組織の力
国内のグローバル化で変わるワークスタイル〈後編〉
グローバル人材サービスのパイオニア・パソナグループに学ぶ
今年6月フィリピン人スタッフを直接雇用したハウスキーピング事業を開始するパソナグループ。後編では、営業総本部ハウスキーピング事業の蒲生智会ユニット長(写真右)と山田良子(写真左)シニアリーダーに、海外企業との連携から得られた世界のビジネススタンダードに必要な視点やハードル、そしてこれからの展望について語っていただいた。
外国人の雇用に立ちはだかる
法制度の壁
しかしながら、ハードルはいくつもあった。もっとも大きかったのが、法制度の壁だ。フィリピンでは海外に出稼ぎに出ることが一般的で、女性が子どもを家族に託して渡航するケースも少なくない。そのため、国として出稼ぎ労働者を保護する厳格な法令を定めており、その内容は雇用主に経済的負担や社会的責任を負わせるものとなっているのだ。
「フィリピン人スタッフを直接雇用する際の雇用契約書には、フィリピンの法令で定められた事項を盛り込まねばなりません。さらに、日本とフィリピンの国家間の条約、日本の法律や政府の意向なども、すべて踏まえたうえで作成しなければなりません。まずは自分自身が理解し、それを社内の法務担当者に説明しながら、雇用契約書や人事制度を構築していくことは、地道な作業で時間がかかりました」(山田シニアリーダー)
フィリピンの法制度と日本の雇用習慣・法律をすり合わせることの難しさと同時に、日本の法制度の壁も感じたと、山田シニアリーダーはいう。国家戦略特区のみで行える事業という背景からもわかる通り、日本の「出入国管理及び難民認定法(入管法)」で外国人に就労が認められているのは、外交、公用、医療、研究など16種類で、ハウスキーピング業務はそのどれにもあてはまらない。そのため、国が法整備を進めるのと同時並行で就労規約などを整えねばならず、国が決定を下さなければ動けない、という状況が続いたのだ。今後、日本でも外国人ワーカーが増えることが予測されるが、法的整備など課題は多い。
双方が歩み寄ってこそ
文化的理解が深まる
これまではグローバルビジネスとは無縁だったという蒲生ユニット長にとっても、海外の企業と進める事業は新たな挑戦だった。
「長く女性支援事業に携わるなかで、多くの社会的な障壁を目の当たりにし、もはや日本だけで解決できる問題ではない、視座を上げていかねばならない、と感じていました。グローバルな環境での経験が豊富で異文化をよく知る山田やフィリピン人の社員と意見を交わすと、自分では思いもよらない見方が出てきて、視野の広がりを実感しています」(蒲生ユニット長)
また、上司として外国人社員をマネジメントするという経験も、蒲生ユニット長にとっては初めてのことだった。当初は戸惑うこともあった。例えば、伝え方や指示の出し方。「察する」という文化は、文化的背景を共有している日本人同士でしか通用しないコミュニケーション手段だ。そこで、「できるだけ明確に、言葉にすること」を意識したという。
「文化的背景が異なる相手と接する際に大切なのは、どうすれば伝わるか、理解してもらえるかを相手の立場で考えること、そして、失敗を恐れないこと。試行錯誤するなかで、相手を知り、理解し、コミュニケーションの取り方が見えてくるのだと思います」(蒲生ユニット長)
異文化理解について、山田シニアリーダーも「相手を理解するだけでなく、日本的文化背景を持つ自分を相手に理解してもらうことも大切。双方が歩み寄ってこそ、文化的理解が深まるのだと思います」と、相互理解の重要性を述べる。いわゆる「おもてなし精神」やマナーの良さといった日本人が「日本らしさ」として誇る部分だけでなく、同僚のフィリピン人社員に指摘されて初めて気づく日本人らしさもあったという。