レポート
無意識の特権を排除したユニバーサルデザインとは?
ヘラルボニーの当事者メンバーと共に考える
コクヨでは、「社内外のWell-beingの向上」をマテリアリティ(重点課題)の一つに掲げ、社員一人ひとりがこれを自分ごととして捉え、自律的に行動するあり方を目指している。そして、その一環として、社員に学びの場「サスティナブル・アカデミア」を提供している。今回は、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)のマインドセットを学ぶことを目的に開催された、体験型ワークショップの様子をレポートする
「社内外のWell-beingの向上」のため、 DE&Iに取り組み、社員の意識を変える
人々の幸福、健康を意味する「Well-being」。コクヨでは、「社内外のWell-beingの向上」を目指し、社内においては、ワークライフバランスの実現や新たな働き方を推進。個々人の個性を尊重して、誰も自分らしく活躍できる組織づくりを通して、Well-beingの向上を図っています。また、社会に向けては、インクルーシブデザインの商品開発を通じて、Well-being創出を目指しています。 これらの推進にあたり、コクヨでは「新しい働き方の提案」と「ダイバーシティ&インクルージョン&イノベーション(DE&I)」の2つのテーマに取り組み、社員の意識改革に力を入れてきました。今回の体験型ワークショップはその一環として行われたもの。(株)ヘラルボニーが提供する「DIVERSESSION PROGRAM」の一つで、同社の菊永ふみさんがファシリテーターを務めました。 菊永さんは、生まれつき耳が不自由で、主となるコミュニケーション手段は手話。障がいをもつ当事者の立場から、DE&Iを考えるワークショップの設計などに携わってきました。今回のワークショップでは、カードゲームの「UNO」を通して、多様性とは何か、真の平等とはどういうことか、それを実現するにはどうしたらいいかを、体験的に深めていきます。
UNOを通して、多様性とは何か、 誰もが平等に活躍でき方法を考える
ワークショップの冒頭では、菊永さんが手話通訳を通して、「今日は、目の前にあるUNOを使って、多様性とは何か、誰もが本質的に平等に活躍できるにはどうしたらいいかについて、みんなで考えていきます。みなさんの気づきのきっかけになれば幸いです」と挨拶をしました。 グループ内でのアイスブレイク(自己紹介)の後、UNOのルール説明があり、ルール確認のために試しにプレイする頃には、すっかり空気も温まりました。ここで菊永さんから、「みんなと一緒にカードゲームを楽しむ」という本日のミッションが提示されました。 このタイミングで紹介されたのが、「役割カード」。一人一枚カードを引き、一斉に表を向けます。各カードには、以下の「役割」とその役割を体感するために装着するアイテムなどが、いずれか一つ書かれています。 〈役割カード〉 ・聞こえない役:耳栓+ヘッドフォン着用 ・車いすの使い手役:座布団に座る(床にクッションを置いて座り、視線が低い状態をつくりだす) ・手が使えない役:ミトン着用 ・見えにくい役:視野狭窄メガネ着用 ・10の言葉しか話さない役:マスク着用+10の言葉しか話さない →「はい」「いいえ」「ありがとう」「わかった」「わからない」「たのしい」「かなしい」「怒った」「満足」「不満」しか言わない ・あなた自身(特に障がいや制約のない状態)
参加者は、自分が引いたカードの役になりきり、UNOをプレイします。つまり、耳が聞こえない人、車いすユーザー、手が不自由な人、視覚に障がいのある人、発する言葉に制限のある人、とくに障がいのない人が一緒にUNOをプレイするという場を擬似体験します。なお、話し合いのタイミングだけは、アイテムや制約を外して良いことになっています。障がいや制約があるなかプレイすることで、 "無意識の特権"の存在を体感する
「手が使えないのでカードが持てない」「視線が低くてテーブルの上が見えない」「感情が表現できない」「音が聞こえにくい」など、それぞれの状況を共有したうえで、前半戦として10分間UNOをプレイ。なお、前半戦では「テーブルの中央に設けられた青い枠の中でプレイする」(別の場所ではプレイできない)という条件が設けられました。
〈サポートが必要な場面がうまれる〉 ・手が不自由なプレーヤーは、カードを取ろうとするけれどうまく取れない。 →隣の人が代わりにカードを引いて渡す。 →手が不自由なプレーヤーは、渡されたカードを手で持てず、膝の上で広げるものの、作業に時間がかかる。 ・カードに手が届かない車いすユーザーを他のプレーヤーがサポート。 といったシーンが見られ、プレイ終了後のディスカッションタイムでは以下のような気づきや感想が共有されました。 〈プレイ時に感じたやりづらさ〉 ・ルールについて質問・確認がしたいけれど「わからない」しか言えず、もどかしい(10の言葉しか話さない役) ・ゲームの進行がスムーズではなくなった。動かせるのが肩から上だけで、首が痛くなった(車いすの役) ・全体的に雑談がなくなった(手が使えない役) ・聞こえづらいと、話すのが億劫になった(聞こえない役) ・互いを気にしながらゲームを進めるのに精一杯で、楽しむ余裕がなかった(あなた自身) 続いて、菊永さんは「障がいのある立場になってプレイすると制限が出てくることがわかってもらえたと思う」としたうえで、「世の中はマジョリティが決めたルールで動いていて、そこにはたくさんの"無意識の特権"がある。障がいのない人にとっては勝手に開く自動ドアを、障がいのある人は自分でこじ開けないといけない」と「無意識の特権」の存在を強調しました。 さらに、「隣の人にカードを選んでもらうなど、誰かに助けてもらいながらプレイをしていると、制限のある人は申し訳のなさから心から楽しめないと感じたかもしれない。同様に、サポートする人も配慮に気をつかうあまり、心から楽しめないと感じたかもしれない」と述べ、「無意識の特権」が及ぼす心理的な影響についても言及しました。みんなが楽しめて気持ちよく過ごせる 新しいルールや仕組みを考える
