リサーチ
「幸せに働く」ための体験と環境
仕事観の現在地から導くこれからの働き方
働き方が多様化した現在、ポストコロナに向けてこれからの働き方はどうあるべきか。ワーカーが幸せに働くことを促す体験や価値観、それを受け止める環境をあきらかにすべく、約6000名に意識調査を実施。これから組織が注目すべき「幸せに働く」要件について、コクヨ株式会社ワークスタイル研究所の田中康寛が解説する。
リモートワークは ワーカーの満足度を高めやすい
新型コロナウイルス感染拡大の影響で半強制的にリモートワークを導入した企業も多い中、それを「長期間実践している組織」「短期間実践している組織」「全く実践していない組織」で満足度を比較してみると、リモートワークを実践している組織は体験充足度が高まりやすい傾向が見られます。一方、長期間実践していくことで心理的安全性は低下しやすく、リモートワークを長く続けていく場合はチームの話しやすさ、助けあいやすさについてサポートが必要になると言えます。 また、リモートワークの頻度で充足度を比較すると、週1~4日リモートワークを実践している人の方が、毎日リモートワークまたは毎日オフィス出社する人よりも体験充足度が高いことがわかります。つまり完全にリモートワークまたは出社に振り切るのではなく、「オフィス集合」と「オフィス外分散」を組み合わせたハイブリッド型の働き方が、働く充足度を高めるという意味では望ましい働き方であると言えます。
オフィスに求められる価値は 働き方や仕事観で異なる
働き方によってオフィスに求められる価値は異なります。オフィス出社中心のワーカーの場合、資料作成や事務作業などの個人業務の効率化をオフィスに求める傾向があります。一方週3日以上リモートワークを行うワーカーでは、雑談や相談、意志決定の会議など情動的なコミュニケーションを中心とした活動を、オフィスに求めていることがわかります。 従来オフィス環境は個人作業に集中しやすいように執務席に重きを置いて整えられてきましたが、今後、「オフィス集合」と「オフィス外分散」というハイブリッドな働き方になっていく中で、表情・情動・所作などの身体情報や、その場の空気感などをシェアしやすい環境づくりという視点も取り入れたオフィスが重要になってくるのではないかと考えます。 たとえば、「遊ぶ」「つくる」「育てる」など業務外の共通体験を提供することで、これまで接点のなかった人の人となりを感じあえる環境をオフィスに取り入れている企業も増えてきています。 また、仕事観によってオフィスで行いたい活動も変わってきます。組織の中にどのような仕事観の人が属しているのかを加味しながら、「集中しやすさ」「チームビルド」「公私の切りかえやすさ」など付加する価値を検討したえうえで、オフィス体験を設計していくことも効果的です。
組織の一体感を保つためには 「カルチャー」が必要
一方、それぞれ異なる仕事観の人が、仕事に合わせてそれぞれの環境で働くとなると、組織の分断を危惧する組織も少なくないでしょう。分散して働く中でも組織の一体感を保つために重要になってくるのが「カルチャー」だと考えます。組織の一員としての振る舞い方を規定するものがカルチャーですが、これを明確化することで、バラバラの場所で働いていても同じところをめざして仕事をしていると感じることができます。 「分散」と「集合」のハイブリッド型で働いていく中で、組織の「カルチャー」をどのようにシェアしていくのかは大きなポイントになってくると言えます。ミッションやビジョンのように明文化したり、オフィスの雰囲気を通して暗黙的に感じられるようにしたり、多面的にカルチャーを表現することが重要でしょう。 この意識調査結果をヒントとして、自社にどんな仕事観、体験充足を抱いている人がいるのかを理解し、ワーカーの「幸せに働く」を推進するオフィスづくりに役立てていただけたらと思います。
【出典】「仕事観の現在地からこれからの働くを導く WORK VIEW2021」田中 康寛(Tanaka Yasuhiro)
コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 / ワークスタイルコンサルタント
2013年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品企画・マーケティングを担当した後、2016年より働き方の研究・コンサルティング活動に従事。国内外のワークスタイルリサーチ、働く人の価値観調査などに携わっている。