レポート
2014.12.26
「感動あふれる女性の未来」を考える
フューチャーセッションレポート@ソニー㈱
2014年11月6日、品川のソニー株式会社で、新規事業創出活動の一環として、未来に向けて感動にあふれた生活を創るムーブメントを起こすためのフューチャーセッションが行われ、WorMo’編集部も参加しました。
今回のテーマは「2025年の“感動あふれる女性の未来” ~はたらく女性×夢中になる(immersive)をデザインする~」。ソニー社内外の異なるバックグランドを持った約100名が集い、語り合った3時間。未来につながるアクションが次々と生まれる刺激的な空間となりました。
- お客様の好奇心を刺激し感動を提供することをコーポレートビジョンとして掲げるソニー株式会社。本フューチャーセッションは、ソニーの新規事業創出部が、現業の枠を超えた新たな事業アイデアの創出を促すために、普段接することのない社内外の人材が交わって未来像を語りながら自由奔放にアイデアを発想したり、プロトタイプを一緒に作る仲間を見つける機会とすることを目的に企画実施しているワークショップです。今回、 WorMo’編集部が参加した議題は「2025年の感動あふれる女性の未来」。女性が夢中(immersive)になるには、どうなればいいのか?何に夢中になれると良いのだろうか?という問いについて、ソニーの社員約50名と、女性の活躍や働き方を支援している企業や社会起業家、NPOの関係者など約50名の計100名で熱く意見を交わしました。
- イベントの幕開けは、ソニーらしいクリエイティブな雰囲気のオープニングムービー。アーティストとエンジニアが出会い、心動かす発明がなされていく映像の後は、ソニーの新規事業創出担当者より、今回のイベントに関しての思いが語られました。
- 「ソニーが目指すのは"BE MOVED"、すなわち心を動かすものづくりです。そのためにも、常にイノベーションが生まれる環境をつくり、社会の知見を取り入れていきたいと考えています。本日のフューチャーセッションの場も、8割近くが女性の参加者ですが、男性社員の多いソニーにおいては、とても珍しいこと。様々な場所で活躍されている参加者皆様の意見がぶつかり合い、「未来」に向け、有意義な時間が過ごせることを願っています。」
- インスピレーショントーク
- 『女性の生き方・働き方を俯瞰的な視点から』
入倉 由理子さん(リクルートワークス研究所) - 株式会社リクルート(現・リクルートホールディングス)を経て、現在はフリーランスのエディターとして活躍されている入倉さん。ロールモデルとは、輝く星のような先駆者の一例ではなく、事例が多いことが重要...とお話された上で、日本の女性管理職の比率は、いまだ10%であることを指摘。Fortune500(全米上位500社)の企業はすでに50%超え、CEOでも5%以上であり、軍事産業の大手ロッキードマーティン社では初の女性CEOマリリン・ヒューソン氏が就任した例も紹介した。
リーダーに就くことは、自分以外の他者の力を引き出すことであり、一人ではあり得ないことも叶えられる手段のひとつである、と女性たちへエールを送った。 - 『仕事・家庭・コミュニティの両立を目指す視点から』
大塚 万紀子さん(株式会社ワーク・ライフバランス) - 大塚さんは、株式会社ワーク・ライフバランスの創業メンバー。創業以前は、世界規模のネット通販組織を目指すベンチャーに所属し、終電まで働くような日々を送っていた。しかし、ライフスタイルの変化により、女性は「結婚や出産」と「仕事での成功」のどちらかしか選べないことに疑問が芽生え、ライフもワークも両立できる社会にしていこう!と創業への参画を決めた。
今の女性たちは、「残業代もなく長時間労働で責任も大きい」管理職の現状を見てきて、管理職になりたがらない傾向があるが、今後はワークとライフ、そのどちらも充実することによるシナジーを活かせる生き方・働き方ができるようになれば、きっと女性管理職も増えるだろうと予想。2025年には、長時間労働やマネジメントに疲弊する管理職のあり方が変わり、性の違いや個性を活かせる新しいマネジメントスタイルを生み出したいと強く語った。 -
- 『女性向けのサービスの視点から』
河内 律子(コクヨ株式会社) - WorMo’編集長を務める河内。今では母業と仕事を両立する生活を送っているが、以前は仕事一筋。レジャーにも仕事持参で参加するようなタイプだったという。
ワーキングマザーや女性マネージャーなど数多くインタビューしてきた経験から、制約の多い中でも工夫を重ねて仕事や育児を両立させる女性たちの能力の高さや行動力、機転の良さを実感。女性たちは自分の置かれた状況を納得した上で、「効率よく」「効果的に」といった視点で工夫する能力が高く、またそこに対する実現度も高い一方、見切りをつけたときの引き際も潔いと語る。
これからの10年、テクノロジー技術の進化やグローバル化、エネルギー・環境問題の深化など、様々な要因により現存の職業の多くが形を変える、とも言われている。そんな中で、(『WORKSHIFT』(リンダ・グラッドン著)を引用し)、「協創・コラボレーションによるイノベーション」「専門知識を得る」「情熱を持てる経験を労働から幸福感」が重要なキーであり、女性の特性がより発揮できると提言した。 - 『北欧の生き方、ソニーのものづくり視点から』
