リサーチ
現代ワーカーの働く目的と働きがい
安定・安心が第一!楽しくないのに働き続けるワーカー事情
コロナ禍の深刻な経済悪化や、働き方の変化などを受けて、ワーカーは今「働くこと」にどう向き合っているのだろうか。働く目的、働く喜び、働き続けるために重要なポイントとは。コクヨ株式会社が実施した調査結果から考察する。
働く目的は「生活のため」
ワーカーにとって、1日の大部分を占めているのは「働く時間」。充実した日々を送るためには、仕事が楽しい、やりがいがあるに越したことはありません。しかし調査では、「働くこと」について、6割以上が「食べていくため」と回答。「自己成長のため」「社会課題のため」を選択したワーカーは、13.6%に留まりました。働くことを生活のためと考える割合は年代が高くなるほど増えており、ライフステージや家族構成の変化によって支出が増えることが要因と考えられます。
会社選びでも「生活の安定」を重視
現在の会社に入社を決めた理由で最も多かったのは、「会社が安定している(38.8%)」でした。若い層でも大多数のワーカーが「働くことは生活のため」と考えているため、生活の安定につながる要素が重要視されているようです。「会社の知名度や規模(23.6%)」「報酬が良い(21.4%)」「福利厚生がしっかりしている(20.1%)」なども、生活の安心材料になるため、やはり上位にきています。 一方、働き方改革の推進もあって注目が集まっている「働く時間の自由度が高い」や「働き方が柔軟」などの回答は意外にも少なく、「仕事がとても面白い」「自分の成長を感じられる」「キャリアアップにつながる」といった、働きがいや自己研鑽にかかわる項目も、あまり重要視されていませんでした。 今は新型コロナウイルスの影響もあって、より安定を求める傾向が強くなっているのかもしれませんが、「生活のために働く(お金を稼ぐ)」ことが人生の中心になってしまうのは、少し寂しい気がします。
「働き続ける」ためには 3つの「安心」が重要
働き続けるために重視するのは、「人間関係が良好(47.2%)」「報酬が良い(42.1%)」「会社が安定している(27.5%)」。すべてワーカーの安心につながる要素ばかりです。倒産の恐れがなく安心できる会社で、安心できるメンバーと一緒に働き、十分な給料で安心して生活できることを望んでいます。金銭的な安定とあわせて、精神的にも安心できる会社であることが、一つのポイントになっているようです。
多くのワーカーが 仕事を「楽しい」と感じていない
今回の調査では、「入社を決めたポイント」「働き続けるのに必要なポイント」「現在の会社の良いポイント」の3つの視点で質問をしていますが、3つに分けたことで興味深い点が見えてきました。それは、「入社を決めたポイント」と「働き続けるのに必要なポイント」では同じような項目が上位に並ぶなかで、働き続けるポイントとして、「人間関係」と「仕事が面白い」の2項目が上位に入っていたこと。そして、「現在の会社の良いポイント」において、「仕事が面白い」との回答が8.7%と非常に低いことです。 これらの結果を踏まえて考えると、入社時点で希望通りの会社に入ることができれば、人間関係に問題が起きない限り働き続けるワーカーが多いこと。そして、現在の仕事に面白みを感じられていないワーカーが多く、そのことが十分な離職理由になり得る、ということが読み取れます。
辞めたくても辞められない 安定重視で働き続けるリスク
調査では、約80%のワーカーが、現在の会社を辞めたいと思ったことがあると回答。理由は「報酬が少ない・上がらない」が最多。「報酬」は働き続けるための需要なポイントで2番目だったことからも、当然の理由と言えます。2位には僅差で「今の仕事に興味がわかない(面白くない)」が続きますが、先に示した通り、働き続ける理由と仕事の面白さには因果関係があることから、納得の理由です。 しかし、ここで注目したいのは68%ものワーカーが、「現在の会社を辞めたいと思っているが、まだ辞めていない」ということです。従業員の7割近くが、たまにではあっても離職を考えているという現実は、企業にとっては見過ごせない数字です。企業が把握している以上に離職予備軍は多く、離職には至らなくても、エンゲージメントやモチベーションは確実に低下していると考えられます。 もう一点注視したいことは、「人間関係」です。調査からは、「上司とそりが合わない」「同僚・先輩後輩と仲良くなれない」と思いつつも仕事を辞めない、生活のために我慢して働き続けるワーカーは多いことがわかります。人間関係の問題は心身への影響が大きく、モチベーションの低下はもちろん、うつ病など深刻なメンタルの病気につながるリスクもあるため、企業としても見過ごせない問題です。 会社選びも、働き続ける理由も、安心・安定を第一に考えるワーカーが多く、一度入社すると辞めたくても辞めずに働き続ける。長く慣習化してきた終身雇用の弊害のようにも思えます。しかし一方では、面白い仕事をしたいといった、仕事に対する純粋な本音も見えてきました。 また、企業にとっては見過ごせない課題として、仕事を辞めたいとたまにでも考えたことがある従業員が7割近くもいるという現実も見えてきました。今はまだ離職率に表れていなくても、エンゲージメントやモチベーションの低下、メンタル不調などを要因とする、生産性の低下はすでに起こっている可能性も大いにあり、業績に影響するのも時間の問題かもしれません。人材不足が深刻化の一途を辿るこれからの時代において、「働きがい」への対応は企業の最重要課題とも言えるのではないでしょうか。 企業は、個人の仕事やキャリアに対する思いや成長に寄り添うこと。また現状に不満や閉塞感があるワーカーは、部外や社外の人と交流を持ち、意識的に視野や行動を広げるといいでしょう。企業の変化を待つだけではなく、自らが行動していく姿勢が、働きがいの発見につながる可能性もあるのではないでしょうか。
実施日:2021.4.27-30実施
調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー
ツール:WEBアンケート
【図版出典】Small Survey「会社の求心力」
河内 律子(Kawachi Ritsuko)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。