リサーチ
2020.10.12
データから読み解くポストコロナの企業動向
経営層に求められるアクションとは?
コクヨ株式会社では2020年5月末、大手法人114社の経営者層130人に向けて、新型コロナウイルスに伴う意識変化と今後の方向性を問うアンケートを実施した。集計結果から見えてきた全体傾向や経営課題について、アンケート実施から数か月経った現況もまじえて、同社のワークスタイルイノベーション部でワークスタイルコンサルタントを務める河内律子が分析する。
約8割の企業が
業績悪化を実感
今回の調査では、新型コロナウイルスによって「事業業績にマイナスの影響があった」と回答した企業が76.2%に上りました。特に、「機器・化学・食品」「サービス」「不動産・建設・設備」といった、リアルな場での業務や材料等の輸入が多い業界では、マイナスの影響を実感する経営者が目立ちました。
業績がマイナスでも
労働環境の整備や人材育成を重視
多くの企業が業績悪化を実感しているなかで、ポストコロナに向けて重視する項目を聞いたところ、「働き方改革」を挙げた経営者は8割超で、ほかの項目を大きく上回っていました。なかでも、「遠隔コミュニケーション・ICTの導入・オフィス環境改革」に関心を示す経営者が目立ちました。
このアンケートを実施したのは緊急事態宣言解除直後でしたが、コロナ禍の再発・新たなウイルスへの脅威に備えて新しい働き方へのシフトが求められている時期だったこともあり、まずはBCPと従業員の安心安全確保の観点から、従業員が安心かつ効率的に業務を継続できるよう、テレワークや感染症対策などの環境整備を最優先に考えていることが読み取れました。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、誰にとっても予測不能な事態でした。しかし経営者は、「予期せぬ天災や現象によって業績が一時的に悪化することは起こり得る」と見越したうえで事業運営を行っていることがうかがえます。
「新しい働き方」に向けた環境整備なくして
テレワークの継続は難しい
経営者自身の働き方も、新型コロナウイルスをきっかけに変化しつつあります。働き方の変化を問う質問では、「チャット・web会議などICTの活用」「遠隔ミーティングにより会議調整が効率化した」「オフィスに行かなくてもある程度仕事が回る」といった声が8~9割と高くなっています。
経営者自身がテレワークの利便性を実感したことからも、テレワークを長期的に実施しようとする大企業の傾向が読み取れました。
ただしその後、気になるデータが出てきました。東京商工リサーチが2020年7月に発表した調査結果では、全国の14,356社のうち、「新型コロナ以降にテレワークを実施したが、現在はとりやめた」と回答した企業が26.78%に上ったのです。特に資本金1億円以上の大企業2400社では、テレワークを取りやめた企業が29.71%もありました。
テレワークによって生産性を高めるには、ただツールや通信環境の整備を行うだけでなく、決裁プロセスの見直し、会議体の見直し、集客・商談プロセスの改革、上司部下のコミュニケーションの取り方の見直しや人材育成のやり方改革など、働き方全般を新しい様式に変えていく必要があります。
テレワークを断念した企業は、真の「新しい働き方」にシフトできておらず、単純に今の仕事の内容を今の進め方のままでオンライン対応しようとしたため、不便や効率低下を招いてしまった可能性があります。
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。