仕事のプロ
日本の「働く」環境の現在地
3.地球規模の課題解決と企業の成長
2022年12月。MANA-Bizのこれまでの活動の集大成として、発刊した『LEAP THE FUTURE ~未来の常識を跳び越える「働き方」』(プレジデント社)。この本の制作にあたって、未来の働き方を考察するためにさまざまなデータを紐解いていくなかで、印象に残ったデータや社会の変化について、編集長の所感を3回連載で紹介します。第3回目は「地球規模の課題解決と企業の成長」と題し、「気候変動問題」「SDGs」の視点でまとめました。
世界的に深刻化する気候変動問題
地球環境に大きな影響を及ぼす社会経済活動は、一方で自然資源や生態系の恵みを利用して成り立っています。そして今、気候変動の影響を受けて世界中でさまざまな問題が浮き彫りになっています。
地球上に存在する氷のうち、約90%が南極大陸の氷河・氷床で占めていると言われていますが、南極の氷が急速に溶けて海面が上昇したことで、小さな島国が海に沈みかけているというニュースはとてもとてもショッキングです。また、それ以外にも、洪水や豪雨などの自然災害、ヒートアイランド現象、食糧不足や水不足、インフラ機能停止、生態系損失など影響は多岐にわたります。
- 海面上昇で日本の砂浜の9割は消滅?
このまま化石燃料を使い続けると、最悪のシナリオでは2100年には地球の平均気温が4.8度上昇し、海面も最大82センチ上昇すると予測されている。仮に1メートル海面上昇すると日本の砂浜の9割は消滅、東京では江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受けることに。 - 経済活動による温室効果ガスの排出量は減少傾向
パリ協定で日本は「2030年の温室効果ガス排出を46%削減する(2013年度比)」と世界的に見ても高い目標値を掲げている。日本のCO₂排出量の約8割は産業、運輸、業務その他の3つの分野で占められており、近年企業努力もあって排出量は減少傾向にあるが、家庭部門での排出量はやや増加している。 - 目標達成のためにはエネルギーミックスが必須
日本のエネルギー政策の基本方針は「安全性」を大前提としたうえで、「エネルギーの安定供給(自給率11.8%→25%程度)」「経済効率性(電力コスト9.7兆→9.2~9.5兆円)」「環境適合(2013年度比―26%という温室効果ガス削減目標を達成)」も同時に達成すること。そのためには化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーなどを増やすエネルギーミックスの実現が不可欠だ。※( )内は2030年に向けた達成目標。
日本でも世界でも自然災害による甚大な被害が頻発し、個人視点でも異常気象による猛暑、春や秋の時期が短くなり、年々季節感が薄れていくのを実感しています。ただ、気候変動の影響が年々深刻化しているという感覚はあっても、「今年もか...」という慣れや「自然のことなので...」とどこか他人事に考えてしまいがち。個人レベルでは企業任せ・国任せにし、企業レベルでは利益優先の後回し、国レベルでも環境先進国に比べて対応が不十分なように感じます。
特に、個人レベルでの危機感の薄さに課題を感じています。企業規模ではカーボンニュートラルに向けて、CO2排出量の削減策や再生可能エネルギーの利用、生物他多様性に配慮した緑化施策など、取り組みは活発化しつつあります。ただし、仕事としては重要課題と認識しつつも、一個人としての危機感が薄く、環境に配慮した生活習慣への改善などはまだまだ。つまり消費者視点での環境意識が低いのが現況だと思います。
しかし地球環境保全のための取り組みは待ったなしの状況。さまざまなデータから見えてくる地球環境の状況を知るにつけ、まずは日本人一人ひとりが「危機感」を持つこと、そのためにも、企業には消費者の意識を高めることも求められていると感じてました。
持続可能な循環型社会、SDGs市場
エネルギー自給率の低い日本で2030年までに削減目標を達成するためには、大量生産・大量消費を前提とした経済活動の中で廃棄されていた製品や原材料を資源と考え、リサイクル・再活用し、資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」のシステムに変えていく必要があります。
温暖化防止という世界規模の課題に対して日本は何をすべきなのか...、その責任は政府だけでなく企業にも問われています。そして、ESGやSDGsに対する姿勢は、今では国や企業に対する信頼に直結するほど重視されています。
- 循環経済(サーキュラーエコノミー)実現に向けて
循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、資源の有効活用や廃棄物の削減などを通じて、付加価値を生み出しながら持続可能な経済システムを構築することを目的とした経済モデル。シェアリングエコノミーもその一例で、近年さまざまなシェアサービスが普及し、所有から共有へと消費者の意識も確実に変化している。 - SDGsランキングは3年連続ランクダウン
2022年度の日本のSDGsランキングは世界165か国中19位と3年連続ランクダウン。「深刻な課題がある」とされる目標は「5:ジェンダー平等」「12:つくる責任つかう責任」「13:気候変動対策」「14:海の豊かさ」「15:陸の豊かさ」「17:パートナーシップで目標を達成」の6つ。「12:つくる責任つかう責任」の評価を下げた要因として、電子機器の廃棄量やプラスチックごみの輸出量が多いことが挙げられる。 - SDGs市場は高いポテンシャルを秘めている
国連開発計画(UNDP)では、SDGsを環境・社会課題の解決だけでなく、経済成長のためのイノベーションドライバーと捉えられている。SDGsに向けた取り組みが進めば2030年までに最大12兆ドルのビジネスチャンスが生まれる可能性があり、創出される雇用は世界で約3億8000万人と推計される。
「持続可能」「サーキュラー」「SDGs」という言葉はMANA-Bizでも頻繁に取り上げてきましたが、ビジネス上の会話の中でもよく聞くようになりました。環境に対して「何かやらなければ...」という意識は高まり、さまざまなチャレンジが始まっているように感じます。
ただ、「局所最適が全体最適にもなっているのか」という視点も必要だとも思うのです。例えば、ペーパレス化を森林資源の保全視点で語れば良策と言えても、紙をデータに置き換えることでサーバー容量が増大し、そのための維持エネルギー量増となれば、天然資源問題やCO2排出問題へとつながる可能性もあります。
環境保全のためのチャレンジや対策は早急に必要ですが、全体で見た時の方向性を間違えていないかは常に意識する必要があります。
また、気候変動問題のところでも触れましたが、個人レベルでのSDGsへの意識の低さが日本の課題だと感じています。環境に配慮するためにはこれまでのやり方を変える必要があり、そのたにはコストが発生し、商品やサービスの価格に転嫁されます。ですので、消費者の意識が変わり「少し高くても環境負荷の少ない商品・サービスを選ぼう」とならなければ、SDGsの目標達成は難しいでしょう。ここで重要なのがパラダイムシフトです。環境に良いことは私たちがより良く暮らす社会をつくることでもある。だからSDGsは「我慢」ではなく「楽しむこと」だと。
自分ファーストから地球ファーストに意識を変えていくには、教育も大きな影響があるはずです。課題全体を俯瞰したうえで産官学民が連携・協力していくことも2030年のSDGs目標達成に向けて不可欠だと強く感じました。
書籍紹介
LEAP THE FUTURE 未来の常識を跳び越える「働き方」(プレジデント社)
栗木 妙(Tae Kuriki)
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部MANA-Biz編集長。働き方のトレンドリサーチ、コクヨのオウンドメディア『MANA-Biz』を運営。専門はダイバーシティ&インクルージョン。