ファナ・キンブレーさん(ソニーモバイル クリエイティブプロダクトデザイン ディレクター) - こどもが5ヶ月の時に東京に赴任の話が決まったスウェーデン出身のファナさんは、それまで5カ国に住んだ経験があるも、家族がいての転勤は戸惑ったという。しかし、北欧では自分の両親を含め、父親の育児参加も当たり前の文化だったこともあり、パートナーが育児を担当することで、家族でこのビッグチャレンジに臨むことを決意。日本での生活は、女性が管理職を務めることがまだ珍しいことであるのと同様、男性トイレにはオムツ替え台がないなど父親が育児することの不便さを実感する機会は多いが、文化や言葉、環境などのすべての「違い」や「困難」は、仕事に新しい視点を加えるチャンスだとも感じ、スウェーデンでは発見できなかったことを日本で見つけることができていると語る。
もし、自分や周囲の働き方や環境に戸惑うことがあったなら「ステレオタイプに陥ってはいないか?」「女性だから、男性だからではなく、ひとりの人間として働く姿・家庭での姿などを包括的に理解やイメージすること」が大事。そして、自分のやりたいことや進みたい道を誰もが開拓できるよう、ジェンダーではなく個性、そして個人のクリエイティビティを活かせる関係・社会を考えてみましょうと呼びかけた。 -
- 以上、ときに大笑いし、ほろりとさせられる場面もあった4名の話をうけて、各自が「働く女性が○○に夢中になれる瞬間をもっと持ちたい」という議題の○○を書き出す作業へ。
参加者のレポート用紙を見渡すと、学ぶこと、家族と過ごすこと、とりとめのないおしゃべり、趣味、人生をやり直す、得意を仕事に、世界に影響を与えること、妄想して暴走すること...など、実に様々で、ユニークな回答が挙がりました。
- 2025年の変化の兆し
- 働く女性が何かに夢中になるために
- 続いては、それを元に、発想の近い人と4人組になってグループ対話。「政策・制度」、「経済・仕事」、「家庭・地域」、「科学技術」という4つのカテゴリにわけ、それぞれ2025年に向けて予想される変化の兆しを、「起きてほしい変化・起きてほしくない変化」の二軸で書いていきました。
- たとえば「働く女性が"学び"に夢中になる瞬間を持ちたい」チームでは、以下のような回答が挙がりました。
- こうして各グループが導き出した内容を共有した後、「起こりそう」もしくは「起きてほしくない」と共感した変化に、各自で投票。
-
- 週休3日制になる
- 地域で子育てや地域で家族化が広がる
- 場所・時間の制約無く自由に働ける
- 1つの企業に縛られない多様化した働き方になる
- リアルコミュニケーションがなくなる
- 24時間仕事化
- 治安が悪化する
- 情報過多で社会リテラシーが低下する
- このような結果を見て、また新たなグループで最後のセッションへ。議題は、これらをはじめとする"変化の兆し"がもっと広がると、働く女性をとりまく世界はどう変わるだろうか?を考えました。
- あるテーブルでは、ネガティブな変化への投票も多かったことについて驚きつつ、女性が夢中になることが増えれば仕事の仕方がフレキシブルにできるようになるが、それにはメリットも弊害もある。そして、それは次世代にダイレクトに影響すると皆が感じているのかもしれない、と仮設を立てていました。
- 最後は、一連のセッションで辿りついた"私が実現したい世界"を、輪になって全員が宣言。
「時間と場所の制約のない世界」、「自由にチャレンジできる世界」、「誰もが趣味や余暇を楽しめる世界」、「仕事もプライベートもWinWinな世界」といった、自由・愛・多様性・学び・興味などの軸で、前向きな「未来」がたくさん語られました。
これらの宣言は「まだ叶ってないこと」とネガティブに捉えることもできますが、そうではなく、参加した100名が「これから自分が取り組んでいくべき課題」と改めて認識し前向きになったことを感じさせてくれる、明るい口調の宣言が多かったことが印象的でした。 - ソニーでは同テーマ「2025年の"感動あふれる女性の未来" ~はたらく女性×夢中になる(immersive)をデザインする~」で11月下旬に継続セッションを行い、そこでは参加者が興味あるテーマごとにこれからのアクションの具体的なアイデア出しも行ったそうです。
- セッションを終えて・・・
- セッションの冒頭には、ソニー株式会社 ダイバーシティ開発部の大庭さんから、 ソニー創業者の井深大氏は、ダイバーシティという言葉がまだ日本では馴染みのなかった創業当初から「企業もお城と同じもの。強い石垣はいろいろな形の石をうまくかみ合わせることによってできる」、「常識と非常識がぶつかったときにイノベーションが産まれる」と言っていたとの話がありました。
ワーキングマザーの皆さんも、日常業務の中で他の社員との「違い」に悩まれることもあると思いますが、ときには他者とテーマを決めて話してみたり、このようなイベントに参加するなど、他者との違いを俯瞰して眺める時間を持ってみるのもいいかもしれません。
- 参加者の感想
- 『当たり前のことを、当たり前に言える社会にしていきたい』
