仕事のプロ
「日経ニューオフィス賞」に見る新しいオフィスのあり方とは?
新しい働き方は「型・場・技」で実現する
「日経ニューオフィス賞」とは、日本経済新聞社と一般社団法人ニューオフィス推進協会が主催するオフィスのコンテスト。多角的な視点から審査され、もっとも優れたオフィスには「経済産業大臣賞」が与えられる。2023年で第36回を迎える同賞について、企業にとっての受賞メリットから受賞案件から見えてくるオフィスのトレンドまで、コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタントの立花保昭が解説する。
日経ニューオフィス賞とは? 審査の7つの視点
日経ニューオフィス賞は、創意工夫を凝らしたオフィスを増やすことを目的に、一般社団法人ニューオフィス推進協会が中心になって行っているものです。毎年、130〜150件ほどの応募があり、一次審査(書類審査)、二次審査(現地審査)を経て、15件前後が「ニューオフィス推進賞」に選ばれます。さらに、その中から1件が「経済産業大臣賞」、3〜4件が「クリエイティブ・オフィス賞」に選ばれます。応募案件のレベルは年々上がってきており、各賞とも簡単に受賞できるものではなく、オフィスの基本計画段階からエントリーを視野に入れておくのが一般的です。 審査は、次の7つの視点で行われます。 ① ビジョン体現 ② 居心地の良い空間(ウェルビーイング) ③ 五感 ④ 地域活性化 ⑤ サステナブル ⑥ セレンディピティ ⑦ オンリーワン(他にないもの)
ビジョン体現
もっとも重要なのが、「①ビジョン体現」です。企業のビジョンを体現したオフィスになっているか、企業の経営戦略に寄与するオフィスになっているかという点が、審査でも重視されます。 そのためにも、オフィスをつくる際には、最初にコンセプトを明確にすることが不可欠です。コンセプトを決め、それを実現するための働き方を決め、その働き方を実現するための「型(制度・ルール)・場(場所・空間)・技(意識・スキル)」を決めていく...というのが、あるべきオフィスのつくり方です。
居心地の良い空間・五感
そのオフィスは働く人にとって「②居心地の良い空間」になっているか、働く人のウェルビーイング向上に寄与しているか、働く人の「③五感」を刺激しているかといった観点も大事です。五感を刺激するというのは、例えば、オフィスからの眺望、自然の音やアロマ(香り)の活用、社員食堂や提供されるドリンク(飲食)の充実度などがあたります。
地域活性化・サステナブル
「④地域活性化」では、一般の人も使用できるスペースや地域貢献活動などが評価の対象になります。また、「⑤サステナブル」は、例えば、空調や照明の電力量を抑えたり、ペーパレスで働く取り組みなどが評価の対象になります。このように、日経ニューオフィス賞では、オフィスのハード面を訴えるだけでは評価されません。自分たちのソフト面の取り組みをいかにオフィスと紐づけて訴えるかが、カギになってきます。
セレンディピティ・オンリーワン
「⑥セレンディピティ」とは、ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ることを意味します。例えば、偶然見たものからアイデアを思いついた、たまたま紹介された人からヒントを得たなど、意図していない行動や出会いから新たなアイデアや解決策が生まれるような仕掛けがされているかどうかが問われます。また、「⑦オンリーワン(他にないもの)」は文字通り、その企業にしかないものです。やはり、突出した個性のあるオフィス、印象的なキービジュアルのあるオフィスは、賞に選ばれやすい傾向があります。
上記7つの視点で、快適かつ機能的なオフィス空間であるか、ナレッジや情報の運用管理ができるか、社員の感性を刺激し、創造性を向上させるか、各施策における効果が見えるかなどが評価されます。オフィス賞という名称ではありますが、オフィスという「場」だけにフォーカスしていると、受賞は難しいのが日経ニューオフィス賞の特徴です。日経ニューオフィス賞をとるメリット
企業が日経ニューオフィス賞をとるメリットは、大きく三つあります。一つめが「社外ブランディング」、二つめが「リクルーティング」、そして三つめが「インナーブランディング」です。順に解説していきましょう。
社外ブランディング
一つが、企業のブランディングです。受賞企業は日本経済新聞の紙面に掲載され、受賞オフィスの見学会なども開催されます。実際、日経リサーチの企業ブランドランキング600位内の企業のうち日経ニューオフィス賞を受賞した企業は13社あり、うち8社のブランドランキングが受賞の翌年に上がっています。
