レポート
2014.07.08
チーム力を上げるイクボスとは?
セミナー報告1 子育て世代を活かすチーム戦略
子育て世代が仕事と育児を両立するためには、夫、妻、そして職場の上司や同僚の協力、つまり、“チーム力”が欠かせない。本セミナーでは、チーム力を高めてワークライフバランスを向上するための働き方や生き方を、それぞれの立場から考えていく。
約40名の参加者が集まった第1回目のテーマは、“イクボス”。NPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんによる講演とワークショップの様子をレポートする。
- いま、管理職に求められるスキルとは?
- 約7割が"制約社員"の時代が到来
- 「全社員の約7割。これは、将来的な"制約社員"の推定数です。社員を長時間拘束してガンガン働かせるということは、物理的に不可能になるのです」
- 開口一番、安藤さんは衝撃的な数字を挙げた。制約社員とは、子どもの育児や親の介護、自分の病気などの事情により、働く場所や時間、仕事内容などに制約をもつ社員のことだ。高齢化が進む今後は、とくに介護による制約が増えていくと予想されている。
- 「社員がお互いを支え合うだけじゃダメ。支え合いながらも会社として成長していくための"チーム力"が求められるのです」
-
- ゴールは、"イクメン"という言葉がなくなること
- 安藤さんが代表を務めるファザーリング・ジャパンは、「父親であることを楽しもう」をモットーに、子育て世代の父親の支援活動を行ってきた。働き方、ワークライフバランスの見直しや企業の意識改革、地域社会の再生など、父親が育児に参加するための環境づくりと次世代育成を目標に事業を展開。セミナー、スクール、父子旅行、出版など幅広い活動を行っている。2006年に設立した当時は10名だった個人会員が、今では約400名にまで増え(サポーター会員は約7,800名)、法人会員も20社に上る。
- ファザーリング・ジャパンの活動を通して、育児に積極的な男性"イクメン"の増加に貢献してきた安藤さんだが、「"イクメン"という言葉がなくなるのがゴール」と言う。
- 「育児をする女性を"イクウーメン"とは言わないし、働く女性を"ワーキングマザー"とは呼んでも、働く男性を"ワーキングファザー"とは言いませんよね。こういう言葉があるのは、育児に参加する男性がまだまだ少なく、働く女性が男性と対等に力を発揮できていない現状があるからです」
- 職場環境が変われば、男性の育児参加率は上がる
- 「でも」、と安藤さんは続ける。
- 「男女とも意識はどんどん変わってきているんです。もっと育児に参加したいと思う男性、育児をしながらもバリバリ働きたいという女性が増えてきています。社会の風潮も変わってきました。例えば、NHKでは『おとうさんといっしょ』というテレビ番組が始まりましたよね。では、何が妨げになっているかというと、職場の環境なんです」
- 定時で帰れる雰囲気ではない、育休制度はあるが取得する男性社員は皆無、男性の子育てについて上司や同僚の理解がない、家庭の事情で休むと人事評価に響く...というのが、多くの男性社員の現状だ。
- 「最初にも述べたように、今後は制約社員がどんどんと増えていきます。部下の家庭の事情を理解し、配慮しつつ、生産性を向上させて会社全体の業績・利益を上げていく。管理職の人間には、今後、このような力が求められていくのです」
- あなたは、あなたの上司は、"イクボス"?"ダメボス"?
- 自己中心的で家庭生活を軽視する"ダメボス"
- 子育て世代の部下への理解や配慮がある上司は、まだ数が少ない。「残念なダメボス」として、安藤さんは次の人物像を挙げる。
-
- 自分の出世・得点しか考えていない(上ばかり見て仕事をしている)
- 体育会系の精神主義でマネジメント(自分も残業体質で、皆勤賞にこだわるタイプ)
- ビジネス書ばかり読んでいる(自分を戦国時代の武将だと思っている)
- 夕方5時からエンジンがかかる
- 会議での自慢話が長い
- セクハラ・パワハラ・DVの自覚がない
- 家が"ホーム"ではなく"アウェー"になっている(たぶん家族に嫌われている)
- ボランティアや社会貢献などしたことがない
- ナルシスト、ギャグが寒い、生気がない
- 参加者の多くには思い当たる人物がいるようで、会場は笑いと共感に包まれた。
-
- 部下も家庭も大事にする、仕事のデキる"イクボス"
- 続いて安藤さんは、「かっこいいイクボス」像を挙げる。
-
- 部下の家族構成を知っている(部下の家族も大事な存在だと考えている)
- 保育園からの電話がわかる(ワーキングペアレンツの悩みを理解し、フォローできる)
- 仕事がデキる(どこに行っても通用する能力がある)
- 部下を伸ばすマネジメントができる(責任を取る覚悟がある)
- デスクに家族写真を置いている(家族と仲がよく、職場で家族の話ができる)
- 文化的教養がある(話題が豊富。営業もうまい。仕事外にも友人が多い)
- ファッションセンスがよい(内面と外見が一致している)
- 人生を楽しんでいる(笑っている上司)
