仕事のプロ

2023.02.24

社員が幸福に働くための健康経営とは

社員の健康に投資する企業であることが選ばれる条件に

テレワークの導入で時間や場所に囚われなくなり生産性が上がったと感じる人もいる一方で、コミュニケーション不足によりメンタルヘルスに不調を来し苦しむ人もいる。ウェルビーイングが実現され、働き手の幸福度が向上する社会とは一体どういうものなのか。経済産業省でヘルスケア政策担当として「国立行政法人日本医療研究開発機構」や「健康経営銘柄」等の立ち上げに従事されてきた藤岡雅美さんにお話を伺った。
※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。

登壇者

■藤岡雅美氏(経済産業省 ヘルスケア産業課 総括補佐)

インタビュアー:阿部みどり(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




健康経営に取り組むことが
優秀な人材の確保につながる

――「健康経営」と似たものとして「ウェルビーイング」がありますが、その違いはどう捉えればよいでしょうか。国も健康経営を後押ししていますが、企業にとって取り組む目的はどんなところにありますか。

2_bus_129_01.jpgウェルビーイングは心身ともに良好で充実した生活を送るための自己実現の支援という多義的な意味があり、健康はその重要な一つの要素で、内包されていると言えます。そういった中で、健康経営では、社員やその家族の健康にフォーカスして、企業の成長に向けた取組を推進しています。

一般的には社員の健康増進に取り組むことで社員のモチベーション向上や生産性向上といった組織活性化につながり、その結果、業績や株価が向上するといった好循環が生まれると期待されています。

また、健康経営に力を入れている企業だと広く認知されるようになれば、優秀な人材の確保や離職率の低下にもつながるでしょう。企業の保険料負担が減るといった単純な話ではなく、企業が成長していくために、人的資本である社員に熱意を持って働いてもらうための取り組みであると言えます。


――具体的にどんなことに取り組むかは、それぞれの企業文化や経営方針に合わせて「自社にとっての健康経営とは?」と考えるべきだと思いますが...

そうですね。正解も特効薬もないので、手探りでやっていくしかないというか、やはり経営と社員が対話していくしかないでしょう。
マネジメントでも1on1やコーチングが大事だと言われていますが、要は部下に興味を持ち、向き合うことが大切だということです。社員におもねる必要はありませんが、健康経営は社員が一番パフォーマンスの高まる働き方を実現できる環境を整えるための投資であり、企業の経営戦略としてやるべきことだと思います。

また、幸せに働くためには、好きなことに取り組めることが一番影響しているように思います。最初から自分の好きな仕事じゃなくても、経験を重ねる中で少しずつアジャストして、シフトしていけばいい。キャリアを考えることは大切ですが、この会社に入社してここに配属されたからもう自分にはこの道しかないなどと思い詰めず、もう少しラフに考えてもいいのかなと思います。




ヘルスケアに投資することが
企業にも大きな利益に

――「健康経営」という新しい市場をつくられたのには、どのような背景があったのでしょうか。

健康が大事だということに反対する人は誰もいないと思うのですが、一方でヘルスケアにお金を払いたいと思う人もいないんです。病気になってしまったら当然治すためにお金を払うし、しかもそれは7割引でやってもらえる。でも健康であり続けるためにお金を払う人や、何かをすることに価値を感じる人がどれだけいるかというと、難しいんですよ。だから健康の価値をどう再定義して多角化していくか、健康を人生を充実させるための資源や能力と見てストーリーを整理しないと、そこにコストをかけようと思う人が出てこない。

もちろん健康そのものに価値を感じている人も一定数いますが、多くの場合は、試験前だから早く寝ようとか、仕事でいいパフォーマンスを発揮するために健康にも気をつけなきゃ、みたいに目的が別にあることが多い。更には、大多数の無関心な人をどう動かすかが難しい。


――健康に関心のない人に自己負担で予防させるのは難しいので、企業側に価値を感じてもらう必要があるのですね。

ヘルスケアは主にお金を払う人とサービスを提供する人、利益を享受する人が分離しているところがまた難しくもあり、面白いところです。個人ではなかなかお金をかけられない場合でも、企業に「社員が健康だと企業も嬉しいですよね、人材に投資している企業でないと選ばれなくなっていきますよ」と認識して投資してもらえるような動きをつくることができるのではないか。
だから企業が経営戦略として健康に価値を感じて投資し、社員が好きな仕事に没頭できる流れをつくろうと、健康経営の浸透に取り組んできました。




自然と「健康」が埋め込まれた
社会になればいい

――健康経営も含めてヘルスケアはこの後どう展開していくとよいのでしょうか。

健康経営っていう言葉の響きだけに捕らわれてあまり使われない相談窓口をつくるより、マインドフルネスでもコーチングでも、ラベルは何でもいいので、まずは興味を持ってもらう、一歩を踏み出してもらうことが大切です。

健康だけでなく、エンゲージメントや生産性向上の両輪を回すための施策として取り組むべきだし、職域に限らず社会全体に健康が埋め込まれるといいなと思います。WHOが「Health in all policies」といってすべての政策に健康の視点を入れるということを提唱していますが、普通に生活していれば自然と健康になれる状態が理想ですね。

※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。



書籍紹介

LEAP THE FUTURE 未来の常識を跳び越える「働き方」(プレジデント社)

【書影】コクヨさま『LEAP THE FUTURE』.png 「2030年」という未来に焦点を置いて、それまでにどのような働き方を実現しているかを予測・考察した1冊。高齢化や労働力不足が深刻化していく未来を見据え、企業の仕組みや風土を変えるには今からアクションを起こしていく必要があると考え、現代の働き方を取り巻くさまざまなデータをもとに、足元の課題を分析し、解説します。また、そこから各分野で活躍する見識者と意見を交わすことで、これからの時代を明るく照らす、新たな発想へとつなげています。https://www.amazon.co.jp/dp/4833452200




藤岡 雅美(Fujioka Masami)

経済産業省 ヘルスケア産業課 総括補佐。2010年に経済産業省に入省し、「健康経営銘柄」などの立ち上げや「働き方改革」や「子育て政策」に従事。厚生労働省に出向し、公衆衛生政策に従事した後、現職としてヘルスケア政策全般を担当。

阿部 みどり(Abe Midori)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
これからの変化の激しい時代の中で、働いていく『人』に焦点をあて、個の力の成長と企業の力を組み合せる事で、力を発揮し合える環境整備のお手伝いをしている。その為に、きちんと個人に寄り添う事を大切にし、それぞれのお客様に適した『働き方』を一緒に考え、整理し、目指すべき姿を具体化。一人一人が企業と共に輝ける働き方の実現に向けてサポートしている。

作成/MANA-Biz編集部