リサーチ
イノベーション・新規事業創出に対するワーカーの関心度
新しいアイデアやサービスを生むのに必要な要素・環境
本格的なグローバル社会に向けて新規事業創出の重要性が高まるなか、企業の枠を超えた共創も活発になりつつあるが、ワーカーはイノベーションに関心があるのか? また、イノベーションに必要な要素や環境とはなにか? コクヨが実施した調査結果をもとに考察する。
イノベーション創出に対するワーカーの関心度
まずは2630人のワーカーに向けて、新事業・サービスやイノベーションの創出についての経験や関心度を質問してみました。その結果、「新事業・サービス/イノベーション創出経験あり」と「創出経験はあるが関心はある」の合計は約26%で、全体の4分の1を占めました。 この結果を逆に考えると、「新事業・サービス/イノベーション創出に関心はない」と回答した人が約74%を占めることになります。近年は本格的なグローバル社会に向けて国際競争が加速し、イノベーション創出が強く求められていますが、ワーカーの関心度は必ずしも高くはないようです。 ただ、新事業やサービスは「創り上げて終わり」ではなく、創り出したモノ・コトを維持・改善していくことも重要であり、このような業務を推進する人も求められます。その点から考えれば、4人に1人が「時事業・サービスを生み出した経験がある(または関心がある)」という結果は、イノベーション創出の土壌としてよいバランスといえるかもしれません。
イノベーション創出に重要な要素
新しい事業やサービスは、日常業務を普段通りにこなしていても生まれにくいものです。先述のアンケートで「新事業・サービス/イノベーション創出経験あり」または「創出経験はないが、関心はある」と回答したワーカーのうち約300名の意見をもとに、イノベーション創出に必要な要素を考察しました。
アイデアを生むための場
企業が新規事業やサービスを創出するにあたって、社内だけでなく外部の人と共に「共創」する手法が増えてきています。企業のワーカーが参加できる共創の場として認知度が高まりつつあるのが、「イノベーションセンター」「フューチャーセンター」「リビングラボ」の3つです。それぞれの役割は以下の通りです。
- イノベーションセンター:自社のリソースを活用して社外の人とイノベーションを共創する場
- フューチャーセンター:産学官民枠を超えて、未来の視点から仮説を立てる場
- リビングラボ:街などで社会実験を続けて仮説検証する場
アイデア発想のきっかけ
イノベーション創出は新鮮なアイデアから始まります。どんなときにアイデアが生まれやすいかを押さえておけば、よりよい新事業やサービスを生み出すことにつながるかもしれません。 そこでまず、「普段アイデアや発想を得るために、どんなことをしていますか?」と質問しました。多くの人が回答として選んだのは、「本やネットニュースからの情報収集」と「意識して新しいことに取り組む」でした。この結果からは、「まずは単独で動いてみる」という姿勢が見えてきます。 一方で、「社外の勉強会に参加」や「社外交流・異業種交流会参加」「様々なコミュニティに参加」などはいずれも20%台にとどまりました。幅広い交流によってアイデアや着想を得ようとする人は、それほど多くないようです。 行動することはもちろん重要ですが、自分の関心に基づいた情報収集や行動だけでは、思いがけない着想につながらない懸念もあります。自身とは異なる価値観と出会える機会・行動を求めてアクションを起こしていくことも必要ではないでしょうか。
アイデアを実現する行動力
「イノベーションや新規事業を起こすために重要なこと」を挙げてもらったところ、「行動力」や「強いリーダーシップ」、「プロジェクト(当事者)への権限委譲」を挙げた人が目立ちました。これらの回答からは、「変化のスピードが速い社会において、行動力のあるリーダーを得て現場主体ですばやく商品・サービスを開発する」というイノベーション創出のあるべき姿が見えてきます。 逆に考えれば、日本のイノベーション能力が低いとされているのは、新規事業開発の場にこれらの要素が不足しているからとも考えられます。 また、「参画メンバーの多様性」と「社外の巻き込み」にも多くの声が集まりました。この結果からは、「社内に閉じこもらず、多様な人材と新しいモノ・コトを共創していきたい」というワーカーの意識がうかがえます。
企業がイノベーションに取り組む意味
企業がイノベーション創出に取り組むのは、当然ながら継続的に収益を得るためです。しかし、今回の調査ではあえて「それ以外に企業が目的としていることは何だと思いますか?」と質問を投げてみました。その回答から、ワーカーが自社に対してどんな思いを持っているかが見えてくるのではと予測したからです。 その結果、約4割の人が、企業・組織がイノベーション・新規事業創出に取り組むのは「社員のモチベーションを高めるためだと思う」と回答しました。これは、「自分はイノベーション創出に取り組むとモチベーションが上がる」「会社は新規事業を通じて自分たちのモチベーションを高めようとしてくれている」という気持ちを表しているのではないかと解釈できます また、「地域社会貢献のため」「地球環境のため」といった、SDGsに対するワーカーの関心を反映する回答も目立ちました。なお、「自分の勤務する企業が社会課題解決を目的としたイノベーションに取り組んでいる」ことは、ワーカーにとって自社への信頼度につながるとも考えられます。企業側としては、新規事業の目的を積極的に社内外に発信していくことが求められます。
まとめ
すべての企業は、常に何らかのイノベーションを起こしていくことが求められます。なぜなら、現状を維持するだけでは、企業の成長はもちろんのこと継続も難しい時代だからです。 今回の調査では、イノベーション創出に関するワーカーの意識が明らかになりました。特に印象的だったのが、ワーカーが「自社が前向きに新規事業開発に取り組み、成長し続けようとしているか」に対して非常に関心を寄せている点です。 産官民の相互連携によってイノベーション創出を目指す一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)の調査では、「多様なイノベーションに積極的に取り組む企業ほど、社員が自社の将来性を実感している」という結果が出ています。つまり自社成長はもちろん、従業員のエンゲージメントを高めるためにも、イノベーションを起こすための取り組みは欠かせないということになります。 企業としては、社外と共創活動ができる場の設置なども含めて、イノベーション創出を推進していくことが必要ではないでしょうか。
実施日:2021.8.12-16実施
調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカーのうち、イノベーション創出の経験者もしくは関連部署所属、もしくはイノベーション創出への関心が高いワーカー
ツール:WEBアンケート
【図版出典】Small Survey「イノベーション創出に向けて」
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。