レポート
ROIを最大化する場起点のデータドリブンで考えるオフィスづくり~「移動」と「利用」の時間を可視化~
WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.6
2019年11月22日(金)に開催した「WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS」から、「ROIを最大化する場起点のデータドリブンで考えるオフィスづくり~「移動」と「利用」の時間を可視化~」の様子をレポート。成果を生む働き方を目指してABW(Activity Based Working)に取り組む際、当然ROIを気にするべきである。そこで、オフィスづくりにもデータドリブンを持ち込み、ROIの測定や評価を基に設計していくことが望ましい。そのノウハウとはどの様なものなのか。
リターン(効果)にこだわるなら
働き方改革の王道は「W・W・H」
スピーカーは、コクヨで営業、研究、企画と渡り歩いてきた、コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部コンサルタントの曽根原士郎氏。コクヨの業績やノウハウ、コンサルティングの際の提案をケーススタディとして紹介しながら、データドリブン(※1)によってROIを高める手法について講演を行った。※1:効果測定などで得られた結果からさらにデータを分析していくこと。データ駆動とも呼ばれる。
高いリターンを生み出すオフィスを
データドリブンでつくる
「ありたい姿」を明確にしたうえで、次に着手すべきは、高いリターンを生むオフィス設計のためのデータ収集だ。曽根原氏がポイントとするのは、「場の利用評価指標」。「在席率や空間別利用頻度」、「拠点候補地別や3rdプレイス利用時のコスト効果」など、"センサーを使った調査+α"によって評価指標が明確になり、データドリブンでオフィスを構築することが可能になる。
※2:ファシリティコストを分析、評価する手法。①施設運営費、②売上高、③拠点人員、④総施設面積、の4つの指標を1枚の座標チャートにプロットし、総合的に評価する。描かれる四角形が小さければ小さいほど結果が良いと評価する。
次世代オフィスの
3つのテーマ
国内ではテレワークへのニーズが高まっているが、海外ではYahoo!やGoogle、IBMといったIT大手企業が、一度は在宅勤務を実施したものの数年後に撤回したことは記憶に新しい。米Yahoo!ではその理由について「人は1人でいると生産性は上がるが、集団になった方がイノベーティブになる」と説明した。作業の生産性はもちろん重要だ。しかし、オフィスの価値を高め、イノベーティブな空間にするためには、何が求められるのだろうか。曽根原氏は、ポイントとなる要素として下記の3つを上げた。1.専門性/安全性優先環境の整備企業には、専門的な設備や機材を整備し、セキュリティに配慮した執務空間や専用ソフトウェアが利用できる環境などを整える義務があります。社員にとっては環境が整っていることで業務を効率的、あるいは効果的に進めることができるので、これがオフィスに出勤する動機の一つになりえます。オフィスは専門性と安全性が優先された環境であり、利用者、利用シーン、利用時間、頻度、順序などに基づき、使いやすく整えられることが重要です。2.来たくなる場所一日の大半を過ごすオフィスは、社員にとって来たくなる場所、気持ちよく過ごせる場所、コミュニケーションの取りやすい場所であることがとても大切です。昨今のオフィスづくりでは顕著にその傾向が見られます。多くの企業が、執務デスクは小さめにするかわりに、チームでの作業や食事などに気軽に使えるスペースや、部門や部署の壁を越え、さらにはお客様とも交流できるオープンなコミュニケーションエリアを広げています。時にはそこで集中して、疲れたら気分転換をして、気軽に話したい時には食事をしながら...。まさにリビングライクなテイストがトレンドであり、そのために社員食堂やカフェカウンターといった飲食と水回りの機能を備えた空間への要望が増えています。3."一体感"重視・醸成ここでいう一体感とは、「心理的安全性」の高い職場やチームを指します。具体的には職位、年齢、経験を越えて、「それは本当にお客様のためになるのか?」、「自社の利益に繋がるのか?」、「一旦、ゼロから考えてみよう」、といった本音のコミュニケーションが取れる状態のことで、チームのパフォーマンスとリターンを向上させる大きなカギとなります。また、まだ仮説ではありますが、この一体感を高めていくために欠かせない、重要なキーワードを3つご紹介します。近接行動:人と人、人とモノ、人と情報が近くにあり、なんとなく目に入る、会話が聞こえる、雰囲気や温度感、行動が伝わり合うことで新たな気づきや思わぬインプット、つながりが得られることもオフィスならではのメリットと言えます。トランザクティブメモリー:「その件なら研究部署のAさんが詳しいはずだよ」など、組織内の誰が何を知っているかを知っていることは、その企業のビジネスのスピードやバリューチェーンの肝になります。この社員間相互の認知や関係性の強さをつくり出す場所としてもオフィスはとても有用です。五感を共有できるシンボル:象徴的なエントランスや心地よいリラックススペース、香り、デスクの色や形、配置、オフィス全体の景観など、この会社に勤め、仲間たちと仕事をしていることを五感で共有しあえる、ポジティブな「らしさ」を指します。その点でオフィスは最も工夫のしがいがある場所と言えます。データドリブンにOODAを組み合わせて
オフィスのROIを最大化するROIにおけるR(リターン)を最大化するオフィスをつくるために、「ありたい姿」を決め、そのための「意識や行動変容」を決めることは基本であり、もっとも重要なことですが、それらを具体的なオフィスに落とし込むうえで信頼できるエビデンスとなるのがデータです。さまざまな視点で現状をデータ化し、分析をする。それら現状データと「あるべき姿」実現のための目標となるデータを突き合わせることで、リターンを最大化するオフィスの具体的な要件が定まるのです。そのためにも、従来のPDCAサイクルに加え、データドリブンという手法を駆使したOODAループを組み合わせて、現状を測定し(observe)、データ分析によって現状を把握し(orient)、何をすべきかを決め(decide)、具体的に動く(action)、を実践することが、リターンの高いオフィスづくりの一番大事なポイントとなるのです。まとめ
「オフィスづくり」というと、家具や空間のデザイン性を高めることばかりに目が行きがちだが、それだけでは真のリターンは得られない。時間や場所、人単位で観察し、そのデータをもとに設計されたオフィスこそ、一人ひとりの能力が発揮されるイノベーティブな空間になる。逆に、働き方に踏み込んでいないオフィスは、もはや長時間通勤をしてまで行く価値のない、ただの物理的な場となってしまうのかもしれない。曽根原氏の提案するデータドリブンは、いずれもリターンを高めるために欠かせない手法だ。一方、次世代オフィスについては、心理的な要素も多く含まれている点が印象的だった。オフィスという場所に集まる意義や可能性について、今一度問い直すべき時を迎えているのかもしれない。
曽根原 士郎(Sonehara Shiro)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1989年の入社後すぐに新規事業(OA・ICT)営業・企画の部署に配属。2001年より研究開発部で、新規事業・新領域商材担当。結果、6本上市。2014年より企画部門で新たなコラボレーションクラウドサービスの開発・立上げに従事。2016年からはコンサルティング部門で「働き方改革」コンサルと同時に新規ITサービス開発に携わる。2017年より同部隊にて、さらに新たな「働き方改革」ITサービスを立ち上げ中。