続いて行われた後半戦では、「どんなルールや進め方ならみんなが楽しめるか、気持ちよく過ごせるかを考え、新しいルールを考えてみる」というグループワークに取り組んだうえで、役割カードを引き直し、新ルールでUNOをプレイしました。なお、前半戦にはあった「テーブルの中央に設けられた青い枠の中でプレイする」という条件はなくし、用意されたアイテム(紙とペン、ふせん、紙皿、椅子、レジャーシート、マスキングテープなど)を自由に使うことができます。 〈アイテムを使った工夫〉 ・全員がレジャーシートに座り、車いすユーザーのハンデをなるべく小さくする。 ・紙皿とテープを使って、手が不自由な人も手札を見やすいようにする。 ・聞こえない人や言葉に制約のある人のために、ふせんに色の名前を書くなどして、指差しで伝えられるようにする。 ・最後の1枚になったときに発する「UNO!」は、声ではなく手を挙げる/ジェスチャーをする。 といったルールをグループごとに決め、プレイ。前半戦よりもスムーズにゲームが進むグループが多く、メンバーの表情も心なしか明るく、笑顔も増えたように感じられました。 ゲーム終了後には、菊永さんが「ルールや仕組みを変えてみることで、多様な人々と一緒に楽しめる可能性が広がる」とコメント。商品開発時に求められる「ユニバーサルデザイン」や「バリアフリー」の視点について、次のように述べました。
「誰もが平等に使えるのがユニバーサルデザイン、障がいのある人の制約を埋める、つまり周囲に合わせるのがバリアフリーの考え方です。今回のアイテムで言うと、みんなで同じように座れるレジャーシートはユニバーサルデザインで、車いすユーザーの人の椅子を高くするのはバリアフリーに当たります。私は補聴器をつけていますが、これは聞こえる人に合わせたバリアフリーです。一方、私は手話を使いますので、もしみなさんが手話を覚えてくれたらとても助かります(が実際にはそうなっていませんよね)。障がいのある・なしに関係なく一緒に使えるというのが、ユニバーサルデザインの考え方です。ユニバーサルデザインの視点をもって商品設計ができているかどうか、みなさんにもぜひ意識していただきたいと思います」支援・被支援ではなくフラットな関係で みんなが気持ちよく過ごせるためには?
続いて、最後のワークショップへ。「助ける・助けられる」ではなくフラットな関係でみんなが気持ちよく過ごせるためには、どのような仕組みを構築したらいいのか......という問いを柱に、「働く・学ぶ・暮らす」の3つの具体的なシーンにおける企画案をグループごとに考えました。 〈働く〉 1月の中期計画発表に伴い、部門横断の新プロジェクトが発足しました。メンバー10人(そのうち障がいのあるメンバー4人)が招集されました。PJ名「多様性あるチームメンバーのコミュニティをサポートする」です。あなたは、PJリーダーとしてキックオフの15分のアイスブレイクを検討しています。アイスブレイク内容について考えてください。 〈働く〉 2030年、小学校では「多様性」が取り入れられ、障がいのある方もない方も共に学び合うことが当たり前になりました。あなたは、新1年生の担任となりました。初めての授業で15分の相互理解の学びから授業をスタートします。授業の内容を考えてください。 〈暮らす〉 コクヨが運営するTOGOSHI寮で管理人になりました。寮には、視覚障がい、聴覚障がい、発達障がいなど、さまざまな障がいのある人も住んでいます。新人歓迎のコンパの幹事になりました。あなたは、どんな企画を立てますか。 全体共有の場で発表したのは、「働く」を選択したグループ。「自己紹介は苦手な人もいると思うので、みんながフラットに話せるテーマ、例えば、好きな食べ物、趣味などについて話すのがいいと考えた。また、Yes・Noで答えられるシンプルなクローズドクエッションで、犬派・猫派どっち? ごはん派・パン派どっち?などでグループ分けをして話すなど、難しいことを取り除いてフラットにできるといいという意見が出た」と共有しました。 今回のワークショップでは、平等・不平等に無自覚であったことや、世の中がマジョリティにとって都合のいいルールで動いていることへの気づきは大きかったようです。また、ちょっとした配慮や工夫によって、障がいのあるなしに関係なくUNOを一緒に楽しめた体験から、今後につながるさまざまなヒントを得ていたようです。 今後、コクヨが、「社内外のWell-beingの向上」を実践するなかで、これらの気づきが活かされることが期待されます。
DIVERSESSION PROGRAM by HERALBONY
「異彩を、放て。」をミッションに、障がいのイメージを変え、誰もがありのままに生きる社会の実現に向けて、多彩な活動を展開するヘラルボニー。「DIVERSESSION PROGRAM」は、そのヘラルボニーが提供する、組織のDE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)を促進するための体験型プログラム。多様な人と人との掛け合いのなかで自分自身を見つめ、それぞれの違いを発見し、多様性の掛け合わせにより大きなパワーが生まれることを実感できるプログラムとなっている。