仕事のプロ

2023.03.14

イノベーションを生み出す組織づくり

関係性の中で安心して失敗しながら新しい価値を生み出していく

日本の経済成長のためには新しい価値創造が急務となっているが、日本のイノベーションのインパクトは弱まっている。かつて「ものづくり大国日本」と言われたこの国はこれからどんな強みを活かして創造性を高めていけばいいのか、神戸大学大学院経営学研究科准教授である吉田満梨さんにお話を伺った。
※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。

登壇者

■吉田満梨氏(神戸大学大学院経営学研究科 准教授)

インタビュアー:五反田萌(コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント)




イノベーションの定義とは?

――イノベーションという言葉は使う時に人によってイメージが違うに思いますが、改めてどういう定義だと捉えるといいのでしょうか。

2_bus_131_01.jpg100年ほど前にJ.A.シュンペーターが『経済発展の理論』を著して以来、一般的に言われているのが「経済的な成長の非連続性をもたらすような新結合」という定義ですが、技術や新しい製品に限らず、社会に新たな価値をもたらす創造はすべてイノベーションと言えます。

例えば新しい販路を開拓する、新しい売り方をつくる、あるいはこれまでにない人との関わり方や組織のあり方なども含めて、広い意味で捉えることができます。

ただ、重要なのは、非連続な発展をもたらしたという結果に対してのみイノベーションと呼ばれること。つまり、アイデアそのものの新規性ではなく、受け手にとって新しさや価値があるということが重要です。

例えば、個人としてイノベーションの実践に取り組むことを目指す私のビジネススクールの授業では、社会人の方々と議論した結果として、「ありたい自分であり続けるために世界に働きかけるプロセスの成果」をイノベーションと位置づけています。つまり、こうありたいという個人の「WILL」と、誰かにとっての「ありがとう」、すなわち社会的価値の接点にあるのがイノベーションだという考えです。




日本の強みを活かして
イノベーションを生み出す

――ではイノベーションにおける日本の強みはどんなところにあるのでしょうか。

日本社会では他者の視点が重視されがちで、他の人との関係性の中で新しい価値をつくっていくことは得意なのだと思います。カリスマ的な個人だけではなく組織やチームでこれまでもさまざまなイノベーションが生み出されてきました。全く新しい価値を0からつくるよりも、目の前の無視できない課題や他者の思いを一緒に解決していく方が、日本は得意なのかもしれません。

そうした社会的な課題、他者にとっての価値を自分事として捉え、自分のWILLと結びつけて追求する行動の結果として、大きなイノベーションが生まれることもあります。0から1のスタートアップが海外よりも少ないことばかりを自虐的に捉える必要はなく、経営技術や組織づくりなど日本の強みを活かしたやり方で、イノベーションを生み出していけばいいのだと思います。その際には、個人の思いや情熱に突き動かされた新たな取り組みを、それまでの組織のやり方が潰してしまわないことが重要です。


――これから先は、どんな人がイノベーションを起こしていくのでしょうか。

未来は予測困難であり、結局人間の行為によってしか生み出すことができないため、新たな未来をつくり出すことにコミットして行動を起こすこと自体が大切だと思っています。結果としてそうした新しい未来をつくる人がイノベーターと呼ばれますが、私はあらゆる人がイノベーターになれる潜在性があると思います。

何千億円規模の新産業をつくり出すといった大きな話だけではなく、自分と他社にとって意味のある行動を起こす人が一人でも増え、それが新しい現実をつくっていくのであれば、それは十分にイノベーションであり、そうした実践者はイノベーターと呼べるでしょう。




個人の「WILL」と企業のリソースが
イノベーションの源泉

――どういう組織であることがイノベーションを生み出すうえで必要なのでしょうか。

個人のWILLをうまく引き出し、企業が既に持っている資源や目的と統合させることが必要なのだと思います。組織はイノベーターにとっての新しい未来を共創するパートナーであり、個人が自分でも気づいていなかった自らの資源の価値や可能性を引き出してくれるという意味でも大切です。

逆に、企業側でも自分達が既に持っている技術や余剰資源の潜在的価値に気づいていないケースも案外多いのです。自分たちにとっては当たり前の技術や製品でも、それに対して新しい人々と結びつくことで新規の価値を生み出したり、違う目的を設定することで重要な資源として認識されたりするものもたくさんあるはずです。

イノベーションを生み出せるかどうかは不確実であり、計画通りに進むものでもないので、期待した結果が出なくても白紙に戻すのではなく、活用できる資源を拡張しながら、新しく実行可能な具体的行動につなげていくことが非常に重要ですね。

※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。



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吉田 満梨(Yoshida Mari)

神戸大学大学院経営学研究科 准教授。専門はマーケティング。「非予測的コントロール」に基づく思考様式(エフェクチュエーション)に関する理論的・経験的研究を行っている。著書に、『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣)、『デジタル・ワークシフト』(産学社)、訳書に『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』(碩学舎)。

五反田 萌(Gotanda Moe)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
建築学科を卒業後、2015年、空間デザイナーとしてコクヨへ入社。オフィス設計を手掛けたのち、若手社員を起用した「品川SST構築プロジェクト」に参画。今後のワークスタイル設定などを担当したことをきっかけに、ワークスタイルイノベーション部へ異動。空間や働き方に加え、社員のマインドアップ策定など、多面的にオフィス改革をサポートする。

作成/MANA-Biz編集部