仕事のプロ

2025.01.29

会社というリソースを自分の成長や経験に最大限活用する

キャリアを考える:会社組織という環境をキャリアにいかす

日本の労働者人口に占める雇用者は約9割と、仕事をしている人の大部分は会社組織で働いている。その環境を自分のキャリアにいかすとしたら、どのように活用できるのだろうか。キャリアを考える連載第8回目は、会社組織をキャリアにいかす時のポイントをコクヨのキャリアコンサルタントの吉澤利純が語った。

組織で働くことの優位性は「人」と「機会」

生涯を通じてさまざまな経験を重ねていくなかで、蓄積していくスキルや能力、もっと言うと個々人の価値観も含めてすべてがその人の「キャリア」と考えられますが、会社組織の中で働くという狭義の意味でキャリアを考える場合、自営業やフリーランスとして働くのとは違った特徴があります。

まず会社組織で働く場合、得られる優位性には大きく2つ挙げられます。

一つ目は組織に所属することで得られる「人とのつながり」です。組織の規模にもよりますが、基本的に一人ですべて完結する仕事はありません。全体の大きな動きの中で役割を与えられ、上司や部下、取引先や委託先など、社内外のさまざまな人と一緒に仕事を進めていくことになります。その組織に所属し仕事を担当したからこそ知り合える人も多く、そうした関わりのなかで学べることや受ける刺激も多いはず。

特に同じ組織で仕事をする人とは長い時間を共にするため、大きな影響を受けることになるでしょう。そんな切磋琢磨し合いながら成長できる環境を活用して、仕事のやり方や知識だけでなく、仕事に対する姿勢や考え方(ビジネス観)、コミュニケーション方法など、積極的に学び取っていきたいもの。

一方で、今自分がいる会社や組織がすべてだと思わないよう注意が必要です。同じ会社に長く勤めて同質な人ばかりと関わっていると、視野が狭くなり、仕事のやり方や価値観が偏りがちです。意識的に組織外にもつながりを広げて、違ったものの見方や世間を知ることが大切です。

私自身、30代、40代は社外のビジネスパートナーと一緒に仕事をしていた時間が長く、その時に外部から自社がどう見えるのか教わったり、これまで当たり前だと思っていたやり方や価値観と違うものに触れたことで、多くの気づきを得ることができました。

また、会社組織にいると日々多くの人と関わるため、何となく自分が目指したい、学びたいと思える人、つまりロールモデルとなるような人と出会える機会も得ることができます。 もう一つのキャリアにおける会社組織で働く優位性は、自分から能動的に取りに行かなくても、「新たな経験に挑戦する機会」が与えられやすいという点です。

例えば、いいプレゼンを上司に褒められたり、失敗をして取引先からクレームを受けたりといった経験は、そもそもそのプレゼンに挑戦する機会がなければ得られない体験です。成功体験や失敗体験を積み重ねていく先に、自分なりの仕事観も出来上がっていきます。特に苦労や失敗した経験は人を大きく成長させます。安心して思い切った挑戦ができるのは、失敗を許容し、フォローできるだけの余力や支援体制のある組織の強みだと言えます。

もちろん肩書や地位、実績などといった見えやすいものもキャリアの一つですし、ある意味わかりやすく目標やモチベーションになり得ますが、同時にこうした人とのつながりや経験などの見えないキャリアの要素も、積み上がっているはずです。




下がった自己肯定感を切り替えることもキャリア形成の一部

ただ、会社から機会を与えられるということは、同時に自分の思いだけで仕事を選べないということでもあります。アサインされた仕事に対して「自分にはこの仕事がうまくできない、向いていない...」と感じて自己肯定感が下がってしまうことはあります。

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私は、よく言われる「WILL-CAN-MUST」のフレームワークには、順番があると考えています。
まずMUSTが与えられて、やらなければならないことに真摯に向き合っていくうちに自身の中にCANがだんだん身に着いてくる(自信が付いてくる)。そうすると次第に「自分は本当は何がやりたいのか?」つまり自分自身のWILLを考えるようになる...という順番です。
ですからまずは会社から与えられた機会、つまりMUSTに食わず嫌いすることなく取り組んでみる。難しければ、上司や先輩など周りの人の力を借りてもいいので、まずは必死に取り組んでみる。そうやっていくうちに、だんだんとCANが増えてきますし、同時に要求されるMUSTの幅や深さも広がっていきます。
それを繰り返した結果、しっかりとWILLを意識したビジネスパーソンとして成長し、結果、組織内における地位や肩書といった目に見えるキャリアにもつながるはずです。

あまり長く同じ場所で同じ仕事を繰り返すよりも、MUSTもCANもある程度広がってきたタイミングで違う場所に移り、新しいMUSTに取り組んだ方が、キャリアも広がります。そうした多様な選択肢も、会社組織という環境にいるからこそ機会を得ることができます。次はどんなCANを身に着けたいか、自分のWILLも考えながらどんな選択肢があるのかを考え、積極的に動いていきましょう。また、今いる場所で伸び悩んでいる場合も、別の環境に行けば成果を出せるかもしれません。

ただ、どうしても「向いていない」「うまくできなくて期待に応えられない」などと自己否定から抜け出せない時は、ため込まずに上司や先輩など第三者に話を聞いてもらうことも有効な方法です。まず誰かに話すことで自分の中の混乱を整理することも出来ますし、第三者の意見を聞き、思考や視点を変えることで、自分からは見えていなかった自分の良さや強みに気づけることもあります。
どんな仕事でも、うまくいかない時や「向いていない」と感じることは誰にでもあるもの。長く仕事のキャリアを積み重ねていくためにも、そういう時にうまく自己肯定への切り替えができるように何か行動を起こしてみること。後で振り返った時に、この営みも自分にとっての大切なキャリア形成の一部だったと気づくはずです。



吉澤 利純(Yoshizawa Toshizumi)



コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネーター ストア事業、営業、新規事業企画部門を経てワークスタイルコンサルティング部門に所属。 主に、ナレッジシェアリング構築のコンサルティング、オフィス構築、運用改善コンサルティングを担当し、お客様の働き方改革をサポート。

連載監修/河内律子(コクヨ キャリアコンサルタント)
ライター/中原絵里子