してもらった。退職した後も会社の良いPRをしてくれている。(30代/会社役員)
・スキルレベルの高いアルムナイの方に参画してもらったことで、単なる業務委託だけでなく、社員のスキルアップにもつながっている。(30代/会社員)
仕事に対するアドバイスをもらえる、具体的な成果につながるというのは、企業や個人にとって、アルムナイから受けられる最大の恩恵だ。また、「(アルムナイが)転職先でよいポジションを担っており、自社のキャリアに市場価値があることを感じられた(40代/会社員)」や、「成果をあげている姿を見て刺激を受けた(30代/公務員)」など、自信やモチベーションにつながったという声もあった。
一方、「アルムナイのなかにつながりたくないと思う人はいますか?」という質問では、62%の人が「いる」と回答し、その理由の1位に「仕事の面で信頼できない人だったから」、2位に「人として相性が良くなかったから(信頼していないから)」が挙がった。信頼が鍵になるのは、人対人だけでなく、企業対人でも同様である。転職が一般的になった世の中において、企業とアルムナイが良好な関係性を築いていくためには、双方が退職後も信頼関係を維持する努力をしていく必要があるだろう。
転職者が珍しかった時代には、転職者と元の企業は関わりを持たないことのほうが圧倒的に多く、再雇用制度やジョブリターン制度の適用も、配偶者の転勤、出産・育児や介護など、やむを得ない事情がある場合に限られていることが多かった。
しかし今、再雇用の可能性も視野に入れながら、アルムナイと良好な関係性を築こうとしている企業も少なくない。本人の再雇用に限らず、アルムナイから採用候補者を紹介してもらえるケースもあるだろう。自社の業務を熟知するアルムナイからの客観的な意見は非常に貴重であるため、定期的に懇談の場を設けている企業や、社員教育にアルムナイの力を借りている企業もある。営業先の紹介、受発注や協業など、互いにビジネス上のメリットが得られることもあるようだ。
アルムナイとのつながりは、以前こそ個人的な友人関係に留まることが多かったが、組織にとっても多くのメリットがある。離職者・退職者が増える時代において、「企業と社員」とは違う新しい形で、アルムナイと持続的に接点を持っていくことが理想的なのではないだろうか。