リサーチ
新しい生活様式やテレワークが可能にする「地方移住」
都市集中型の経済を解消し、生き方の多様化を実現する
2018年の発足からテレワークの推進に取り組んできた「Empowered JAPAN実行委員会」は、2020年6月、首都圏で在宅勤務中のビジネスパーソン1,000名(20~50代・男女・均等割り付け)を対象に、『首都圏のビジネスパーソンの在宅勤務・テレワークに対する意識調査』を実施。新型コロナウイルスを機に、首都圏のビジネスパーソンの働き方に対する意識が大きく変化していることがわかった。
新しい生活様式で変わる
「地方移住」という働き方の新しいスタイル
新型コロナウイルス感染拡大という未曾有の事態は、多くのビジネスパーソンが働き方や将来像を見直すきっかけになったといえる。その一つの例として、感染防止を第一とした新しい生活様式がある。
この新しい生活様式で「身体的距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗い」を基本としたことから、働き方も変化し、在宅ワーク(テレワーク)やオンライン会議が推奨されている。
こうした「オフィスに行かなくなる」という状況と、人口密度の高い都市部に居住することへの危機感などから、「地方移住」に対する興味が高まっている。
『首都圏のビジネスパーソンの在宅勤務・テレワークに対する意識調査』によると、新しい生活様式の影響で故郷や地方への転職・移住に関して以前よりも「前向きに考えるようになった」(下表では「検討する」)との回答が48.4%にのぼり、20代・30代では約6割がIターン・Uターンに意欲を示していた。
若い世代が地方移住に積極的
転職・移住をする時期について聞くと、転職・移住に意欲を示したビジネスパーソン466人のうち3人に1人が「3年以内」、20代では4人に1人が「1年以内」と回答。
これまでは「定年退職後」など、第二の人生に地方移住を希望するケースが多かった印象があるが、この調査では50代よりも若い世代のほうが早期の転職・移住を希望しており、新型コロナウイルスがビジネスパーソンの意識に与えた影響の大きさが伺える。
一方で、40代は早期の転職・移住を希望する人が最も少なかった。40代ともなれば現職での経験も長く、役職などに就いている人も多いと考えられるし、かつ定年退職までにはまだ時間があるため、他の世代と比べて身動きがとりづらい側面がありそうだ。
また、この世代は多くの人に家族があり、共働きの配偶者や学童期の子どもがいると、「自身の都合だけでは決められない」という、大きなハードルもあるだろう。
テレワークが実現する
場所に縛られない、住み方・働き方
地方に転職・移住する人が増えれば、地方経済は今よりも盛り上がりを見せるだろうし、人材不足に悩む地方の企業にとっても好ましいことだ。ただし、住居や家族などの問題もあり、実際に行動に移すのは簡単なことではない。
そこで一つの足がかりとなるのが、テレワークという働き方だ。調査では、回答者の91.6%が在宅勤務に「慣れた」と回答し、継続を望む声は85.8%。そして、「首都圏に住みながら地方の企業でテレワーカーとして働く」という、新しい働き方に60.3%のビジネスパーソンが興味を持っている。
テレワークで遠方の企業に勤務することができれば、同じ方式で地方在住者が首都圏の企業で働くケースも出るだろうが、移住は難しいが地方の企業で働きたい人や、将来的な移住に備えて地方で職を得ておきたい人の希望を叶えられるし、地方企業の人材登用のチャンス拡大も期待できる。
新型コロナウイルスとの共存社会における
地方移住の意味
働き方の多様化や、ライフワークバランスを重視するビジネスパーソンの増加によって、地方移住への関心は年々高まっていた。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大によって、多くのビジネスパーソンが「自宅でも仕事ができる」という実体験を得たことで、地方移住を現実的に考え始める人が増えたのではないだろうか。
また、新型コロナウイルス感染拡大は、今までになかった形で都市集中型の経済に警鐘を鳴らした。感染リスクやその他有事のリスク軽減のために、地方に拠点を移す、都心と地方の両方に拠点をつくるという方向に動き出す企業も、今後増えてくるかもしれない。
新型コロナウイルスと共存する社会において、経済拠点の分散は、企業の事業継続はもちろんのこと、地方経済の活性化や、ビジネスパーソンの働き方・生き方の可能性を広げるという意味でもメリットが大きい。
今後、新型コロナウイルスの感染がどうなるのか予測できない部分も多々あるが、新しい生活様式によって実現した在宅ワークの様な働き方の新スタイルを、一過性のものとせず、よりよい形で維持していくことができるのか。今後の動向を注視したい。
【出典】Empowered JAPAN実行委員会『首都圏のビジネスパーソンの在宅勤務・テレワークに対する意識調査』