レポート

2021.05.18

「進化思考」×「働く」

「人と組織の結びつき方」はどう進化できるか?

生物の進化の構造に創造性の法則を見出す「進化思考」。その学びの場としてオンラインスクール「進化の学校」がある。今回は「働く」をテーマに人と組織との関係性を再構築してきた、(株)リクルートHR統括編集長の藤井薫氏をゲストに迎えて、進化思考でとらえた「人と組織の結びつき方」をテーマに展開したセッションの様子をレポートする。

「働く」の進化は己を知ることから
4つの観点で自己を捉える

6_rep_008_06.jpg太刀川:「個人・法人にせよ彼氏・彼女にせよ、パートナーのマッチングを自分のパーパスと相手のパーパスのお見合いだと考えると、そもそも自分のパーパスがクリアじゃないといけませんよね。でも実際は、やりたいことって言われても...という人が多い」

「就活では学生時代に何を達成したかが問われがちですが、何かをやるよりも、自分の正体がなんとなくつかめるようになることの方がずっと大事なんじゃないかなと思うんです。そのときに進化思考の4つの適応の観点(解剖・系統・生態・予測)で考えていくのもまた有効なんですが、そういう自己探求する時間や機会って学校ではほとんどないですよね。相手である法人側の問題もあるけど、まずは働く個人自身の自己認識の課題もありそうです。こんな風に生きたいからこんな人と結婚したい、と言うイメージがないから、年収が高い人を目指して結婚するイメージですかね」

6_rep_011_05.png藤井:「目に見えるわかりやすいものばかりに意識が向いているのかもしれませんね。「働く」には目には見えない要素や現象もあるので、適応の4つの観点で全体性をもって自己を捉えて、メタ認知するような感覚をもつことが大事かなと思います」

「肝になるのが呼吸です。現代人は呼吸が浅くなっていますが、頭でっかちなものの見方ではなくて、身体感覚を研ぎ澄ませて、目に見えないものまで感じ取るには、深い呼吸が必要なんです」

「「息が合う」という表現がありますが、「息」という漢字は、自分や自然の「自」に「心」と書くんですよね。息は自分の心、さらには、自然の心と読み解けます。自分と相手の先にある自然、未来、次の世代、子孫たちまでつながっていく、過去から未来へと通底するような深い呼吸があるといいんじゃないかなと。自然と行き(いき)来する往還、そして呼吸の息(いき)の意味を含んだ「いき」を、「働く」に取り入れていきたいですね」

太刀川:「自分の心、自然の心が息というのも、また深いですね」

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藤井:「それを言うと、自然の分身が「自分」なんですよ」

太刀川:「なるほど。自分が自然の分身であるならなおさら、自分を理解するために、自分になる前や、自分を取り巻く関係を知る必要がありますよね。僕が進化思考で時空観学習と呼んでる自分に至るまでの系統的な流れ(系統)、自分を取り巻く社会生態的なつながり(生態)、自分自身が獲得してきたものの解剖的な中身(解剖)、将来残していく子孫(予測)...。そういう時間・空間的なつながりが本当はあるのに、それを無視したり断絶したりして考えると、自分がわからなくなるのも無理はないです」

「働くことにおいても、自分が時空観的にどういう流れにいるのかを理解したうえで法人とマッチングができると、幸せになれそうですよね。今日のセッションを振り返ると、法人の人格がわからなすぎる問題とか、わかるまでのお付き合いが浅すぎる問題とか、そもそも自分がどんな人間でどんなパートナーが欲しいのかがわからない問題とか、そういうところに「働く」を進化させるタネがありそうだなと感じました」

藤井:「そうですね。大変興味深かったです。ありがとうございました」

最後に藤井氏が、「『進化思考』は、読むと深呼吸ができる、命が深まる1冊。呼吸が浅くなっている私も含めた全ての現代人に、ぜひ、この本を贈りたい」と締めくくり、トークセッションは幕を閉じた。



書籍紹介

『進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)

6_rep_008_05.jpg進化思考―それは、生物の進化のように二つのプロセス(変異と適応)を繰り返すことで、本来だれの中にもある創造性を発揮する思考法。38億年にわたり変異と適応を繰り返してきた生物や自然を学ぶことで、創造性の本質を見出し、体系化したのが『進化思考』である。変異によって偶発的に無数のアイデアが生まれ、それらのアイデアが適応によって自律的に自然選択されていく。変異と適応を何度も往復することで、変化や淘汰に生き残るコンセプトが生まれる。https://amanokaze.jp/shinkashikou/




太刀川 英輔(Tachikawa Eisuke )

未来の希望につながるプロジェクトしかしないデザインストラテジスト。プロダクト、グラフィック、建築などの高い表現力を活かし、領域を横断したデザインで100以上の国際賞を受賞している。生物進化から創造性の本質を学ぶ「進化思考」の提唱者。主なプロジェクトに、東京防災、PANDAID、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。主著『進化思考』(海士の風、2021年)は第30回山本七平賞を受賞。

藤井 薫(Fujii Kaoru)

株式会社リクルートキャリア HR統括編集長。入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『アントレ』編集長などを経て現職。また、株式会社リクルートのリクルート経営コンピタンス研究所を兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」(「未来のはたらく」を引き寄せる伝道師)として、労働市場・個人と企業の関係・個人のキャリアにおける変化について、新聞や雑誌でのインタビュー、講演などを通じて多様なテーマを発信する。デジタルハリウッド大学と明星大学で非常勤講師。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)がある。

文/笹原風花