リサーチ
ワーカーの「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する意識
企業での推進度は低いが必要性を意識するワーカーは増加中
「ダイバーシティ&インクルージョン」(以下D&I)とは、「違いを尊重し、多様性を活かす」といった意味で、今後求められる社会のあり方として世界で注目される概念である。日本でも、経済産業省ではD&Iの考え方に基づく「ダイバーシティ経営」を推奨し、企業側も多様な人材の能力や特性を最大限に活かす経営を模索している。では、経営層以外のワーカーはD&Iについてどのように認識しているのか。コクヨが実施した調査をもとに解説する。
D&Iを正しく理解している ワーカーは15%未満
D&I は、女性や高齢者、LGBTQ、外国人、障がい者などあらゆる人材を組織に受け入れ、その人材がやりがいを感じながら能力を最大限に発揮できるよう環境を整えることを指します。企業の組織活性化やイノベーション促進、競争力の向上につながるとされる重要な考え方であり、ワーカーとしては言葉の定義などを正しく押さえておくことが求められます。 そこで、まずは事前調査として「D&Iについて説明できますか?」と1万人のワーカーに質問したところ、「名前を知っており、内容(意味)も説明できる」と「名前を聞いたことがあり、内容(意味)も大体説明できる」と回答した人の合計が14.2%でした。つまり、D&Iの概念を正しく理解しているワーカーは全体の15%未満ということになります。 企業規模別に見ると、規模が大きくなるほど理解度が上昇していますが、従業員1000人以上の大企業においても、正しく理解している人の割合は25%程度にとどまっています。 1986年に施行された男女雇用均等法は改正を重ね、2015年に女性活躍推進法としてより強化された法律が制定されることとなったが、35年の歳月を経て大企業から段階的に女性社員が活躍できる土壌整備が義務化されている状況を考えると、多くの企業では産休・育休制度の見直しや女性管理職比率を上げるといったD&I関連の取り組みを実践しているはずです。にもかかわらずワーカーの理解度が低いのは、自社でおこなわれている女性活躍に関する施策がD&Iに関する内容の一部だと理解できていないワーカーも少なからずいるためと考えられます。
約9割のワーカーが D&I推進の必要性を実感
ここからは、D&Iについて正しく理解している15%のワーカーを対象に調査を行いました。 「あなたの勤務先でD&Iを推進することは必要だと思いますか?」と聞いた結果、34.3%が「とてもそう思う」、53.1%が「まあ思う」と回答し、合計が約9割に上りました。つまり、D&Iについて理解している人の多くが、その重要性を認識しています。 必要だと思う理由としては、「時代の流れ」や「労働人口減少のため」といった社会的背景を挙げる人もいましたが、「会社の価値向上のため」と回答したワーカーも。また、「あらゆる人が最大限の能力を発揮し、忌憚なく意見を出し合える環境をつくることで、シナジーが生まれて成果につながると思うから」という声もあり、D&Iが企業成長に必要だという認識を持っているワーカーがいることもわかりました。 一方で、推進の必要性を感じていない約1割のワーカーに理由を質問すると、「職場環境には合わないから」「D&I推進のために能力が高い人のチャンスを奪うことは逆差別になるのではないか」といった声もみられました。 こういった意見が上がるのは、D&Iの施策が限定された対象者への優遇措置だと捉えられていたり、「対象者でない=自分には関係ない」と思われているためだと考えられます。企業側はD&I施策を打ち出す際に、その取り組みが企業にとってなぜ重要なのかを明確にし、自社の成長に不可欠であることを理解し、納得してもらうことが重要になります。
企業におけるD&I推進の現状
D&Iを理解しているワーカーが勤務する企業において、D&Iがどれだけ推進されているのかも調査しました。
「職場で推進されている」 と考える人が約75%
「あなたの勤務先ではD&Iは推進されていますか?」という質問に対して、「とてもそう思う」「まあ思う」と回答した人が合計で75.7%に上りました。その理由としては「研修会や勉強会が開催された」「D&I組織が設立された」「女性管理職が増えている」などが挙がっており、推進に向けて具体的な取り組みをおこなっている企業の姿がうかがえます。 ただし、先述した通りD&Iの必要性を感じているワーカーが9割いることを考えると、自社の現状を不十分と感じている人も少なくないと推測できます。実際、推進状況を問う質問で「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した人に意見を聞くと、「企業体質が古いから」「推進はされているが浸透はしていないから」という声が挙がっており、社内における意識改革・理解促進が不可欠であることがわかります。
