リサーチ

2021.06.09

ポストコロナ時代の会議のあり方マネジメント

コクヨが考えるオフィスの役割

昨今、ビジネス上のコミュニケーションスタイルは大きく変わりつつある。テレワークが普及してWEB会議の機会が増えたことで、対面では目立たなかった課題が顕在化してきた。コクヨが行った実証実験から見えてきたポストコロナ時代の会議マネジメントについて、ワークスタイルコンサルタントの伊藤毅が解説する。

コロナ禍のWEB会議急増で
顕在化した課題

2020年4月以降は新型コロナウイルスへの感染対策としてWEB会議の回数が激増。多くの企業では、コミュニケーションスタイルの変化を余儀なくされました。

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しかしながら、WEB会議の増加に伴い、課題も浮かび上がってきました。コクヨが2021年2月に実施した調査では、ネット上のコミュニケーションで「雑談ができない」「相手の理解度が測れない(表情が読めない)」「本音の会話がしづらい」といった課題を抱える人が多いことも明らかになりました。

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私自身も、WEB会議で物足りなさを感じることが少なからずありました。特に3人以上の会議で、アイデアを発散させる会議(ブレインストーミング)などを行うときは「アイデアにつながりそうな雑談が出てこない」「相手が何を考えているかわからない」と悩みを抱えることもしばしば。これは個人的な感覚だけでなく、多くのビジネスパーソンが抱える課題であったことが2月の調査結果が示しています。

もちろん、WEB会議が普及する前から、会議に関する課題は多くのビジネスパーソンが持っていたのではないかと思います。コロナ禍前にも、お客さまから「会議を活性化したい」「創造的な会議にしたい」というご相談をよくいただきました。コロナ禍をきっかけに、対面に代わってWEB会議が主流になったことで、課題をより深刻化してきたと感じる人が増えたのではないでしょうか。




ポストコロナ時代の
会議のあり方を探る

こうして会議のあり方についてあらためて考える機会を得たことで、漠然と感じているWEB会議への課題感の正体を探ることにしました。その方法が発話量を分析できるスマートスピーカーを使った実証実験です。

発話量を分析できるスマートスピーカー

会議プロセスにおける発話量(「いつ」「誰が」「どれぐらい」話したか)をリアルタイムに測定・分析が可能。卵型のスマートスピーカーには8個のマイクが内蔵され、音の方向を感知。「音環境分析」と「議論分析」を組み合わせた議論評価を活用。 (株式会社ハイラブル開発/イ.ソフト株式会社提供) 4_res_202_01.png


スマートスピーカーを使った実証実験はすでに教育現場で行われています。どの子がいつ、どれくらい発話しているかをデータで見える化することで、「全然しゃべってなかった」「次回はもっと話そう」といった、客観的なふり返りにつながった事例もあります。 ただし、ビジネスの現場での実験事例は少なかったため、この機会に提供元のイ.ソフトとコクヨとでビジネスの現場での実証実験にチャレンジしました。

教育現場での実証実験から、「発話の量」と「発話の重なり」が着目点であることがわかっていました。「発話の量」は会話の主導権を握っていた時間を表し、「発話の重なり」は何人が同時に発言していたかを表します。そして、ハイラブルの過去の実験からは、活発に議論が行われた会議では「発話の量」に偏りが少なく、「発話の重なり」が多い、という傾向が見えていました。

この活発な会議に見られる傾向をふまえ、次のような仮説立てによる、実証実験を行いました。


仮説と実験方法

ビジネスの現場では、さまざまな目的で会議が行われますが、その中でも特に活発な議論が求められるのは、新しい企画やアイデアを出し合う「発散会議」です。一方、進捗確認や情報共有の場である「共有会議」は、正しく伝えることが目的であり、活発な意見交換がそれほど重要視されていません。

そこで、目的が対象的な「発散会議」と「共有会議」という2種類の会議体で実証実験を行うことにしました。また、私が課題意識を持っている、「WEB会議」と「対面会議」でも比較してみることで、会議の目的と会議スタイルを掛け合わせて、傾向値を探ることにしました。

[仮説] 4_res_202_02.png

[実験方法:参加者の「発話の量」と「発話の重なり」を測定] 4_res_202_03.png




会議活性化のカギは
「発話の重なり」

実証実験から、以下のような傾向が見えてきました。

対面での発散会議の傾向

発散を目的とした対面の会議を5人で行ったところ、下記図のように数人が同時に話す場面がよくみられ、グラフで見ると発話の重なりが1以上、すなわち同時に複数人が声を出している瞬間が多かったのです。1以上になっているときによくみられたのが、聞き手の誰かがうなずいたり、「へ~」「そうそう」といった驚きや共感の声を出しているケースです。

4_res_202_04.png 図1)対面の発散会議:縦に1以上の山ができている部分は、1人以上の声の重なりがあったことを示している。


発散会議におけるうなずきや相づちは、「あなたの発言に共感します」「あなたの意見に関心を持ちました」という気持ちの表れです。このような聞き手のリアクションによって、話し手の承認欲求(「他人から認められたい」という感情)は満たされ、気持ちよく発言できるようになります。

