組織の力
2017.09.25
企業戦略としてのテレワーク〈後編〉
少子高齢化が進む中で、企業の働き手確保や生産性向上をかなえる新しいワークスタイルとして「テレワーク」が注目されている。テレワークの一形態である在宅勤務制度導入の動きもみられるが、まだ試行錯誤段階の企業が多い。株式会社テレワークマネジメントの代表取締役であり、テレワーク推進の第一人者として知られる田澤由利氏は、現在の状況について「日本型のテレワークによって、よりスムーズな運用が可能になる」と分析する。“日本型テレワーク”とは何か、実現のために企業はどんなことに取り組むべきなのか、お話をうかがった。
日本型テレワークのカギは
「自由裁量」ではなく「柔軟性」
在宅勤務制度を導入する企業は近年増えているが、なかなか制度利用者が増えずにテレワーク推進が進まないケースも多い。田澤氏は「テレワークを停滞させないために、まず大前提として必要なのは、社員一人ひとりが意識を変えることです」と語る。
「私は企業様に向けてテレワーク関連の研修をさせていただく際、在宅勤務制度を利用する方々には『会社存続のカギを握るのは自分たちだ、という意識を持ってください』と繰り返し呼びかけます。また管理職の方々には、『テレワークが成功しなければ会社の未来はない、という気持ちで関わっていただきたい』と申し上げています。『制度を利用させてもらっている』『福利厚生として子育て中や介護中の社員に配慮している』といった意識のままでは、切実感をもって取り組む人が増えず、ささいな問題によって制度が消滅してしまうことも考えられます」
ただし、スムーズな運用には、心構えだけでは不十分だという。田澤氏は、「アメリカ型のテレワークをそのまま日本に適用しようとして失敗を招くケースは多い」と語る。では、欧米と日本でテレワークのあり方はどのような違いがあるのだろうか。
「アメリカ型のテレワークをひと言で説明すると、"時間も場所も働き方も自由裁量"ということになります。しかしこの方法論だと、個人主義が浸透しているアメリカでは問題なくても、日本においては『同僚とコミュニケーションが取れないのは不安』『在宅の部下をうまくマネジメントできるだろうか』『在宅だからサボっているのではないか、と思われたらどうしよう』などと戸惑いを感じる人が少なくありません。
『時間と場所は固定せず柔軟に、オフィスにいるときと同じように働く』というやり方が、日本にはフィットするのではないでしょうか」
つまり、日本型のテレワークを実現するには、コミュニケーションやマネジメントの壁を低くするための仕組みが必要ということになる。
「切り分けて在宅」ではなく
仕事のやり方自体を変える
「オフィスで仕事をするときと同じように働く」ための仕組みとして田澤氏は、クラウド上に仕事の道具(資料など)を置いて共有する方法をまず提案する。
「仕事道具がクラウド上にあれば、どこにいても同じように仕事ができるので、在宅でできる仕事を切り分ける必要がなくなります。具体的には、これまで紙ベースで管理していた書類や会議資料をデジタル化し、クラウド上に置くということです」
「オフィスにいるときと同じ」とはいっても、仕事のやり方はテレワークにフィットする形で臨機応変に変えることが必要だ。しかも、そのやり方しだいで、業務の効率化や生産性向上などのメリットも見込めるという。
例えば女性の営業職が多いある企業では、田澤氏の提案により、訪問専任の営業職と、在宅勤務の営業サポート職の2名体制を取り入れた。在宅勤務のメンバーは、アポ取りや提案書・見積もり等の作成、お礼メールの送付など訪問以外の業務を行い、作成した書類はすべてクラウド上で共有される。訪問専任の担当は取引先にタブレット型端末を携行するため、在宅のサポートメンバーは取引先でのやりとりを視聴して議事録もとる。訪問専任のメンバーは書類作成をする必要がないため、訪問先を増やすことができる。