<アパレル企業・男性> - 「参加した動機は、同じ部署の女性2名が最近結婚し、今後どうしていくかを考えたかったから。当社は産休・育休はとりやすい環境ですが、時短にしたり育休をとったりの選択をした場合、今までと同じ評価軸にのせてしまっては正当な評価をしてあげられなくなってしまいます。でも、それではおかしいですよね。しかし現状では、社内には適切なガイドラインがありません。大変だとは思うけど、仕組み化を考えていきたいと強く感じました。
今日一番の気付きは、家族・仕事・地域・社会...それらすべて、どれも大事なのに、そんな当たり前のことが言えない社会になっているのかもしれない、ということ。この現状を少しでも変えていきたいと思います。」 - 『いろんな働き方があっていい。それが社会にいい影響を及ぼす』
<自動車メーカー・男性> - 「今、結婚を考えているのですが、彼女が仕事を続けたいと言っているので、女性が輝いて働いていくにはどうすればいいのか、いろんな人の意見や事例を聞いてみたいと思って参加しました。自分の職場にも、働く既婚の女性たちはいますが、今まであまり意識を向けたことがなかったので、とてもいいきっかけをもらったと思います。一連のセッションを終えて、今は以前よりもいろんな働き方があっていい。それが個人にも社会にもいい影響をもたらすのだと思うようになりました。」
- 『リアルに出会う"働く女性"の姿には、希望がある』
<飲料メーカー・CSR・女性> - 「私が今日参加した目的は、今度自社でもフューチャーセッションをするので、その参考にすることでした。しかし、参加してみて、気付くことが多く、非常に有意義だったと感じています。私自身、3才のこどもをもつワーキングマザーなので共感するポイントがたくさんありましたし、"女性が働くこと・夢中になること"について、じっくり考える機会は今までありませんでした。今は、いろんな方の意見を聞く機会をもつというのは本当に大事だと実感しています。それに、参加者の方は、皆意識が高くて、私を含め多くの女性が感じるモヤモヤをうまく言語化してくれたなと感じます。言ってもらってスッキリしたことも多かったですよ(笑)
今日までは「女性の働き方」というと、時間を有効利用しようとか能力を発揮するには...と考えていましたが、それは視野が狭かったなという気付きもありました。女性が社会で働くことは、社会において大きなインパクトのあることなんだと強く思います。新聞記事などでよく"女性活躍の要は~"みたいな記事も見かけますが、リアルに働く女性たちに会うと、印象は全然違いますね。こんな方たちがたくさんいるなら、日本にも希望があると思いました。」 - 『同じ想いを持っている人がいる。それだけで勇気がわく。』
<ソニー社員・女性> - 「自身の働き方に悩みがあって、いろんなセミナーに参加してきたこともあり、今日は自分の将来について考えたいと思って参加しました。社内でも、ふだん関わらない人と交流できたり、社外の方と話ができたりする機会はそうそうないので、とても面白かったです。ソニー内では、同年代の女性社員で座談会をしたり、ロールモデルとなる先輩社員が話したりといった機会もありますが、やはり社外の、いろんな経験を積まれた方がいる場はまた別の得るものも多いなと思いました。
今回、自由に話せたことで、自分と同じような想いを抱いている人が多いことに気付きました。それだけでも、なんだか勇気をもらえました(笑)」 - 『いろんな選択肢があれば、問題もチャンスに変わる』
<保険会社・女性> - 「勤務先で、女性活躍推進のプロジェクトメンバーを務めていたこともあり、今日のテーマにはとても興味がありました。社内では意外と、未婚・既婚など、立場が違うと本音で話しにくいことも多いんです。こどもがいる人の中には"独身の人はいいよね。私たち超大変で..."みたいな空気を出す人もいて。今日のように、「バックグランドが違って当たり前」の場で、同じラインに立って、意識の高い人たちと話せるというのは、すごいことだと思います。
女性には、未だ、こどもが生まれると仕事へのかかわり方を変えなくてはいけないなどの「現実」もあります。でも、それを「問題」にするだけでなく、いろんな選択肢を知ることが、より深く考えるキッカケになると思いました。女性が夢中になれるものや瞬間を、その時々で見つけ、熱中できる社会になっていけばいいなと思います。」 - 『実感したことのなかった"社会の課題"を身近に感じた』
<自営業(ワークショップファシリテーションなど)・女性> - 「働き方に悩む20~30代の女性のためのワークショップを開催しているので、ヒントを得られそうな気がして参加しました。仕事柄、様々な女性の悩みを聞いて、女性は30代を節目に、時間がない・自信が持てない・周りがよく見えて劣等感を抱いてしまう...などの困難にぶつかっていることを実感してきたので、もっと多様性を認める社会になれば...という想いは常に抱いてきました。私自身、北欧で生活した経験から、日本はもっと"楽しむこと"にフォーカスしたほうがいいのではという想いも強く持っています。
今日は、私自身はユニークな働き方を選んできたため、あまり感じたことのなった男女の格差問題や社会の抱える課題について触れることができて良かったです。」
文/田中社 田中青佳