リサーチ
2019.11.27
高まる「副業」ニーズに二つの壁
企業側の“解禁”と、個人の“自己管理能力”が副業普及の鍵
終身雇用時代が過去のものとなり、働き方の多様化が進んでいる。その中で、転職よりも関心を集めているのが「副業」だ。株式会社ビジュアルワークスは2019年3月29日から4月1日、イラストオーダーマーケット「SKIMA)」にて、『2019年4月 副業に関する意識調査(対象:20歳~59歳の男女1,000人:予備調査10,000人)』を実施している。その結果から、副業ニーズの高まりやその背景、今後の課題等について考える。
2018年1月、厚生労働省は『働き方改革実行計画』(2018年3月28日 働き方改革実現会議決定)を踏まえて、『モデル就業規則』の改訂(※)を行った。労働者の遵守事項であった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、副業・兼業についての規定が新設されたのである。現在は、就業規則の基本モデル上、副業・兼業をしても問題がない。「大企業が副業を解禁!」といったニュースを目にすることも、少しずつではあるが増えてきた。
ビジネスパーソンたちも副業に対する感心を高めている。複数の仕事を掛け持ちしながら多方面でキャリア形成をする「スラッシュキャリア」という働き方は、自身のスキルアップや生計の立て方を検討する際の、新たな選択肢として捉えられているようだ。
参考記事:『副業でリスクヘッジ?イマドキ世代のスラッシュキャリア』
株式会社ビジュアルワークスが実施した『2019年4月 副業に関する意識調査』の予備調査(対象:20~59際の男女10,000人)において、副業経験の有無を尋ねたところ、26.0%が現在または過去に副業を経験していることがわかった。また、これまで副業を経験したことがない人も、過半数の人が副業に興味を持っている。
『2019年4月 副業に関する意識調査』では、予備調査で「副業を経験したことがある」と回答した500人と、「副業に興味がある」と回答した500人、合計1,000人に本調査を行っている。
「就業先では、副業が許可されているか」という質問に対して、副業経験者は44.9%と半数近くが「許可されている」と回答したが、副業興味者では18.7%に留まり、大きな差が見られた。そもそも就業先に副業を許容する土壌がなければ、興味があっても動けない。
一方で、2018年の『モデル就業規則』の改訂に対する知識レベルも、副業経験者と副業興味者の間で異なっていた。「会社からの許可さえおりれば副業ができる」と知っている人が、自分から就業先に交渉しているケースもあるのかもしれない。
副業経験者に「いつから副業を開始したのか」を聞くと、やはり副業が緩和された2018年から副業をはじめた人が多い。また、副業にもさまざまな種類があるが、在籍している会社からの許可がなければ難しい「就業系(事務、接客、体力仕事など)」のものについては、特に2018年の増加が目立っている。
法改正によって副業・兼業が認められやすくなり、個々の副業に対する関心も高まっている。しかし、このまま勢いに乗って、副業が当たり前になる時代を迎えるためには、二つの大きな壁がある。
(1)企業が副業解禁に二の足を踏んでいる
解禁しない理由としては、「過重労働となり、本業に支障をきたすため」、「職場のほかの従業員の業務負荷が拡大する懸念があるため」、「組織内の知識や技術の漏洩が懸念されるため」等の意見がある。
MANA-Bizでは2019年1月に、『7割の企業が「予定ナシ」。副業解禁への道のりは険しい?!(/solution/mana-biz/2019/01/7-1.php)』という記事を掲載している。
しかし、上記記事の掲載から現在までの間に、副業解禁を発表した企業もある。2019年4月に働き方改革関連法案が施行されたことで、派遣社員や契約社員だけでなく、正社員にも副業を認める企業は、今後も増えていくことが推測される。
(2)本業と副業の両立は簡単ではない
『2019年 副業に関する意識調査』の自由回答では、副業経験者から「精神的、肉体的にすごく疲れる」、「本業にやや負担をかけてしまった部分があり、両立は難しかった」といったデメリットが挙げられており、企業側が副業解禁をためらう理由と合致していた。また、「寝る暇がない」、「家族との時間が減った」といった、副業を始めたことでかえってワークライフバランスが崩れるリスクもあるようだ。
2つの仕事を持つということは、調整の難しさを意味する。一方の仕事が急に立て込んできたとしても、もう一方を疎かにするわけにもいかず、当人は自身の時間と体力・精神力を削るしかない。本業と副業の両方の繁忙期が同時に来て、心身ともに疲弊してしまったという例もある。
今後、解禁企業の増加と比例して副業をする人が増えると、こうしたデメリットがさらにクローズアップされていくかもしれない。
副業をするメリットは、金銭的に余裕ができること、収入の柱を2本持つことで将来への不安が緩和されること、本業以外の分野でもスキルアップができること等がある。収入面ではなく、自身の生活の充実や自己実現のために副業をする人も少なくない。しかし、これらのメリットを享受するためには、自己管理能力とバランスが必要不可欠だ。
今、働き方改革によって、残業時間の削減や有給休暇取得の義務化が始まっている。しかし、獲得した時間をすべて副業に注いでオーバーワークになってしまうと本末転倒となり、企業にも個人にもメリットが少ない。副業のリスクもしっかりと把握したうえで管理を行えば、企業も個人も“新しい働き方”としての副業を活かしていくことができるのではないだろうか。
※厚生労働省HP 「副業・兼業」
【出典】株式会社ビジュアルワークス イラストオーダーマーケット「SKIMA」2019年4月 副業に関する意識調査