HOME > ソリューション > コクヨの社員研修「スキルパーク」 > コラム > 働き方改革の成否を握る健康経営への取り組み
私はコクヨの働き方改革プロジェクトアドバイザーとして、さまざまな企業のお客様に向けに働き方改革を推進するための制度設計やその仕組みづくりなどをおこなっています。そのなかで近年は、働き方改革に関連するトピックの1つとして「健康経営」が頻繁に取り上げられるようになってきたと実感しています。
健康経営とは、「従業員の健康が企業や組織の収益性向上につながる」という考え方をベースに、従業員の健康増進を重視しながら経営を進めていく取り組みを指します。
ではなぜ、健康経営は働き方改革とセットで語られることが多いのでしょうか。その理由は、働き方改革と健康経営の目的には共通点が多いからではないかと私は考えます。働き方改革との関連性を検証するために、まず企業が健康経営に取り組む目的を確認しておきましょう。私は、以下の4つの目的に分けることができると考えています。
生産性向上を考えるうえで注目されるキーワードとして、「プレゼンティズム(Presentism)」が挙げられます。プレゼンティズムとは、「従業員が出勤して働いてはいても、心身の健康状態に問題があり、生産性が低下している状態」をいいます。
プレゼンティズムの状態にある生産性の低い社員が多いと、企業全体としても減益などが予想されます。経産省が発行している資料によると、プレゼンティズムによる生産性の低下により、1人あたり年間30万円くらいの生産性損失が発生している、という結果も出ているほどです。
逆に考えると、健康経営の取り組みを通じて心身共に健康で活躍できる社員が増えれば、一人ひとりの生産性が向上し、企業の収益増につながりやすくなるわけです。
「医療関連費の削減」という目的も見逃せません。社員の医療費が増大すると、企業の健康保険組合による負担も増えてしまいます。逆に、健康経営の推進によって医療機関にかかる社員が減れば、健康保険組合の医療負担も下がり、医療コストの削減が実現できるのです。
健康経営に取り組んで「従業員を大切にする企業」というブランドイメージを世間に広めることも、企業の成長を後押しします。ホワイト企業としてのイメージが世間に浸透すれば、顧客の囲い込みや新たなファンの獲得にもつながるためです。
労働人口が減り始めている中で、優秀な人材をいかに得ていくかは企業にとって重要な課題です。人材確保を真剣に考えるなら、「従業員の健康を大切にしている」というイメージは欠かせません。過労死などがメディアでたびたび取り上げられる昨今、健康経営に取り組んでいる事実は、ワーカーに好印象を与えやすい重要なファクターといえます。
経産省が就職活動中の学生に実施した調査においても、就職先に望む勤務条件として「従業員の健康や働き方への配慮」を挙げる学生が多くみられました。健康経営に取り組む姿勢をアピールすることで、優秀な人材の獲得が期待できるわけです。もちろん在職中の社員も、「自分は大切にされている」という実感を得ることで企業へのエンゲージメントを高めるはずです。
4つの目的のなかでも「生産性の向上」と「優秀な人材の確保」は、多くの企業が、働き方改革における目標として掲げています。つまり、健康経営の推進によって働き方改革も促されることになるのです。その意味で、健康経営に取り組むことは企業にとって有益といえます。
健康経営に実際に取り組むときに、企業はどのようなアクションを起こしていけばよいのでしょうか。
私はお客様に説明するとき、「型・場・技」を意識して取り組むようアドバイスさせていただいています。コクヨでは働き方改革で重要な要素として、「環境・しくみ・人の力」の3つを掲げています。健康経営においても、この3つと共通する要素である型(しくみ)・場(環境)・技(人の力)を整えることが効果的な取り組みにつながると考えています。
「型」とはルールや制度のことで、従業員が健康診断やストレスチェックを確実に受診するよう「しくみ」づくりを徹底したり、スポーツクラブに通うといった健康活動を補助する制度を整えたりすることをいいます。
「場」は、ITインフラやオフィス空間などを指します。具体的には、テレワークを実現するためのICT環境整備や、健康に配慮したオフィスづくりなど、「環境」を整えることです。
「技」とは、従業員が健康に意識を向けるように働きかけ、自ら健康になるためのアクションを起こせる「人の力」を養うことです。企業によっては、社員の健康意識を高めるために睡眠学講座やヨガ教室などを開催するところもあります。
健康経営に関する多くの取り組みを拝見すると、「技」の面で苦労しているお客様が多い印象です。健康を左右する食事や運動、睡眠は個人の生活習慣にあたるため、実際に症状があるならともかく、健診などで問題を指摘されていなければ「プライベートに口出しされたくない」と考えるケースが少なくないからです。
たとえば、「最近少し疲れやすいけど、定期健診の数値は問題ないから自分は健康だ」と思っている人に、「健康になるから」と食事制限やウォーキングを勧めても、「忙しくて時間が取れない」と反発を生むのではないでしょうか。
ですから、健康経営を推進していくには、従業員一人ひとりが健康を自分事としてとらえることが必要であり、そのためには、企業側の"働きかけ方"が重要になってくるでしょう。
働きかけ方の一例として私は、「健康」という言葉をあえて使わず「コンディションを整える」「クリエイティビティを高める」といった表現で社員の興味を引くことをおススメしています。
企業側は、社員が気軽に取り組めるような内容から働きかけるとよいでしょう。たとえば、食生活や運動、メンタルヘルスなどの情報を研修やワークショップを通じて発信していくなど、社員自らが参加したくなるようなイベントを企画、実践していきながら、健康に対する意識を変えていくのです。
WHO憲章では、「健康とは身体的・精神的・社会的に満たされた状態」といった説明がなされています。しかし多くの人は、「健康=病気ではないこと、弱っていないこと」ととらえています。この認識のズレを無理のない形で修正し、一人ひとりが本当の意味での健康を実現できるよう促していくわけです。
仕事に支障をきたすレベルではないにしろ、多くの人は身体やメンタルに何かしら悩みを抱えており、WHOが定義するような「健康」を実現できていない方も多いと思います。
経営サイドが効果的な呼びかけをすることで、従業員は健康に役立つ習慣を抵抗なく取り入れるようになるはずです。
働き方改革を推進する際、健康経営の視点を取り入れた取り組みを実践していくことによってさまざまなメリットが期待できます。まずは社員の「健康」状態を把握するところから始めてはいかがでしょうか。