リクルーティング
企業にとってのもう一つのメリットは、リクルーティングです。一般的に、オフィスを新しくし、それを発信することで、採用面でも効果があると言われています。入社希望者が増えるため、優秀な人材が集まりやすいのです。日経ニューオフィス賞を受賞することで、さらに効果が高まるでしょう。例えば、私たちが支援したある企業は、日経ニューオフィス賞を受賞した年の就職人気企業ランキング(マイナビ)が、前年の40位台からTOP10にまで躍進しました。また、就職人気企業ランキング100位以内の企業の中で日経ニューオフィス賞を受賞したのは9社で、そのうち7社のランキングが受賞翌年以降に上がっています。
インナーブランディング
社外向けのブランディング、リクルーティングに加えて私が重要だと感じているのが、社内的な効果です。日経ニューオフィス賞の受賞により、社員のワークスタイル変革の意識の向上やモチベーションアップなどにつながります。また、会社へのエンゲージメントも向上します。 さらに、「日経ニューオフィス賞に応募したこと自体の効果」として挙げられるのが、無自覚だった自社の強みに気付き、自社への理解が深まることです。私たちが企業を支援する際は、何度もヒアリングを重ねて、どのような取り組みをしているかを引き出し、強みを見いだしていきます。そうすると、ご本人たちにとっては当たり前すぎて気づいていない強みがどんどん出てくるのです。 例えば、LGBTQの人が働きやすい環境づくりや障がい者雇用など多様性の受容が進んでいる企業、社員を大切にすることを一番に考え、若手がほぼ離職しない企業などです。代表から直々に、「自分たちにこんな強みがあったんだと気づくことができた」という言葉をいただいたこともあります。たとえ受賞につながらなかったとしても、応募のプロセスを通して得るものは大きいと言えるでしょう。
日経ニューオフィス賞から見えてくるオフィスのトレンドは?
近年のオフィスのトレンドは、社員の「創造性の向上」「パフォーマンスの最大化」です。言い換えると、社員がイキイキと働けるオフィスです。
創造性の向上、パフォーマンスの最大化のための具体的な施策は?
「場」については、業務の内容や目的に合わせて働く場を選択できる(ABW=Actively Based Working)のは大前提であり、印象的なキービジュアルを採用したりアートを活用したりするケースが増えています。例えば、会社の文化を象徴する内装デザインやオブジェ・絵画を用いたり、会社の歴史にまつわる"音"をオフィス内で流したり。創造性を高めるためにアートを導入している例もあります。 また、社員食堂を活用するケースも多く、おいしくヘルシーなランチが食べられる、おいしいコーヒーとスイーツ、焼き立てパンなどが楽しめる、夜はお酒を飲みながらイベントや部門を超えた会合ができるなど、新しい取り組みが増えています。 ソフト面では、チェンジマネジメントやエンゲージメント向上、社員の自律を促す人事制度改革などがトレンドと言えるでしょう。ABWを導入したものの、そもそも働き方を決めていなければ、社員はどこでどう働けばいいのかわかりません。働き方を決め、それを浸透させるセミナーを丁寧に実施するなど、変革のためのマネジメントは必須です。 また、エンゲージメント向上の施策も重要です。例えば、私たちコクヨでは、「笑顔・傾聴・褒める」の3つのスキルを高めるコンテンツを提供していますが、この実践を含めた施策が、社員の離職率を下げることにもつながります。オフィスというハード面の変化だけでは、新しい働き方の浸透はうまくいきません。「型(制度・ルール)・場(場所・空間)・技(意識・スキル)」の3つがそろうことが不可欠なのです。
立花 保昭(Tachibana Yasuaki)
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部 ワークスタイルコンサルタント/1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネータ
1990年コクヨ入社。出向した総合商社での大手流通業向け中国製品の開発・輸入・販売、コクヨでの開発営業、及び上海でのカタログ通販ビジネス立ち上げ等の経験を生かし、現在は企業向けの働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポート。