リサーチ

2020.07.06

データから読み解く日本の人材トレンド①

働き手の成長意欲が採用のあり方を変え始めている

現代日本において、企業と働き手の関係が急速に変わりつつある。その実情を探るべく、株式会社リクルートキャリアのメンバーが「働く」の現状や未来をデータから読み解くシリーズ記事を3回にわたってお届けする。現代日本の雇用をさまざまな角度から分析し、新しい働き方を提案する同社の提言から、これからの日本にフィットする雇用のあり方を見いだしていこう。

第1回は、新卒採用と中途採用における近年の傾向について、採用市場の最前線に関わる3人のメンバーに聞いた。

若者は「自分がどう成長できるか」を
重視して就職先を決めている

まずは新卒生の就職状況から、働くことに対する学生の意識が近年どのように変化しているかをみていこう。

株式会社リクルートキャリアの就職みらい研究所が2020年3月度卒業の大学生に向けて実施した就職プロセス調査では、2019年卒学生との違いが顕著な要素がみられた。「就職先を確定する際に決め手となった項目は?」という質問に対して、「自らの成長が期待できる」という項目を選んだ学生が56.1%と最も多く、2019年卒学生の47.1%を大きく上回ったのだ。つまり、学生が「働くことを通じて成長したい」という思いをより強く抱くようになってきたことになる。

この傾向について同研究所所長の増本全氏は、「学生がもつ"安定"の概念が変わってきたのではないか」と分析する。

「これまでは終身雇用などと言われる長期雇用が主流でした。ですから学生は、長い年月安心して働ける条件として企業の規模や知名度、福利厚生などを重視して就職先を決める傾向がありました。しかし近年は、終身雇用が維持できない企業やそもそも終身雇用を前提としない企業が出てくるなど、今までの常識とは変わってきたことを実感しています」

「そこで学生は"自分の成長こそが安定"と捉え、『どんな時でも働けるように、働く先でどんな能力が身につくのか』を基準に就職先を検討するようになってきたのではないかと推測できます」

逆に企業側からみると、「学生に対して、入社後にどのような成長ができるのかを示すことが求められる」という。
「近年は少子化が進み、採用難が加速しています。よりよい人材を採用するために企業は、入社後のキャリアパスや身につくスキルを具体的に提示していく必要があるのです」

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出典:リクルートキャリア 就職みらい研究所 「就職プロセス調査 (2020年卒)」【確報版】「2020年3月度(卒業時点) 内定状況」




インターンシップが
入社後のワーク・エンゲージメントを左右する

学生の就職活動において重要な位置を占めるのがインターンシップだ。実際、2020年3月度卒業の大学生・大学院生約1900名を対象にした就職みらい研究所の調査では、「インターンシップへの参加」を実質的な就職活動の開始ととらえる学生が約25%と少なくない。企業側も、「自社の仕事内容について理解を深めてもらう」「入社意欲の高い人材を絞り込む」といった意図からインターンシップを実施するケースが多い。

さて、インターンシップのメリットとして見逃せないのが、企業と働き手との信頼関係醸成だ。全国求人協会が2019年新卒者約470人に向けて実施した調査では、入社半年時点で「今の会社で働き続けたい」という就業意向を持っている人のうち、「入社した企業へのインターンシップ参加経験が入社の決め手となった」と回答した人が8割超みられたのだ。

一方で、入社時は就業意向を持っていたが入社後半年時点には転職意向に変わった人の場合は、「インターシップ参加が入社の決め手になった」と答えた人は約5割にとどまった。増本氏は、この結果を「インターンシップの効用を示す一つのエビデンスではないか」と語る。

「たとえ短期間のインターンシップ参加でも、仕事の擬似体験やその場でのフィードバック、社員とのやり取りから感じる社風など、いろいろな経験をすることによって、その企業への理解度は深まります。またインターンシップ期間が数週間から1か月に及ぶ場合は、実際の職務経験やそこで働く社員とのコミュニケーションも増え、『自分を理解してもらえた』という安心感が得られます。互いに理解し合い、信頼感を抱いて入社した企業なら、入社後にギャップを感じて転職意向を持つ確率は低いでしょう」

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出典:「2019年新卒者の入社後追跡調査」全国求人情報協会




増本 全(Masumoto Zen)


株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所所長。入社以来、新卒採用や就職支援に係る業務に従事。2018年10月より現職。全国求人情報協会新卒等若年雇用部会事務局長や文部科学省「令和元年度大学等におけるインターンシップ表彰選考委員会」委員など複数の公職を務める。

藤井 薫(Fujii Kaoru)

株式会社リクルートキャリア HR統括編集長。入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『アントレ』編集長などを経て現職。また、株式会社リクルートのリクルート経営コンピタンス研究所を兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」(「未来のはたらく」を引き寄せる伝道師)として、労働市場・個人と企業の関係・個人のキャリアにおける変化について、新聞や雑誌でのインタビュー、講演などを通じて多様なテーマを発信する。デジタルハリウッド大学と明星大学で非常勤講師。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)がある。

髙森 純(Takamori Jun)


株式会社リクルートキャリア 事業推進室 インキュベーション部 リファラルグループマネジャー。外資系コンサルティング会社を経て2012年に株式会社リクルートキャリアに入社。以降グローバル人事、ピープルアナリティクス、入社後活躍等の新領域の事業開発に一貫して従事。

文/横堀夏代