リサーチ

2022.07.11

ビジネスパーソンが求める「学び」のあり方

企業が提供するべき研修の内容は?

「人生100年時代」といわれる昨今、長い目でキャリア形成を考えて自己研鑽を積もうとするワーカーが増えつつある。また、転職や副業のニーズが高まる中で、汎用性の高いポータブルスキルも注目されている。こうした状況の中で、ワーカーは新たな知識・スキルを習得するための「学び」に対してどんな意識をもっているのか。また、企業はワーカーの求める学びを的確に提供できているのか。コクヨが実施した調査をもとに検証する。

企業規模が大きくなるほど
手厚い学びの機会を提供

事前調査として、約4300人のワーカーに、自社における研修の開催状況について聞いてみました。その結果、約6割の企業で何らかの研修が実施されていると明らかになりました。

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「自社で研修が実施されている」と回答したワーカーのうち、約9割の人は何らかの研修を受講した経験があることがわかりました。「指名制・手上げ制両方」と「手上げ制」の合計は5割近くに上り、積極的に学びの機会を求めるワーカーが多いことも印象的です。

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企業規模別で見ると、従業員1000人以上の企業では研修提供率が8割超だったのに対して、100人未満の企業では約3割で、大きな差がみられました。企業規模が大きくなるほど、従業員に向けて手厚い学びの機会を提供する傾向があることがうかがえます。
ただし、ワーカーの研修経験率はいずれの企業規模でも約9割でした。企業規模に関係なく、ワーカーの成長欲求は高いようです。

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ワーカーの学びの現状

ここからは、自社で何らかの研修を受講した経験のあるワーカーに限定して調査。まずは、「どんな学び方をしているのか」や「学びにおける課題は何か」といった学びの現状を尋ねました。

約6割が業務と別に学びの時間を設けている

「ご自身のキャリア形成に向けて、業務時間外に自ら学ぶ機会を設けていますか?」と質問したところ、約6割の人が「設けている」と回答しました。半数以上のワーカーが、意識的に学びの機会をつくっているのです。
ただし、「機会は設けているが、かけている時間は不十分」「本当は設けたいが、設けられていない」の合計が約7割に及んでいるのは気になるところです。学びに対して意欲はあるものの、現業などで忙しく学びに対する優先度を下げざるを得ないワーカーの葛藤がうかがえます。

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個人のキャリア形成に必要なスキル習得に意欲的

「現在、業務時間外に学びの時間を設けている」と回答したワーカーに、具体的にどんなことを学んでいるか質問してみました。約7割の人が「資格勉強や講座、読書など仕事に直結する実務スキルの習得」を挙げており、現業に対する優先順位の高さが読み取れます。

目を引いたのは、「仕事に直結しないが、視野を拡げたり基礎力を高めたりするためのセミナーや読書などの機会」と回答した人が5割みられたことです。今の仕事に直接関係なくても、自身のキャリア形成に役立つ学びを意識的におこなっている人が少なくないことがうかがえます。

なお、「現在は実践できていないが、設けたいと思っている学び」についても聞いたところ、「交流イベントなどリアルを中心とした異業種交流、社外人材とのつながりを持つ」と回答した人が約3割みられました。2020年春からのコロナ禍をきっかけにリアルイベントが激減したことによって、社外人材と直接交流する価値を再認識した可能性が考えられます。

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学びに対する課題

ここまでの調査結果からは、業務を超えた学びに対して意欲的なワーカーが多いことがわかります。しかし、キャリア形成に向けた学びには多くの課題があることが、今回の調査からわかりました。

現業に意識や時間をとられ、学ぶ余裕がない

先ほどご紹介したように、「キャリアに向けて学びの時間を設けていますか?」という質問に対して、「設けているが、かけている時間は不十分」と「本当は設けたいが、設けられていない」と回答した人の合計は7割と、かなりの割合に達しています。

