リサーチ

2021.08.10

企業の課題解決には、オフィス環境とDXが重要

DXへの期待は高いが理解が進まず、弊害を不安視する声も

近年はITや先端技術を活用してオフィスのデジタル化やDXを推進する企業が増えている。コクヨ株式会社が実施した調査結果をもとに、DXを含む「オフィスの変化」に対するワーカーの関心や、課題解決との関連性、今後の可能性を読み解く。

課題解決の施策は
オフィス環境の改善から

組織に属して働いていると、さまざまな課題と直面します。それは組織や企業の内部から発生する場合もあれば、新型コロナウイルス感染症の拡大で、働き方もオフィス環境も大きく変わらざるを得なかったように、社会の変化という外部要素がもたらす課題もあります。企業やワーカーは、次々と出てくる新しい課題に、対応していかなければなりません。

課題を解決するためには、大きく分けて2種類の対策が考えられます。

  • ・制度やルールの策定・改変
  • ・オフィス環境の見直し

調査結果によると、企業のさまざまな課題への対策としては、「オフィス環境の見直し」が有効と考えているワーカーが多いことが読み取れました。
「制度やルール」による対策は、ワーカーが意識して実践しなければ効果はありません。つまりワーカー自らが課題解決に向けて能動的になる必要があります。一方「オフィス環境」の場合は、行動変容へのインパクトも強く、空間の力を借りることでワーカーも自然と能動的になれる...、と考える傾向が強いのかもしれません。

また、「部署を超えたコミュニケーション」や「気軽な会話・雑談」といったコミュニケーションへの課題解決にはオフィス環境が欠かせないと考えるワーカーが多いことから、オフィスがもつ重要な役割の一つがコミュニケーションであることが読み取れます。

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DXは課題解決の新たな秘策となるのか

経済産業省が発表している「DX推進ガイドライン」によると、DXは下記のように定義されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競走上の優位性を確立すること。「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver.1.0」より

オフィス環境を大きく変革させるDXの導入は、業務の効率化はもちろん、新規事業や付加価値の創出への期待も高く、各種課題の解決や改善につながる施策の一つともいえます。

調査では、「パソコンやWEBミーティング」の活用が86.1%、「経理処理の電子化」が55.4%など、DX導入はデジタル化による現業の効率アップにとどまっている企業が多い印象です。その一方で、DXによって新たな事業創造を実現している企業は37.8%、抜本的な業務プロセス変革を進めている企業も35.9%あります。この結果から、DXの活用方法については企業差が大きいことがわかります。

変化の激しい時代に適応し生き残っていくためには、業務の改善や効率化だけではなく、幅広い課題にデジタルを活用し、真の意味でのDX推進が必要です。現状では企業間で差があり、一早くDXによる価値創造をスタートしている企業とそうでない企業とでは、今後大きな差がついてくると考えられます。

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オフィスのDX推進による期待と不安

DX推進に期待する内容では「時短」に関する項目が総じて高く、DXの利点としては業務効率化のイメージが強いようです。一方、仕事中の会話や質問・相談が減るなどコミュニケーションにかかわる項目では、不安の値の方が高く出ました。

コロナ禍で利用率が急激に高まったWEBミーティングは、雑談や本音の会話が減るといった問題が多いことが過去の調査からもわかっています。DXでネット上のコミュニケーション促進が期待される一方で、対面コミュニケーションの減少による弊害が不安視すされるのは、当然の結果といえるでしょう。また、「これまでの仕事の仕方が通用しなくなる」との不安感が26.5%と最も高くなっている背景には、ITやAIによる仕事の代替えへの不安があるのかもしれません。

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DX推進の可能性

DX推進に対して、不安より期待のほうが高いものの、現状は日常業務での改善にとどまっており、さらなる推進のためには、DXへのより深い理解が必要です。

業務の改善や効率化以外にも、部署間コミュニケーション、キャリアアップ、イノベーション、ダイバーシティ、SDGs、リカレント教育など、活用場面は多々あるはずですが、DXの可能性を知らないだけでなく、逆に業務を奪われかねないとの危機感を抱いている企業やワーカーも少なくないでしょう。ただし、労働力不足や国際競争力の点などからも、DXの活用は今後ますますさけては通れない課題になっていくでしょう。

コロナ禍の追い風を受けてデジタル化やDXへの関心や期待が高まっている今、DXの可能性を狭めずに幅広い視野をもつことが大切ではないでしょうか。


調査概要

実施日:2021.5.18-20実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

【図版出典】Small Survey「オフィスの変化」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部