仕事のプロ

2023.11.16

組織の求心力を高める経営人材を育てる〈中編〉

リーダー育成の理想と課題①

組織における急務となっている「経営人材の育成」について、株式会社セルム代表取締役社長の加島禎二氏とコクヨ理事の萩原謙一郎が語り合う本記事。中編では、組織として経営人材を育てるためには何が求められるのか、現状ではどのような課題があるのかなどについて意見を交わし合った。

日本企業はリーダー育成にもっと投資すべき。
リーダーこそが、リーダーを育てる

萩原:ここからは、組織として経営人材を育てるうえでどのようなことが必要になるのかについて、話をしてみたいと思います。

加島:まず必要なのは、リーダー育成への投資を継続的に行うという経営陣の覚悟です。人材育成はすぐには結果が出ませんし、投資した人が辞めてしまう可能性もあります。それでも、投資を続けなければ良い人材は集まりませんし、育ちません。

日本企業のリーダー育成への投資額は、欧米の大企業と比べると約10分の1です。CEOが経営人材を育てるのが欧米では当たり前のスタイル。これを早く取り入れないと、日本の企業は沈没するでしょう。経営陣が、人事部が出した採用や教育の予算をただ承認しているようではダメ。今の5倍、10倍は投資しないといけないと考えています。リーダーがリーダーを育てる仕組み、組織的にリーダーを育て続ける仕組みとしてよくあるケースでは、社内に企業内大学、いわゆる「コーポレート・ユニバーシティ」の枠組みでリーダーを組織的に投資・育成していこうと、経営トップ自らが積極的に手を動かしています。

萩原:コーポレート・ユニバーシティの取り組みは一部の大企業では広がっていますね。とはいえ現状としては、リーダーを育てるという意志のあるリーダーが存在し、育成環境が整っている組織は多くないと感じています。無難に仕事をこなしていれば年功序列でリーダーになれた平和な時代は終わった一方で、そうした前世代のリーダーたちはリーダー候補生として育てられた経験がないから、リーダーの育て方がわからない方も多いのだと思います。

加島:次のリーダーを育てるのも、リーダーの役目。組織的にリーダー候補生のプールをつくって、そこからリーダー自身が次のリーダーを発掘して、育て上げる必要があります。リーダーを育てるのはリーダーであり、人事部はそのサポートをする、というのが理想の経営人材育成のあり方です。しかし、人材の採用や育成は人事主導になっているというのが多くの企業の実情です。

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「Lead the Self」から始めた意志あるリーダーは、
仲間になり得る人を見つけ、育てるマインドをもつ

萩原:現リーダーに次のリーダーを育ててほしいのは山々ですが、人事側からすると、リーダーを育てられるリーダーは少数派というのが本音です。育成のためのサクセッションプランをつくってみるものの、なかなかうまくいきません。いい人材がいても、「誰(どのリーダー)に預けたらいいんだ」となってしまうんです。

加島:ビジネスの能力は高いけど人を育てるのは苦手...となってしまう要因は、そのリーダーが「Lead the Self」からスタートしきれていないからだと思います。自分の強い意志でもって付加価値を創造したことがある人は、価値創造はワクワク・ドキドキするおもしろいことであり、自分1人では成し遂げられないこと、共創する仲間が必要なことを知っています。すると自ずと、仲間になり得る人を見つけよう、育てようというマインドになるのです。
一方、他者と競争ばかりしてきた人は、弱肉強食の世界で生きてきたわけですから、人を育てようという発想にはなりません。

萩原:なるほど、リーダーがリーダーを育てるためにも、「Lead the Self」、つまり意志の力が重要だということですね。

加島:大企業には、ビジネスも組織もポジションもすでにありますが、本来は逆。原理的に言えば、組織はビジネスの手段です。「どんなビジネスをしたいのか」が軸にあり、「そのためには何が必要か」を考えて人材や組織が生まれます。
1人ではやりたいことが実現できないから、助けてくれる人を集め、組織をつくるわけです。大事なのは、リーダーが「〜がしたい」という意志に基づいて、人材や組織を「つくる」感覚をもつこと。すでにできあがったものや基準を守っているだけでは人は育ちませんし、そういうリーダーには人はついて行きません。

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採用権を人事が握るのではなく、
リーダーに解放するのが理想

萩原:与えられたものをただ守るのではなくて、自分でビジネスをつくっていける人が、リーダー候補生になるということでもありますよね。しかしながら、採用面接時には、自分でつくっていける人かどうかは、なかなかわかりません。人事担当としていろいろと試行錯誤をしてきましたが、やはり一定数しかヒットしないんです。

いい人材だと思ってもすぐに辞めてしまったり、少し尖った人を採用したら現場からは扱いづらいと言われたり、逆に中庸なタイプを入れたらおもしろくないと言われたり...。

加島:人事が採用権を握るのではなく、リーダーに解放するべきだと思います。私自身、関西支社長を務めていたときは、自分で採用をしました。採用に携わると、自分たちに共鳴して入社してくれた人をどう幸せにするかを、本気で考えるようになるのです。

萩原:みんなが加島さんのようなリーダーならいいのですが(笑)。採用権を渡したほうがいいリーダーもいるけど、そうではないリーダーもいる...というのが人事のジレンマであり採用現場の実情です。
規模の大きな会社になればなるほど、事業領域も広がりますし、現場のリーダーが直接採用に携わるのは容易ではないと感じます。セクションごとに人材を採用するという方法もあると思いますが、新卒採用の場合は、学生がセクションを選んでうえで応募するというのは現実的ではありません。悩ましいですね。




加島 禎二

(株)セルム代表取締役社長。 1967年、神奈川県生まれ。上智大学文学部心理学科卒業。1990年に(株)リクルート映像に入社し、営業、コンサルティング、研修講師を経験。1998年に創業3年目の(株)セルムに参画し、2002年に取締役企画本部長に就任。約1,000人におよぶコンサルタントネットワークの礎を作る。2008年から常務取締役関西支社長、2010年に代表取締役社長に就任し、現在に至る。

萩原 謙一郎

コクヨ株式会社 理事 ワークスタイルコンサルタント/中小企業診断士/GALLUPストレングスコーチ  オフィス・公共空間等の設計部門を経て経営企画部に所属。コクヨ初の人材開発部長を担い、2006年から人事部長に。その後、㈱アクタス、コクヨエンジニアリング&テクノロジー㈱、国誉商業(上海)などコクヨグループ会社の経営に参画。現在はワークスタイルコンサルタントとして、人材育成を専門とする。

文/笹原風花 撮影/石河正武