そこで、学びの時間や機会がとれない理由を質問してみると、「残業はそれほどでもないが、仕事がハードで疲れきってしまう」と「残業が多く、時間がない」を挙げた人が目立ちました。今後のキャリアを形成するうえで学びが重要だとわかっていても、心理的・物理的に学ぶ余裕がない人も多いと考えられます。

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自社が提供する「学び」に不満

勤務先から提供される研修は、時間や予算に限りがあるワーカーにとって貴重な学びの機会です。実際、「会社から提供される研修の機会は重要だと思いますか?」という質問に対して、「とても思う」と「まあ思う」と回答した人の合計は約9割に上り、ワーカー自身も自社提供の研修に価値を見いだしていることがわかります。

しかし、「自社提供の研修に満足していますか?」と聞いたところ、「とても思う」と「まあ思う」の合計は8割未満にとどまりました。
満足度8割は決して低くない数値ですが、ワーカーが感じる「重要度」と「満足度」との間に開きがあるとなると、「ワーカーが求める学び」と「企業が提供する学び」にズレがある懸念は否定できません。

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学びに対して「受け身的」である

自社から提供される研修に関して意見を聞いてみると、満足を感じるポイントとして「会社が設定してくれるため、仕事との調整がしやすい」や「研修の内容が自分の学びたいレベルに合っている」を挙げた人が多数みられました。
気になったのは、「会社推薦なので、自分のキャリアビジョンに必要だと思う」「自分だけだと、何を学んでいいのかわからないから」「会社が設定してくれているので、自分のキャリア形成には十分だと思う」と回答した人がそれぞれ2~3割いたことです。

今は、変化が激しく予測が難しいVUCAな時代。急に仕事がなくなる可能性もあります。また人生100年時代が到来しつつある中で、一社で務めあげて終わりではなく、転職やセカンドキャリアを見据えたスキルアップが求められます。しかし今回の質問に対する回答からは、「学ぶことによって自分のキャリアを形成する」というより、「会社から提供される研修に自分のキャリアビジョンをフィットさせる」といった、やや受け身的な姿勢がうかがえます。

先述したように、自社の研修に対するワーカーの満足度は、今回の調査では約8割とある程度高めでした。しかし、受動的な学び方では、身につく内容も限られてしまいます。企業側には、社員が求める研修内容を常に検証していくことが求められています。

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まとめ

今回の調査結果において懸念を感じたのは、「キャリア形成のために学びたい気持ちはあるが、時間を費やすことができない」とジレンマを感じているワーカーが多くみられたことです。「学びに費やせる時間」と「キャリア形成に必要だと感じる理想の学習時間」を解析したところ、約57%の人は「現状よりもっと学ぶ時間がほしい」と考えていることが明らかになりました。

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学びに対して意欲的なのはすばらしいことですが、「学ぶ時間が足りない」という焦りはワーカーの自己肯定感低下につながりやすく、ひいては生産性にもマイナスの影響が及ぶ恐れがあります。

しかし、あえて学びの時間をつくらずとも、真剣に働く多くのワーカーは、日々の仕事を通じてたくさんのスキルや知見を得ているはずです。そこで、リーダーは部下の成長に目を配り、具体的にどんな力が伸びているのか、本人が成長を実感できるようにポジティブな指摘をすることが重要です。上司からほめられることで部下の焦燥は薄れ、充実感をもって日々の業務に取り組めるでしょう。

また企業側は、ワーカーの意欲をくみ取って新しい学びの形を設計することが今後は必要になるかもしれません。例えば、業務に直接関係はなくても従業員が望む研修を導入したり、社外人材と交流できる機会を積極的に設けてみるのもいいでしょうか。学びによって達成感を得たワーカーは、自社にエンゲージメントを感じ、モチベーション高く現業に取り組むと期待できます。



調査概要

実施日:2022.2.25 -28実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件(予備調査:4263件)

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第33回「自己研鑽に対する意識」

河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部