環境やしくみだけ整えてもイノベーションは起きない

働き方改革2:「働き方の3つの要素」は同時に整えることが不可欠

コクヨでは、先進的な海外事例をいち早く取り入れ
実体験から長所と短所を見極めている

コクヨでは1986年にオフィスを中長期的視野で研究・開発する組織「オフィス研究所」を開設し、オフィス関連商品やソフトの研究開発、オフィスコンサルテーション活動を開始し、海外におけるオフィスやワークスタイルの事例調査なども行いました。その後、現在は「ワークスタイル研究所」として、オフィスに限定しない幅広い領域を対象に活動をしており、未来のワークスタイルなどの調査・研究をしています。現在も、さまざまな形で調査を続け、働き方に関する知見を蓄積し続けています。

事例の収集を進めるのと同時に行ってきたのが、自社内でのワークスタイル変革です。近年になって取り入れる組織・企業が増えてきたフリーアドレスやフレックス、テレワークなどは、海外の事例を参考に1990年代から実施しています。さまざまな施策にいち早く取り組むのは、ほかの企業に先んじて試すことによってその制度やサービスのメリットやデメリットを検証するためです。
そして、体感したうえでわかった長所・短所をお客様にお伝えし、納得したうえで導入いただきたいと考えています。

3つの要素「環境・しくみ・人の力」を
整えることが不可欠

さまざまな海外事例を研究したり、自社で先進的な制度を試したりするプロセスの中で、働き方を改革する際に不可欠な3つの要素が見えてきました。「環境を整えること」と「しくみを整えること」、そして「人の力を整えること」です。

成功事例を私たちなりに因数分解してみると、環境・しくみ・人の力に集約できることがわかってきたのです。

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また、この3つの要素が大切というだけでなく、どの要素が欠けても改革がうまく進まないことにも気づきました。なぜなら1つの要素だけを整えても、ほかの要素が今までと同じでは、新しく整えた要素との間に不協和が生じ、せっかく導入した制度やサービスが効果を生まないからです。

たとえばテレワークなら、在宅やモバイルで仕事ができるICT環境を構築するだけでなく、情報漏洩リスクを見越してセキュリティシステムの強化を行ったり、在宅勤務中にケガをした場合などを想定して労災制度を見直しておいたりしないと、何か起こったときに対応できません。いくらテレワークにメリットがあっても、「トラブルばかりで面倒だからやめよう」となってしまうおそれもあります。

コクヨの事例
業務内容を考えずに完全フリーアドレスを導入して失敗

もちろん3つの要素を導き出すまでには、さまざまな試行錯誤がありました。先進的な試みを始めたけれどうまくいかなかった、というケースもたくさんあります。一つ例を挙げて説明したいと思います。

コクヨでは、1990年代前半に特定のオフィスで、フリーアドレス制を導入しました。その際にまず取り入れたのが、誰がどこに座ってもよいという「完全フリーアドレス」でした。しかし、この試みは失敗でした。業務報告や意思疎通をひんぱんに行うことが求められる部門にもこのしくみが適用されたことで、メンバーが顔を合わせる機会が減り、いわゆる「報・連・相」の頻度が下がったのです。結果として、その部門では業務効率が明らかに落ちました。まさに「環境だけを変えてもうまくいかない」実例といえるでしょう。

コクヨの事例
マネージャー同士のコミュニケーション活性化を目指して
「マネジメントゾーン」を導入

一方で、3つの要素を同時に変えることで成果が上がった事例もあります。代表的なケースといえるのが、特定のオフィス内の一角に各部門のマネージャー数十人を集めた「マネジメントゾーン」をつくったことです。

この取り組みに着手したのは、マネージャー同士のコミュニケーションを活性化するためでした。コクヨでは、研究・開発や資材調達・生産、営業といった多数の機能や部門があり、各組織が縦割りになっているため、部門間での連携がスローペースでした。その一因は、マネージャー間のコミュニケーション速度の遅さにありました。

たとえば異なる組織のマネージャー同士が打ち合わせをする場面で、数日後でないと会議室が取れない状況もあり、意思決定や意識のすり合わせに時間がかかっていたのです。このような状況を打開するため、マネージャーを一箇所に集結させようとしたわけです。

「マネジメントゾーン」をつくるにあたっては、空間という「環境」や、マネージャー同士ですぐに会話ができる「しくみ」を整えただけでなく、「人の力」を整えるための準備も入念に行いました。開始までに十分な時間をとり、現段階ではコミュニケーションに時間がかかりすぎている、という実例を挙げて説明して、この施策に納得感が持てるよう働きかけました。それでも多くのマネージャーからは、「部下と離れた席ではマネジメントができない」という懸念が寄せられましたが、「とにかく試してみましょう。成果が上がらなければもとの配置に戻します」と説得して実行に踏み切りました。

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3つの要素が整うことで
想定以外の効果が得られることも

結果的には、取り組みは大成功でした。マネージャーたちがその場で打ち合わせができるため、部門間の連携がスピーディーに行われるようになったのです。それだけでなく、「現場の意思決定速度が上がる」といううれしい副産物もありました。部下は現場での困りごとを抱えてマネジメントゾーンを訪れるわけですが、目当ての上司がいなくてもほかの上司に相談することで解決策を得られる場合も多々あります。メンバーたちがこの事実に気づいたことで、マネジメントゾーンは部下にとって駆け込み寺のような存在になり、現場の課題がすぐ解決されるようになったのです。

さらに、マネージャーたちの意識もよい方向に変わりました。これまでは、自分の部門が抱える課題で頭がいっぱいだったのが、他部門のマネージャーと接する機会が増えることによって、会社全体の課題に目を向けるようになったのです。3つの要素をしっかり整えて施策を打つことで、思いがけない効果がいくつも生まれたわけです。

働き方に関する課題は、さまざまな要因が複雑に絡み合って生まれます。ですので「環境・しくみ・人の力を整える」という考え方を軸に問題を解きほぐしていくことで、最適な解決策が見えてくるはずです。




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鈴木 賢一(Suzuki Kenichi)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業部/スペースソリューション事業部/ワークスタイルイノベーション部部長。コクヨの働き方改革領域の責任者でありワークスタイルコンサルタント。各種プロジェクトマネージャー経て、現職15年。年間50社を超える改革相談を通じて得られた「企業の課題」と「ありたい組織の姿」から、社員の働きやすさや生産性について大手企業の働き方改革支援をおこなう。


をおこなう。

2019.02.06
作成/コクヨ

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