リサーチ
2020.07.07
データから読み解く日本の人材トレンド②
企業と働き手の信頼関係が試される兼業・副業
現代日本の雇用をさまざまな角度から分析し、新しい働き方を提案する株式会社リクルートキャリアのメンバーが、データをもとに「働く」の現状や未来を解説するシリーズの第2回。
今回は社員の兼業・副業をテーマに、「兼業・副業によって企業と従業員の関係性はどう変わるのか?」「兼業・副業を通じて働き手は何を得られるのか?」などについてお聞きした。
兼業・副業解禁の背景には
企業の離職対策がある
リクルートキャリアが2019年に企業・団体に向けて実施した調査からは、3割を超える企業が兼業・副業を認めていることが明らかになった。2018年の調査では約28%であり、兼業・副業を推進・容認する企業は少しずつ増えているようにみえる。リクルートキャリアの事業開発室で兼業・副業についての調査を手がける狩野美鈴氏によると、「大手企業を含めて、兼業・副業解禁の流れは確かに進んでいる」とのことだ。
「兼業・副業を解禁する企業が増えてきた理由の一つは、『離職防止』です。社員の兼業・副業を推進・容認している企業の業種別内訳をみると、サービス業や運輸業・通信業が目立ちます。これらの業種の中には、『他社に転職されるよりは、兼業・副業を容認してとどまってもらった方がいい』という人材確保の考え方から解禁に踏み切る企業も多いようです」
出典:「兼業・副業に対する企業の意識調査2019」リクルートキャリア
兼業・副業によるマイナス効果は
みられないと感じる企業が大半
兼業・副業は、ともすれば「自社の仕事がおろそかになる」「情報漏洩が起きる」「自社離れのきっかけになる」といったネガティブなイメージを持たれやすい。実際、これらの懸念を理由に兼業・副業を認めていない企業もみられる。
しかし狩野氏によれば、「兼業・副業を解禁している企業では、『情報セキュリティや健康管理などの懸念はあっても、それらをどうクリアするか』という観点から前向きに検討し、制度を導入しています」と説明する。まずは導入を決めたうえで、制度設計に取り組んでいるというわけだ。
なかには、兼業・副業を推進・容認する理由として、「人材育成・本人のスキル向上」を挙げる企業も意外と多い。
「このような企業では、『社員が自分でキャリアを考えるために、企業が用意する選択肢の一つ』として兼業・副業を認めています。ですから社員から希望が上がったときは、兼業・副業によって何を実現したいかを申請書や面談を通じてヒアリングし、社員の新しいチャレンジを応援する傾向があります」
出典:「兼業・副業に対する企業の意識調査2019」リクルートキャリア
とはいえ、兼業・副業の具体的な効果がすぐに実感できるわけではない。
「例えば離職率の低下や人材育成の効果などは、ある程度時間もかかりますし、複数の要因が重なって起こるものなので、兼業・副業のメリットを定量的に測るのは難しいかもしれません。しかし、制度を導入している企業へのヒアリングでは、『マイナス面はまったくみられないので、今後も続けていく』との答えが大半です」
他社での仕事経験が
自社へのエンゲージメントを高める
一方、兼業・副業を実際に経験した社員からも、本業に対するプラスの意見が多く上がっている。中でも見逃せないのが「本業の仕事の魅力を再認識した」という声だ。「兼業・副業に対する個人の意識調査(2019)」では、兼業・副業経験がある会社員のうち、「本業の仕事の魅力を改めて感じた」と回答した人が3割以上もいた。
「他社で働いてみて初めて、本業で培った経験やスキルが他社で通用することに気づき、改めて『本業の仕事を頑張ろう』とモチベーションを高める人が多くいることが調査の結果から見えています。例えばある情報通信系企業の社員であるエンジニアの方は、一時は社内での評価が得られずに、働くモチベーションが下がりがちでした。しかし、副業として他社で働く経験を通じて自分の知識や経験の有用性を実感し、本業への取り組む姿勢も変化し、ますます活躍するようになったのです」
出典:「兼業・副業に対する企業の意識調査2019」リクルートキャリア
狩野 美鈴(Karino Misuzu)
株式会社リクルートキャリア 事業推進室。人事支援サービス会社で業務企画・業務改革を経験後、リクルートキャリアに入社。人材紹介事業で法人営業を経て、事業推進室にて新領域での事業開発に従事。現在、兼業・副業領域を担当。