仕事のプロ
日本の「働く」環境の現在地
2.2030年に向けて深刻化する国内問題
2022年12月。MANA-Bizのこれまでの活動の集大成として、発刊した『LEAP THE FUTURE ~未来の常識を跳び越える「働き方」』(プレジデント社)。この本の制作にあたって、未来の働き方を考察するためにさまざまなデータを紐解いていくなかで、印象に残ったデータや社会の変化について、編集長の所感を3回連載で紹介します。第2回目は「今後深刻化する国内問題」と題し、「2030年問題」「ダイバーシティ&インクルージョン」の視点でまとめました。
現実化が目前に迫る「2030年問題」
「2030年問題」とは人口減少、少子高齢化といった2030年に表面化すると言われる日本が抱える慢性的な課題の総称です。労働力不足は必須で、2040年には労働者の供給不足が1100万人を超えるという予測も出されています。少子高齢化による人口減少に比例して国内需要も縮小するなか、社会保障費の負担増は雇用や家計への影響も大きくなるのは明らかです。
- 今後日本の労働力は確実に人手不足の一途をたどる
日本と世界の人口予測推移を見ると、世界の人口は大きく増加していくのに対して、日本は減少の一途をたどる見込み。1100万人の労働力不足になるという予測では東京以外の都道府県すべてで担い手不足となり、最も深刻と予測されている京都では39.4%という高い不足率が見込まれている。職種別では、サービス業、運送業、医療・福祉業などの人材不足がより深刻化し、現状のサービスレベルを維持するのは難しくなることが懸念される。 - 黒字でも後継者がいなければ倒産に追い込まれる
中小企業の後継者不足は深刻な課題で、後継者がいないために倒産する中小企業も出てきている。2020年の調査では約65%の中小企業で後継者不在、60歳以上の経営者の半数が将来的な廃業を決めており、その理由の約3割が「後継者難」だ。 - 膨らみ続ける社会保障費が国の財政を圧迫
2022年の一般歳出に占める社会保障関係費の割合は58%。2000年の35%からうなぎ登りに増え続けている。131兆円の内訳は、半分が年金、約3割が医療。今後さらなる高齢化が進むと負担はさらに増加する。
企業規模や業界によって差はあるものの、労働力不足はすべての事業体にとって深刻な問題になりつつあります。働き方改革など働く環境の改善、多様な人材の登用によって、新たな人材確保を進める一方で、テクノロジーの活用による省力化を行うなど、対策は取られていますが、今後予測される労働力の不足数に対して現状の策は決して十分とは言えないと感じています。
少子化対策についても、いまだに出生数は減少の一途。2022年にはついに80万人を切ったというニュースに危機感を抱いたのは私だけではないはず。この数字は、これまでの政府も含め行政の対策、そして企業側の対策も十分ではなかったことを物語っています。
一方でフランスなど家族政策に多くの予算を投じてきめ細やかな支援を行い、出生率改善に一定の効果が出ている国もあります。2023年1月、岸田首相が「異次元の少子化対策」として、子ども予算を倍増する「骨太方針2023」を打ち出していますが、たとえ予算が倍になったとしても、これまでと同じ方法では成果は望めないでしょう。それこそ異次元の対策を今すぐにでも始めなければならないのです。
根深く残る「格差」
労働力確保の施策や「女性活躍推進法(2015年)」により、女性の就業率の一時的な低下(M字カーブ)は好転しつつあります。また、「働き方改革推進法(2018年)」により、人材の多様化を推進すべく働く環境の整備も進められています。ただ、労働力として人材が多様化しても、「格差」は未だに存在しています。
- 女性活躍推進法制定後も、変わらず女性が活躍できていない
「ジェンダーギャップ指数」を見ると、日本は146か国中116位、G7の中では最下位(2022年度)。教育や健康分野では世界トップクラスなのに対して、経済・政治参画のスコアが非常に低く、女性が企業や社会の中で力を発揮できていないことが浮き彫りに。 - 女性は男性と比べてまだまだ賃金が低く、非正規雇用の割合も高い
2021年の男性一般労働者(正社員・正職員)の給与水準を100とした時の、女性一般労働者(正社員・正職員)の給与水準は75.2。国際的に見ても日本の男女間賃金格差は大きいのが現状。女性の就業率は上がっているが、2020年度の非正規雇用の割合も男性が22.2%に対して女性は54.4%。役職者に占める割合も、上位の役職ほど女性の割合が低くい。 - 外国人労働者は増加しているものの、期限付き
外国人労働者は2022年10月時点で過去最高の182万人に増加。ただし、卸売業や小売業、製造業でのアルバイトや技能実習生が占める割合も多く、期限があるため長期視点での人材安定にはつながりにくいのが現状。 - 賃金格差や独自の慣習になじめず、外国人労働者に不人気に
日本人と同じ職種でも外国人の平均月収は4.6万円安く、賃金格差が存在する。特に技能実習生の賃金水準は低く設定されている。また、転職を繰り返すことでキャリアアップをねらうのが一般的な外国人労働者にとって、年功序列など日本独自の慣習や制度がネックになる場合も。「各国の駐在員が住みたい国ランキング」などでも働く環境として日本は不人気。
雇用形態、業務内容、賃金などにおいて男女格差は根強く、女性活躍の成果もイマイチ。深刻な人材不足の到来を前にしても、格差の是正に真剣に取り組む企業はいまだ少ない印象です。また、日本は先進諸国と比べて年収が低いうえ、外国人労働者の賃金はさらに低く設定されているなどデメリットが多く、労働市場としての魅了が弱いこともデータから明らかになっています。
少子化が進んでいるのは先進諸国も同様なため、今後ますます人材獲得競争にさらされるのは明白。国内の優秀人材が海外に出ていく傾向も出始めている現状をふまえると、強い危機感を持たなければ...とも感じます。
労働力不足への対策も少子化対策も、どちらもまだまだ解決すべき課題があるのだと改めて実感し、まさに異次元の改革が必要なのだと思うと同時に、もっと広い視野で策を考える必要性を強く感じました。人材の流動化がすでに世界規模で起こっていることを考えると、国内だけに目を向けた策では不十分。評価や待遇をグローバル化し、世界基準で働き方や働く環境をアップデートさせていく必要があります。
また、これからますます複雑化する社会の中で企業が成長していくためには、多様な人材の協働によって新たな価値を創造していくことが不可欠になります。だからこそ多様な人が働きやすい環境に、企業が、社会がアップデートしていくこと重要なのだと思います。
第2回目は、日本国内の働く環境に関する課題についてお伝えしました。次回は気候変動など、地球規模の課題について考察していきたいと思います。
書籍紹介
LEAP THE FUTURE 未来の常識を跳び越える「働き方」(プレジデント社)
栗木 妙(Tae Kuriki)
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部MANA-Biz編集長。働き方のトレンドリサーチ、コクヨのオウンドメディア『MANA-Biz』を運営。専門はダイバーシティ&インクルージョン。