レポート
ニューノーマル時代の研究やイノベーションに必要なこと
HONDA先進技術領域研究リーダーが語る意識と行動
コロナ禍のテレワークで研究や開発に苦戦しながらも、工夫を凝らして研究を続ける、本田技術研究所の長滝貴人氏を迎えてイベントが行われた。「ニューノーマル時代の研究・イノベーション(2021年3月26日)」の様子をレポートする。
ウィズコロナ時代の 研究開発のポイント
この1年間いろいろ取り組んできたうえで私は今、ウィズコロナ時代に研究開発を行うにあたっては2つのポイントがあると感じています。 一つは「変化をポジティブに捉えること」です。コロナ禍によって私たちは、仕事の手法も働き方も変えざるを得ませんでした。しかしコロナがなくても、お客さまの求めるものや市場は変わっていきます。ですから製造業者は、自分たちのやり方を常にアジャストしていくことが必要です。今回のコロナ禍も、変化のきっかけとして前向きにとらえるべきではないでしょうか。そしてコロナ禍だからこそ、働きやすさを求めて組織形態やルールを変えていくことも求められています。 もう一つは「仮説立てに注力した働き方」です。コロナ禍では、会社の設備を使ってどんどんテストを行いながら仮説を検証していく機会は限られます。しかし、ゴールにつながる要素やプロセスを見据えて仮説をオンラインミーティングなどでじっくり立て、出社したときにテストを行うやり方にシフトしたら、業務にメリハリが出た実感があります。しっかりした仮説を立てるために、立案力や想像力を鍛えることは必須だといえます。 この二つはどちらも当たり前のことですが、その「当たり前」にどれだけ真剣に取り組むかが大切だと思います。
新しい働き方への シフトチェンジの方法は?
後半は、トークセッションが行われた。曽根原氏が長滝氏の講演の内容を掘り下げて質問していった。 曽根原:「コロナ禍で会社の設備や機材が使えなくなり、今までできたテストもできなくなったときに、『新しいやり方を試してみよう』とシフトチェンジできたのはなぜですか」 長滝:「当初は社内に、原状復帰を望む人も多かったですね。普段から働きやすい環境を少しずつ築き上げてき人たちが、元の状態に戻したいと考えるのはよくわかります。しかし、研究開発や価値創出をめざすにあたって、私たちのチームは、今までやってきたことの積み上げではなく、それを超える山をどうやったら生み出せるかを考えていきたいと思います。普段から現状に満足せず、新しい仕事や働き方のアイデアを考えていれば、パッと切り替えられるのではないでしょうか」 曽根原:「長滝さんは根っからのイノベーターだと感じます。既存の延長線上で改良していくことも大切ですが、逆境を跳ね返したり、新たなものを生み出したりするには、違う視点から物事を見つめ直す訓練も必要ですね」
ウィズコロナ時代の 「仮説立てに注力した働き方」とは?
曽根原:「『仮説立てに注力した働き方』について、あえて意地悪な聞き方になりますが、コロナ前にはそういう働き方はしていなかったのでしょうか? もししていたなら、コロナ前とウィズコロナ時代における違いは何でしょうか?」 長滝:「基本は同じです。ただ、現在は『試しにテストして仮説を検証する』といったことが難しいので、実際にはテストを行わずにどんな結果が出るかを予測し、『予測した結果が出たとしたら、その結果を踏まえて次は何をすればいいか』と頭の中で想像し、先取りしていくやり方に切り替えました。このやり方を続けることで、今までより短時間で成果や新しい価値を生み出せると期待しています。そのためにも今は、チームメンバーとは1日1回オンラインミーティングを行い、頭の中でPDCAを回した結果を共有し、次にやるべきことを一緒に検討しています」 曽根原:「頭の中でPDCAを回すプロセスの中では、都度考えたことを見える化しておくことも大切ですね」 長滝:「その通りです。オンライン上でホワイトボードのように活用できるツール(K-Board)を使うことによって、そのときに考えたことや創り上げた仮説も都度残してその場のライブ感を思い出せるようにしておき、よりよい結果につなげようと奮闘しています」 長滝氏は、新型コロナウイルス感染拡大による変化をある意味チャンスととらえ、積極的に仕事の手法や働き方を変革させている。このようなポジティブな姿勢を研究などに少しずつ取り入れてみることで、コロナ前には思ってもみなかったイノベーションを起こすことが可能になるかもしれない。
長滝 貴人(Nagataki Takahito)
株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 人研究領域主任研究員。1998年入社。四輪サスペンション研究開発部署に配属、基礎研究から新型車開発まで幅広く携わる。2005年よりドイツの研究所に駐在。高速域の車両挙動やドライバーフィールについて研究。2010年帰任後に電動車両の研究に着手し、電動車両がもたらす新価値を研究。2013年より運転行動の研究をスタートさせ、人の運転を良くするための技術を開発。現在は、運転行動からドライバーの状態や意思を読み解く技術開発に着手中。
曽根原 士郎(Sonehara Shiro)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1989年の入社後すぐに新規事業(OA・ICT)営業・企画の部署に配属。2001年より研究開発部で、新規事業・新領域商材担当。結果、6本上市。2014年より企画部門で新たなコラボレーションクラウドサービスの開発・立上げに従事。2016年からはコンサルティング部門で「働き方改革」コンサルと同時に新規ITサービス開発に携わる。2017年より同部隊にて、さらに新たな「働き方改革」ITサービスを立ち上げ中。