「女性活躍」施策を 推進する企業が6割超
職場で推進されているD&I施策についてたずねたところ、「推進されている」という意見が集中した項目が「女性活躍」に関する取り組みでした。しかし、帝国データバンクが2021年7月に実施した調査では、女性管理職の割合は8.9%にとどまっています。 今回の調査でも、女性活躍について「推進を強化した方がよいと思う」という意見が全体の25%みられました。各企業で女性活躍推進の施策は進められているものの、ワーカー自身は「まだ不十分」と考えていることがうかがえます。 それ以外の項目では、「在宅・リモートなどの推進」や「妊娠・出産をサポートする制度」、「障がい者の雇用促進」、「勤務体系の柔軟化」、「多様な人材と一緒に働く制度」などは、5~6割の人が「自社で推進されている」と回答しています。これらの内容は、政府がテレワーク推奨や障がい者雇用促進、少子化対策、妊娠・出産支援をおこなっていることもあり、制度化している企業が多いようです。
D&Iに関するワーカーの意識
D&I推進に対して、ワーカーがどのような意識を抱いているのかも調査しています。
職場でのD&I推進に主体的
D&I推進に向けて必要だと思うことを挙げてもらったところ、「上司の意見」や「多様な人たちと働く日常的な機会」、「なんにでもチャレンジできる・意見が言える環境」といった項目が上位に挙がりました。これらの回答からは「環境が改善されればD&Iは推進される」と考えている人が多いことが感じられ、やや受け身の姿勢が気になります。 その中で注目すべきは、「人には先入観があることを理解する」という回答が上位に挙がっていることです。無意識の思い込みが自分の中にあることを認識しているだけで、普段の発言や行動でD&Iを意識しやすくなります。そこに気づいているワーカーが多いことは、D&I推進に向けた貴重な一歩と言えるのではないでしょうか。 さらに、「仕事仲間にプライベートなことは聞かない」「社員の履歴・プロフィールは非公開にする」を挙げた人があまりみられなかったのもよい傾向です。D&Iを意識するあまり、他者とのコミュニケーションに臆病になり、打ち解けた会話ができなくなってしまうのは問題です。しかし今回の結果からは、D&Iをポジティブに受け止め、意識を高めようとする意思を持ったワーカーが多いことが見えてきました。
D&I推進を自分事ととらえる
日本でD&Iの推進・浸透を誰が担うべきかを質問すると、トップに挙がったのは「社員一人一人」で、「企業経営者」や「現場の長(部長・部門長など)」を上回りました。この結果からは、「トップダウンも大切だが、社員一人一人の意識が変わらなければD&Iの推進・浸透は実現しない」と考えている人が多いことがわかります。
まとめ
今回の調査からは、D&Iに対するワーカーの意識が進んできていることや、企業で推進施策がおこなわれている状況が見えてきました。ただし予備調査からもわかる通り、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の基本軸でもあるD&Iというトピックについて、大多数のワーカーが正しく認識していないのが今の日本の現状であり、懸念せざるを得ないところです。 また、ダイバーシティとは本来、人種・民族や性別、障害の有無などのほか、社会的地位や学歴、職歴など広い項目を指しますが、今回の調査で「ダイバーシティと聞いて頭にどんな言葉が浮かびますか?」と質問したところ、認識が低い項目も多々みられました。 企業で施策がおこなわれていない項目に対して意識が向きにくいのは無理からぬところですが、これからの時代において多様性という言葉が示す多様の範囲が、女性や障がい者、外国人といった属性にとどまらない、とても広い範囲を指しているということを理解しておくことは、グローバル化が進む今後のビジネスシーンで必須と言えるでしょう。
実施日:2021.12.08-11実施
調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー
ツール:WEBアンケート
協力:マクロミル
【図版出典】Small Survey 第29 回「ダイバーシティ&インクルージョン」
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。