リサーチ
ワーカーの「学び」への意欲と実態
意欲があっても学べない。業務優先で成長機会がつくれない
人生100年時代を生きるワーカーは、社会人になった後も「学び」を重ね、常に自身をアップデートしていく必要がある。国によるリカレント教育推進、大学や大学院の社会人受け入れ枠拡大などによって、ワーカーが学べる機会も以前より増加している。コクヨ株式会社が実施した調査結果をもとに、社会人当事者の「学び」への興味・関心と、学びの推進のために必要なことを考察する。
9割近いワーカーが 「学ぶこと」に意欲的
調査では88.1%のワーカーが、「自分が知らないこと」を知ることが「好き」と答え、「新しいことを学びたい」という意欲が高いことがわかりました。
ワーカーが学ぶ理由・きっかけ
仕事上、必要性に迫られて学ぶ
調査では、「仕事に必要なことは仕事を通じて学ぶ」「必要に迫られて学ぶことが多い」との回答が多いことから、学びのキッカケが仕事にあり、必要に迫られて学んでいることがわかります。特に、他部署への異動や勤務地の変更、海外出張・海外赴任といった担当業務が変わるとき、また仕事のなかで新しい知識や専門知識が求められるときが、学ぶタイミングになっているようです。
他者から刺激を受けて学ぶ
仕事上の必要に迫られて学び始める一方で、「家族や友人との会話」「学生時代の友人が成長したと感じたとき」など、身近な人からの刺激も学びのキッカケとして多くあがっています。仕事の場面でも、「上司の立ち居振る舞いに感動したとき」「会社がセッティングしてくれる研修・セミナーの参加時」「同僚や先輩からの情報」など、他者の行動や成長に影響を受けていることがわかります。
キャリアアップのために学ぶ
昇進・昇格の条件を知ったときや、昇進・昇格を意識したとき、昇進・昇格した人を見たときに、学びの必要性を感じて行動に移すケースもあるようです。社内での昇進・昇格に限らず、転職や副業などでキャリアアップを目指すワーカーにとっても、学びは必要不可欠といえるでしょう。
仕事に必要・仕事に役立つことを学んでいる
調査では、過半数のワーカーが、「自分の業界・サービスについて深く学ぶ」よりも、「自分の業界・サービスに関係なく幅広く学ぶ」ことを重視していました。しかし同時に見えてきたのは、「いつ役立つかわからないことでも常に学ぶことが多い」よりも、「必要に迫られて学ぶことが多い」という実情です。幅広く学びたいとの想いはあっても、現実的には、限られた範囲でした学べていないと考えられます。
身近な人から多くを学んでいる
調査から、多くのワーカーは仕事関連の知識を必要に迫られて学んでいることがわかりましたが、学びのキッカケや刺激になっているのも、学びのリソースとなっているのも身近な他者であることもわかりました。ワーカーの学びには身近な他者が欠かせない存在であり、人間関係のなかで多くの学びが生まれているようです。 また注目したいのは、学び方のイメージと実際の学びにギャップがあることです。現実的には、身近な人から多くを学んでいる一方で、「学びに役立つもの」という質問に対しては、「いつでも学べるオンライン学習機会」「様々なジャンルの本」「イントラネットの情報発信」などモノやツールを使った学びをイメージする回答が上位にきているのです。幅広く学びたいと思いながらも、業務に直結したことしか学べていない現実から考えると、オンライン学習や本は学びを広げたいという想いの表れなのかもしれません。
「学びたくても学べていない」現状
「現在学んでいる」ワーカーは52.4%に留まり、36.9%は「学びたいが、学べていない」と回答。その理由として、「(仕事や育児で)時間がない、忙しい」「意欲がない、やる気が出ない」「心的余裕がない」といったモチベーションの低下を伺わせる意見も見られました。
成長のために学び続ける
調査からは、学ぶ意欲はあっても学べていないワーカーが多いこと。また身近な人との関係性の中で学びが生まれ、身近な人から多くを学んでいることもわかりました。 人生100年時代、そして変化のめまぐるしい時代には、「学ぶ」と「働く」を分けずに、積極的に学び続けることが求められます。また、予測不可能な変化が起こり、働き方も変化せざるを得ない時代だからこそ、企業頼みではなく、個人としても変化に対応できるよう成長していく必要があり、そのためにも学びは必要です。 仕事に直結する内容を学ぶことも重要ですが、学びの範囲が限定されることで成長を阻んだり、可能性を狭めてしまう恐れもあります。また、時間がない、心的余裕がないことを言い訳にして学びを後回しにしていると、いつかそのツケが回ってきて、後々後悔することになるかもしれません。これからは、仕事に限らず興味のアンテナを張って、自ら学ぶテーマを探し、学ぶ時間をつくりだす工夫をしていくことが大切になってくるでしょう。 また、「学び=専門知識や新しいスキルを身につけること」という意識が根強く、日々の仕事を通じて多くを学び成長していることを、うまく実感できていないワーカーも多いようです。成長の実感が得られないとモチベーションも下がります。大きな成果を上げることだけにフォーカスせず、「早く仕上げられた」「段取りが上手くいった」など、小さな成功体験に意識を向けることも大切です。 企業には、社員の視野を広げる機会の創出(セミナーや交流会など)、個人がいつでも自由に学べる体制づくり(社内オンライン講座やイントラネットの整備など)に加え、社員のモチベーションを向上・維持するために、小さな学びや成長を褒めて伸ばす姿勢も重要になるでしょう。
実施日:2021.4.14-16実施
調査対象:社員数500人以上の企業に勤めるワーカー
ツール:WEBアンケート
【図版出典】Small Survey「学びの意向」
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。