仕事のプロ
2020.12.10
組織の「心理的安全性」を高めるために〈前編〉
安心感がパフォーマンスを最大化する
コロナ禍をきっかけにテレワークが普及し、社内コミュニケーションのあり方も短期間で急激に変化した。離れて働くことが多いからこそ、管理職やチームのリーダーは、組織全体の生産性が高まるよう留意する必要がある。その生産性向上のベースになるといわれるのが、近年ビジネスシーンでよく聞かれる「心理的安全性」というキーワードだ。今だからこそ求められる心理的安全性の重要性について、コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部コンサルタントの立花保昭が解説する。
グーグルのリサーチをきっかけに 「心理的安全性」が注目を集めるように
2018年後半頃から、「心理的安全性」というキーワードがビジネスシーンで使われる場面がぐっと増えました。きっかけとなったのは、米グーグル社の『プロジェクト・アリストテレス』というリサーチです。 このプロジェクトでは、社内で中長期的に高い業績を上げている複数のチームにどんな共通傾向があるのかについて、調査・分析が行われました。その結果、成果を上げているチームでは、「リーダーが心理的安全性を担保したうえでメンバーに挑戦を促している」ことが明らかになりました。 アメリカでは日本より転職が一般的なため、メンバーの入れ替わりが激しい状況もよくありますが、メンバーの流動性が高くても高い業績を上げているチームはあります。そうしたチームの特徴を分析してみると、「リーダーが心理的安全性を担保しながら挑戦させている」という共通点がみられたのです。心理的安全性とは 周囲の反応に怯えず行動できること
そもそも、心理的安全性とはなんでしょうか。 心理的安全性とは、「だれかに助けを求めたり、ミスを認めたりしたからといって、罰が科されることはないと保証することである(※1)」という概念のことで、ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・C・エドモンドソンが1999年に提唱しています。 つまり、周囲の反応に怯えずのびのびと行動できる状態です。逆に心理的安全性がない状態だと、人は前向きになれなかったり、周囲の人や環境に疑問を感じながら行動したりすることになります。 ※1:論文「心理的安全とアカウンタビリティは両立する 「恐怖」は学習意欲を阻害する」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年10月号)より心理的安全性があることで 仕事への満足度や幸福度が高まる
心理的安全性の効果は、メンバーのパフォーマンスもチームとしてのパフォーマンスもあがることですが、なぜ心理的安全性が担保されると、パフォーマンスが上がるのでしょうか。 チームメンバーにとっての心理的安全性を分解して考えると「チームメンバーやリーダーと一緒にいると安心できる」「自由に仕事をさせてもらえる」といった要素が浮かび上がってきます。これらの要素は、「自分の存在を承認されている」と一言でまとめることができます。 自分の存在を承認してもらっていればメンバーの満足度が高まり、仕事に対するやりがいや幸福度が高まります。その結果、メンバー一人ひとりのパフォーマンスが上がり、チームの生産性もアップする、ということです。ですからリーダーには、チームの心理的安全性を担保する取り組みが求められるのです。 高パフォーマンスを発揮するための土壌として心理的安全性が求められるのは、考えてみれば当たり前の話です。私自身のキャリアを振り返ってみても、高いパフォーマンスを発揮できていたときには、上司が私の存在を承認し、思う通りに仕事をやらせてくれました。 ですから「心理的安全性」というキーワードに出会ったときは、『まさに自分はそのような環境のもとで働いていたんだな』と強く実感しました。立花 保昭(Tachibana Yasuaki)
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部 ワークスタイルコンサルタント/1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネータ
1990年コクヨ入社。出向した総合商社での大手流通業向け中国製品の開発・輸入・販売、コクヨでの開発営業、及び上海でのカタログ通販ビジネス立ち上げ等の経験を生かし、現在は企業向けの働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポート。