リサーチ
2020.07.08
データから読み解く日本の人材トレンド③
企業と多様な働き手が信頼・成長を深め合う社会へ
現代日本の雇用をさまざまな角度から分析し、新しい働き方を提案する株式会社リクルートキャリアのメンバーが、データをもとに「働く」の現状や未来を解説するシリーズの最終回。
今回は、「企業と働き手の関係が今後どう変わっていくのか」「そのために企業と働き手は何を志向するべきか」といったテーマについて、HR統括編集長として労働市場の動向を見つめる藤井薫氏にお聞きした。
これからの働き手は
従業員ではなく「主業員」に
そして、働き手は好条件を求めるだけでなく「成果を出す責任がある」と自覚しながら働く必要がある。
「これまでの社会では、極端に言えば企業が命令・統率する時代が長く続いてきました。ですから働き手も、受け身にならざるを得ない面があったといえます。ですが、働き手の志向はカンパニーフィットからライフフィットに変わり、企業も一人ひとりに寄り添う環境を模索し始めています。そこで働き手も、自分の持つ知識や能力を最大限に発揮して、主体的に仕事に向かうことが求められています。いわば、従業員ではなく『主業員』となるということです」
「終身成長」を志向する個人と
働き手をバックアップする企業がWIN-WINの関係を築く
働き手が「主業員」の意識を持って働くと何が起こるか。「自分の能力をもっと磨いて、さらによい仕事をしたい」と思うようになるのだと藤井氏はまとめ、「終身成長」というキーワードを使って説明する。
「人生100年時代といわれ、一人ひとりの職業寿命も延びています。その中で働き手は、ライフフィットするワークスタイルで、プロフェッショナルとして成長し続けながら働きたい、と志向するようになっています。この傾向を私は『終身成長』と名づけています。新卒採用市場で成長できる企業を選ぶ人が増えているのも、兼業・副業に興味を持つ人が出てきているのも、働き手の終身成長意欲の表れと言えるのではないでしょうか」
新卒者の就職では「自分を成長させてくれる企業かどうか」を就職先選定の決め手とする人が増え、中途採用市場では業種・職種の壁を越える転職が目立ち始めている。
また、新たな成長の機会を求めて兼業・副業に興味を持つビジネスパーソンも出てきた。藤井氏が指摘するように働き手は「終身成長」を求めており、これまで企業が設定してきた雇用の枠に収まりきらなくなっているのは明らかだ。そこに気づいた企業は、一人ひとりが成長しながら働ける環境を整える取り組みを始めている。
今、企業と働き手に求められているのは、信頼をベースにしたフラットな関係をつくり、互いの成長に貢献し合っていくことではないだろうか。
藤井 薫(Fujii Kaoru)
株式会社リクルートキャリア HR統括編集長。入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『アントレ』編集長などを経て現職。また、株式会社リクルートのリクルート経営コンピタンス研究所を兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」(「未来のはたらく」を引き寄せる伝道師)として、労働市場・個人と企業の関係・個人のキャリアにおける変化について、新聞や雑誌でのインタビュー、講演などを通じて多様なテーマを発信する。デジタルハリウッド大学と明星大学で非常勤講師。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)がある。