仕事のプロ

2021.01.14

ポストコロナ時代のイノベーションとは?〈前編〉

市場が激変した今は新規事業開発のチャンス

新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに消費者の行動や志向が急変し、多くの企業が苦戦を強いられている。「ポストコロナ時代に企業が成長し続けるには、今までとは違った発想が必要」と語るのは、コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部で働き方改革プロジェクトアドバイザーを務める坂本崇博氏だ。前編では、なぜ、ポストコロナ時代の今、イノベーションが必要なのか、その理由をお聞きした。

コロナ禍をきっかけに
変化した消費行動

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言期間中、これまでとまったく違った生活を送った人は多いと思いますが、その変化はビジネス市場を大きく変化させました。

今までは、例えば人気のレストランに行列をつくったり、ライブに出かけたりと、リアルの体験を重視する人が一定数いました。しかしコロナ禍によって、今までの体験価値重視の傾向は一変し、消費者は新たな楽しみ方の選択肢を手に入れたのです。

具体的には、自宅にいながらオンラインで面白いコンテンツを視聴したり、オンライン飲み会をしたり、飲食店の料理をデリバリーで注文したりする消費者が急増しました。緊急事態宣言解除後も、この傾向は続いており、コロナが落ち着いた後も定着していくと予想されます。

また、遠出や混雑を避ける目的から、外出や旅行も近場を選ぶ人が増え、身近なところの良さを発見するマイクロツーリズムの需要も、コロナを機に高まっています。

コロナをきっかけに、消費者が選ぶモノ・コトが大きく変わったことで、そうした新しい商品やサービスを提供する企業が大きく業績を伸ばしている一方で、急激な市場動向の変化により、事業継続が危ぶまれる企業も出てきています。コロナ禍を生き延び、またポストコロナの時代に生き残っていくためにも、今、多くの企業に変化が求められているのです。

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商品やサービスでも、既存から新規への
急激な乗り換えが起こっている

消費者が新しい選択肢を手に入れたことで、企業はコロナ前とは違う課題に直面することになりました。また、消費者の選択肢が増えただけでなく、既存の商品やサービスから新しい商品やサービスへの乗り換えが急激に起こっています。

これまでにも、消費者に選択肢が増えたことにより、既存の産業が少しずつ衰退するケースは多々ありました。例えば産業革命の時代にも、自動車の登場によって馬車の業者が勢いをなくし、衰退していきました。こうした、既存の事業が淘汰され、新たな市場が形成され定着する状況は『破壊的イノベーション』と表現されます。

自動車による馬車事業の淘汰の例では、既存の馬車事業者は、自動車という新しいサービスを求める未知数の顧客よりも、今現在馬車を愛用している目の前の顧客を重視するあまり、新しい顧客のニーズ(自動車を使いたい)に対応するのが遅れ、結果として新興の業者(自動車メーカー)に駆逐される。といった衰退の流れをたどることになったのです。

〈関連記事〉今後の日本に求められる破壊的イノベーション〈前編〉

そして今、コロナ禍をきっかけに『破壊的イノベーション』が起こっていますが、今回起こっている『破壊的イノベーション』は、産業革命と同様もしくはそれ以上のスピードをもって消費者の意識・行動を一気に変化させ、新しい市場を形成するとともに既存の市場・製品への価値を相対的に低下させつつあります。

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リアルからオンライン、アウトドアからインドア、出向くから取り寄せる、遠出から近場といった、コロナによって変化した消費行動は、新しい日常として定着しはじめ、新たな商品やサービスが次々と生み出されています。



急激な消費行動の変化が
イノベーションの好機に

この消費行動の急激な変化で、既存の商品やサービスを早急に見直し、すぐにでも新規事業を展開しなければ立ちゆかない企業も多くあると思いますが、そんな企業にとって今がチャンスです。

なぜなら、既存市場の顧客の意識もすでに変化しているからです。通常、多くの事業者が『破壊的イノベーション』を起こせない最大の要因として、『既存顧客を大切にしている間に、新規市場のニーズへの対応に出遅れる』といったことがあります。

馬車の例でいえば、自動車が出始めたころには、圧倒的多数の顧客が馬車の価値を高く評価しており、顧客のニーズは、馬車の機能をより高度に改善していくことでした。そのため馬車事業者は、顧客のニーズを無視して自動車産業にシフトすることはできず、結果、既存の馬車事業以外への投資ができなかったのです。

しかし、コロナ禍によって、既存顧客の意識行動が一気に変わりました。いきなり需要が激減した業界もあります。そうした事業者にとってみれば、既存の商品やサービスへの需要が激減した......、すなわち既存の商品やサービスの改良が必要なくなったわけですから、まったく異なる商品やサービスを生み出すイノベーションに挑める好機がやってきたともいえるのです。

つまり、破壊的イノベーションによって普通は淘汰され、市場から消えていく事業者(例えば馬車事業者)は、淘汰の危機を回避し、自らが新たな事業者として破壊的イノベーションの担い手になることができるチャンスと言えるのです。


坂本 崇博(Sakamoto Takahiro)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/働き方改革PJアドバイザー/一般健康管理指導員
2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、アウトソーシング、会議改革など数々の働き方改革ソリューションの立ち上げ、事業化に参画。残業削減、ダイバーシティ、イノベーション、健康経営といったテーマで、企業や自治体を対象に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポートするコンサルタント。

文/横堀夏代