会議テクニックとしてうなずきや相づちの大切さはよく言われていますが、データとしてもその大切さが証明されたのです。そして対面の会議では、うなずきや相づちを打つシーンが多くみられることから、うなずきや相づちを打ちやすい状況であるとも言えます。

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WEBでの発散会議の傾向

一方WEB会議の図からは、同じように発散を目的とする会議であっても、対面と比べて、話し手の声とそれ以外の人の声がほとんど重なっていないことがわかります。

4_res_202_06.png 図2)WEBの発散会議:縦に1以上の山がほとんどないことから、ほぼ1人しか話していないことがわかる。


また、声が重なっていないだけでなく、一人ずつ順番に発言をしているところも特徴的です。余計な雑音をさけるためにも、発言する人以外はマイクをオフにするのがWEB会議のマナーとして定着しつつあるため、予測通りの結果とも言えます。この結果から、意見が活発に交わされるような、ワイワイ・ガヤガヤとした雰囲気ではないことが読み取れ、その要因としてはオンラインという環境が大きく影響していることが推察されます。



対面・WEBに共通した情報共有会議の傾向

情報共有が目的の会議では、「発話の重なり」において対面とWEBで大きな違いはみられませんでした。共有会議は情報を正確に伝えるために行われるので、聞き手の相づちは「伝わりました」「内容が理解できました」という意思表示。話し手も、「伝えること」を目的として話すため、発散会議のように共感は求めていないでしょう。そのため、相づちがなくても、「対面の会議と違ってしっくりこない」といった違和感を覚えずに情報を伝えることができるのではないでしょうか。

4_res_202_07.png 図3)対面の共有会議:図2と同様に縦に1以上の山がほとんどないことから、ほぼ1人しか話していないことがわかる。




WEB会議では
聞き手の共感・承認が伝わりにくい

WEB会議ではオンラインという環境要因により、アイデア発想に欠かせない活発な意見交換などに課題があることが見えてきました。同時に、会議の内容によってはWEBでも問題なく行えることも見えてきているため、コロナ禍の現在はもちろんコロナ収束後も、WEB会議がなくなることはなく、今後ますます対面とWEBを使い分けた働き方が主流になっていくことは間違いありません。だからこそ、会議マネジメントが重要になってくるのです。




ポストコロナ時代の
会議マネジメント

今回の結果から、会議の目的に応じて、下記のように対面とWEBを使い分けることが、リモートワークがあたりまえになるポストコロナ時代の効率的で有意義な会議マネジメントにつながると考えています。

共有会議:WEB・対面どちらでも問題ないが、共有した情報に基づいて調整を行う場合、内容に応じてWEBと対面を使い分ける 発散会議:対面が有効。参加人数が多いほど対面で行うことが望ましい。また、対面の方がより活発な意見交換が期待できる

これは今回の実験から見えてきた会議マネジメントの一つの考え方ですが、ここで重要になってくるのが対面会議の場所についてです。対面会議はオフィスにメンバーが集まって行うことになりますが、一口に会議スペースといっても個室の会議室やオープンスペースなどさまざまな選択肢があります。今後は、会議用途や参加人数によって「どんなスペースが向いているか」「どんな機能が必要か」といった点を考えることも重要だと感じています。




コクヨが考える
これからのオフィスの役割

今回の実証実験では、「対面とWEBそれぞれの傾向から、会議の目的や参加人数に応じて対面とWEBの使い分けが重要である」ことが、感覚値ではなく目に見えるデータとして明らかになりました。

その上で、会議を「コミュニケーション」という広義で捉え直したときに、よりクリエイティブなコミュニケーションをするための場として、オフィスの重要性が、さらに明確になったと感じています。

コクヨでは、これからのオフィスに求められるのは「ここでしかできない体験」「個と組織をつなぐ求心力」「社会性を持続させる場」だと考え、自社オフィスを実験の場として新しい働き方にチャレンジしています。会議やミーティングの場としても、さまざまな機能を備え、用途によって選択できるようにしています。

今後ますます、対面とWEBを使い分けた働き方が進んでいくなかで重要になるのは、対面コミュニケーションの価値を最大化すること。たとえば、デスクや椅子を工夫する以外に、大型で稼働できるホワイトボードやホワイトボード機能付きの多機能ディスプレイを活用すれば、参加者の柔軟な発想を促したりサポートしたりすることができます。

また、こうしたコミュニケーション活性化のツールや仕掛けをオフィスに備えることが、オフィスに集まる価値にもつながります。オフィスの意味が問い直されている今、コミュニケーションのあり方と、そのためのオフィスのあり方を、本気で考え直す時期なのではないでしょうか。

4_res_202_10.jpg 左から)大型稼働ホワイトボード/ホワイトボード機能付きの多機能ディスプレイ


4_res_202_11.jpg コクヨ品川オフィス


伊藤 毅(Ito Go)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
2007年コクヨ入社。セキュリティやITなど働き方を支援する仕組みや環境づくりに従事し、コクヨのクラウドを活用したワークスタイル企画に参画。現在は、働き方・IT・制度の3つテーマを働き方プロジェクトマネジメントとして実施。

文/横堀夏代