仕事のプロ

2023.02.14

成長に資する「学び」や「経験」の本質

学習のプロセスの最初にあるのは「衝動」

変化の大きい現代社会において、ワーカーはどのような姿勢で「学び」に向き合っていけばいいのか。立教大学助教で、働く人とチームの学習・成長について研究されている田中聡先生にお話を伺った。
※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。

登壇者

■田中聡氏(立教大学経営学部 助教)

インタビュアー:中村彩(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




学びの本質は
100年経っても大きくは変わらない

――コロナを経て入った社員とそれ以前では人との関わり方が変化してきているように感じています。アフターコロナの人材教育は、どう変わっていくのでしょうか。

2_bus_128_01.jpg 人が成長するとか学ぶというのは、人間が古来からずっと続けてきた営みであって、それほど流行廃りのある現象ではないと思っています。

「人の学びは常に経験が先にある。経験を通じて人は学んでいく」という理論がありますが、このことが提唱されて100年以上経った今でもその本質は全く変わっていません。人間の学びや成長の本質は普遍であり、変わるとしたら外部環境ですね。

例えばコロナ禍で、人の学びに必要な経験を得られにくくなったことが問題視されています。一方で、これだけ変化が激しく、同じ経験を繰り返すわけではない状況のなかで、はたして一つ一つの経験にどれだけの価値があるのか、という疑問も出てきています。

おそらく経験そのものの価値は相対的に下がっていくでしょう。ですから、これから大事になるのは、経験することそれ自体ではなく、経験を学びに生かすということです。
経験したことを愚直に振り返ったり、他者からのフィードバックに耳を傾けたりしながら、経験に対する自分なりの抽象化した考え(持論)を形成し、それを新しい環境にどう適応していくかを考え続けることが大切なのだと思います。


――経験の価値が下がってきているとはいえ、経験を積み重ねなければ成長できない...と不安を感じている人も多いと思います。成長のためにはどのような経験が必要で、より良い経験をするために工夫すべきことは何でしょうか?

成長に資する経験というのはいくつか特性があって、例えば越境学習です。ホームの外のアウェイな環境に積極的に出て行くことで、これまでの思考の枠組みに気づき、価値観を揺さぶることができます。社内で誰もやったことがない新規事業など新しい試みに手を挙げるなどは、まさにこれに当たります。

また同じ経験でも、孤独に一人で続けるより他者からのフィードバックがもらえる環境の方がいいですし、経験が他者に開かれていて、その中で繰り返し試行できるということが重要だと思います。

ただ、学習のプロセスとして、まず好奇心や衝動が先にあるはずです。自分の中にある本能的な「やりたい」とか「知りたい」といった衝動に気づけるかどうかが大事で、その衝動が駆動している間は問題ありませんが、ときめかない状態が続くのであれば、環境を変えた方がいいでしょう。

こっちの経験をしておいた方が将来のキャリアに有利だとか、仕事で成功しやすいといった打算で選ぶのではなく、自分の「内なる声」に従って選んだ方が、結果的に学びや成長につながっていくと思います。


――経験ではなく衝動が重要ということですが、心動かされることの見つけ方も重要だと思います。

自分と向き合う一人の時間を持たないと衝動は生まれません。SNSなどの繋がりから離れ、リコメンドの影響を受けないところで「自分が知りたい、やりたいことは何か」という問いから目を背けずに、一人で真剣に自分と向き合う時間を持つことは非常に重要です。そこから「誰から反対されても自分はこれが好きだ」と言える、自分軸を持つことに繋がっていくはずです。




人は本来新しいことが好きな生き物。
新しいことに挑戦させ、思い切り失敗した経験を認める

――好きなものを見つけるためには、自分の視野を拡げてみることも大切だと思うのですが、自分の枠を出ることに躊躇する社員も多いと思います。視野を拡げる機会をどうつくってあげればいいのでしょうか。

赤ちゃんを見ているとわかるように、人間は本来新しいことが好きなはずなんです。だからちょっと青臭い言い方かもしれませんが、経営や人事も含めて、周りの人がそういう個人の可能性を信じ切ってあげて、積極的に新しいことに挑戦したことを評価していく。
さらにそこで思い切り失敗した人にこそ、次のキャリアは一段上のステージに上げるという仕組みをつくること。

「積極的に新しいことにチャレンジしましょう」と言葉で啓蒙するよりも、たとえば実際にチャレンジして失敗した人にセカンドチャンスを与えるといった具体的な仕組みをつくることのほうがはるかに効果的です。

ある企業では新規事業の起案件数だけじゃなく、失敗や敗者復活の件数もKPIとして設定しているそうです。新しいことって大変だしつらいけれど、慣れ親しんだ環境を出たら毎日刺激や面白いことがたくさんあって、事業自体はうまくいかなくても評価されたと感じられて、この失敗は会社にとって貴重な学習だよと言ってもらえたら「自分はがんばったんだな」と思える。
そういうサイクルや事例をどれだけ会社がつくっていけるかだと思います。

※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。



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田中 聡(Tanaka Satoshi)

立教大学経営学部 助教。専門は人的資源管理論(人材マネジメント論)。「新規事業における人材マネジメント」などを主なテーマに、働く人と組織が成長・学習を研究している。著書は『「事業を創る人」の大研究』)(クロスメディア・パブリッシング)。

中村 彩(Nakamura Aya)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルリサーチャー
2018年コクヨ入社。働き方のコンサルティング業務のほか、社内社外セミナー、新人研修企画などの活動にも着手。

作成/MANA-Biz編集部