- 「こんな人が上司だったら、この人についていきたい、自分もこんなイクボスになりたいと、仕事への意欲も自ずと向上するでしょう」という安藤さんの言葉に、参加者の中には大きくうなずく姿も見られた。
- イクメン&イクボスが増えれば、社会が変わる
- "イクボス"になるのは難しいことではない
- では、"イクボス"になるには、どのようなことを実践すればよいのだろうか。安藤さんは、「イクボス十か条」として、イクボスに必要な条件を挙げる。
-
- 理解:現代の子育ての事情を知り、部下がライフ(子育てや介護など)に時間を割くことに理解を示している
- ダイバーシティ:ライフに時間を割いている部下を差別(冷遇)せず、ダイバーシティな経営をしている
- 知識:ライフのための社内制度(育休制度など)や法律(労働法など)を知っている
- 組織浸透:管轄している組織に、ライフを軽視せず積極的にワークライフバランスを推奨し、広めている
- 配慮:転勤(単身赴任)など、部下のライフに大きく影響を及ぼす人事については、最大限の配慮をしている
- 業務改善:育休・介休取得者などが出ても、組織内の業務が滞りなく進むように、組織内の情報共有体制づくり、チームワークの醸成、モバイル化やクラウド化など、可能な手段を講じている
- 時間捻出:部下がライフの時間を取りやすいよう、会議運営の効率化、書類の削減、意思決定の迅速化、裁量型体制などを進めている
- 提言:役員・経営者や人事部などに対し、部下のライフを重視した経営をするよう提言している
- 有言実行:「イクボスのいる組織や企業は業績も向上する」ということを実証し、社会に広める努力をしている
- 隗より始めよ:自らワークライフバランスを重視し、人生を楽しんでいる
- "イクボス"のいる組織には優秀な人材が集まる
- 平成25年には、群馬県が「イクボス養成塾」を開催した。また、消費者庁では、育休を取得した職員だけでなく、部下の育休を積極的に認めた上司に対して人事評価で考慮しはじめた。さらに、今年度からは国も、企業経営者や管理職を対象としたトップセミナーを開催し、ワークライフバランスが重要な経営戦略であることへの理解を促進していく。
- 「国を上げてイクボスを増やしていこうという動きがありますが、やはり、一番効果的なのは、管理職の評価基準を変えることです。部下のワークライフバランスが向上するようマネジメントし、業績に結びつけた社員を高く評価すること。まずは、こう変えていく必要があるでしょう。そして、結果として、そのような組織には優秀な人材が集まってくることになるのです」
- 最後に、「イクメン&イクボスが増えれば、社会が変わる」という、ファザーリング・ジャパンの「イクボスプロジェクト」のモットーで締め、安藤さんの講演は大盛況のうちに終了した。
- "イクボス"を"自分事"にするワークショップ
- 明日から実践できるアクションを考える
- 講演に続き、安藤さんを交えてイクボスについて考えるワークショップが開催された。参加者は数名ずつのグループに分かれ、下記の3つのテーマについて、活発に意見を交換し合った。
-
- 講演を通して"イクボス"についてどんな気づきがあったか
- 自身を含め、社内で"イクボス"が増えるための課題は何か(会社の課題と部下の課題)
- "イクボス"実現に向けて自分が明日からできるアクションは何か
- 参加者はそれぞれのテーマについて自分の意見を付箋に書き出し、メンバーで話し合いながら模造紙にグルーピングしていく。ディスカッションを通して、それぞれが務める会社の実情や課題について情報を交換し、自分たちの抱える不安や悩みを共有する姿が見られた。
-
-
- ワークショップの最後には、3つ目のテーマ「明日からできるアクション」について、一人ひとりが書いたものを壁に貼り付け、参加者全員で共有した。
- 「部下とコミュニケーションをとる余裕をもつ」
「今日の話をなるべく多くの人にする」
「上司に本音を話す」
「夫に少しずつ"イクボス"の情報を吹き込む」
「育児中のパパ・ママ社員にヒアリングする」 - など、さまざまな具体的なアクションが提示された。働く環境や立場はそれぞれ異なる参加者たちだが、「子育て世代の社員がより働きやすい職場環境をつくりたい」という思いは同じ。今日の学びを実践につなげようという興奮が冷めやらぬまま、第1回目のセミナーは幕を閉じた。
-
- 【今後の予定】子育て世代を活かすチーム戦略セミナー
- 第2回 2014年7月12日(土)13:00-15:30
『出産、子育てというライフイベントをプラスに変える、ワーキングマザーが知っておくべき処世術』
働く女性が出産、産休、仕事と育児の両立のために準備すべきこと - 第3回 2014年7月15日(火)19:00-21:30
『夫が考えるべき仕事と育児の両立とは?共働き夫婦のキャリアプラン』
子育て中だからとあきらめない、妻のキャリアプランをサポートする方法 - 第4回 2014年8月3日(日)13:00-15:30
『子育て世代を活かしてチーム力を高める働き方ワークショップ』
夫、妻、上司、色々な立場から育児と仕事を両立させる働き方、既存組織で実現する上での課題、ファーストステップを考える。
文・撮影/笹原風花