ライフのコツ
世界には、スポーツの知識がビジネスに必須な国もある
サッカー・クリケットの話題がビジネスの潤滑油に
ビジネスを円滑に進めるためには、スムーズなコミュニケーションが欠かせない。その潤滑油として重要な役割を果たすのが、いわゆる「ビジネス教養」だ。相手が『おっ?』と引きこまれるような話題を出すことで、興味や関心をぐっと引きつけることができ、ビジネス交渉がしやすくなるといったメリットもある。今回は国民的スポーツがビジネスの必須知識となっている、ドイツのサッカーとインドのクリケットについて紹介する。
ドイツではサッカーの知識が ビジネス教養に
世界トップのプロサッカーリーグであるブンデスリーガを有するドイツでは、サッカーは単なるスポーツではなく日常であり、生活の一部として受け入れられている、国民的スポーツです。 週末にはいたる所で試合が行われており、サッカー観戦がドイツの一般的な週末の過ごし方です。当然ながらビジネスの場面においても試合の内容や結果などが話題になることが多いため、ドイツ人にとってサッカーの知識はビジネス教養の一つとも言えます。
ビジネス上の関係構築にも サッカーが有効
日本とは異なり、ドイツではサッカー人口のメインは成人です。地域のサッカークラブに参加しているビジネスマンも多く、社員有志などが参加する会社同士の対抗戦も頻繁に開催されるため、商談や打ち合わせの席で対抗戦の結果などが話題にのぼることもあります。 また、会社対抗戦は、その会社の重要人物との接点づくりにもなります。会社対抗戦には、サッカー好きな社員が役職に関係なく参加し、試合後にはみんなでパブへ行って盛り上がります。この機会に、普段接することが難しい上級管理職の人たちと交流を深めることができるのです。ビジネスから離れたオフな場のため、気軽な会話や相談ができるというメリットもあります。 ときには、ビジネスの一環として、サッカー好きなクライアントと一緒にスタジアムで試合観戦することもあります。接待や営業というよりは、サッカーを通じてお互いを知り、コミュニケーションをとるというイメージです。その場で仕事の話が出なくても、関係性を築くことで後日ビジネスに結びつくこともあるのです。
トップリーグの試合結果が 仕事への意欲を左右する
サッカー関連の話題のなかでも、プロサッカーリーグのブンデスリーガに関する話題が多く、白熱した試合があったときにはビジネスマンのボルテージも上がります。試合結果がよければ上機嫌になるため、商談も進めやすくなります。 その他にも、サッカーを通じた交流が社内の人間関係や信頼関係を築くのに大切な役割を果たしています。ドイツでは仕事後の飲み会という習慣はありませんが、スタジアムにサッカー観戦に行ったり、レクリレーション的にサッカーの対抗戦を楽しんだりする機会がよくあります。対抗戦には女性や年配者、短期出張者なども参加し、和気あいあいと楽しみます。
サッカー戦術を マネジメントに活かす
欧米のビジネス界においては、サッカーとマネジメントを結びつけて語ることもよくあり、ドイツも例外ではありません。試合の戦術やプレー内容、選手の動きなどを分析し、ビジネス戦略になぞらえて語る人も目立ちます。 試合中はボールをキープしている人以外の選手も重要な動きをしており、各自に最適な判断力やサポート力が求められるため、「会社」というチームにおいても通じるという考えのようです。サッカー戦術をマネジメントに応用する指南書も多くあります。
日々の情報収集で サッカー教養を身につける
日本のビジネスマンでドイツ人並みにサッカーの知識がある人は少ないでしょう。ただ、ビジネスのあらゆる場面において、サッカーを通じて交流し、関係性を深めるのがドイツ流です。ともに語り合ったり汗を流したりすることで一体感や仲間意識が生まれ、ビジネスにもプラスの効果をもたらします。 そのため、私たち日本人がドイツでビジネスをする際は、サッカーはビジネス上の必須知識、ビジネス教養と捉え、日頃からサッカーの情報を収集し、準備しておくことが大切です。 まず始めは、スポーツニュースを見たり、インターネットでチームや選手、ゲーム内容などの情報を収集する。さらに休日にはスタジアムに足を運び、実際に試合を観戦することで、サッカーをより身近に感じる体験も重要です。 日々の情報収集が、日々のちょっとしたビジネス会話に役立ち、結果的にクライアントとの関係構築や商談成立といったビジネス上の成功につながるのです。
インドのクリケットは 競技人口3億人以上の国民的スポーツ
日本人には馴染みが薄いクリケットですが、インドでは国内の競技人口が3億人以上といわれる国民的スポーツ。 クリケットはバットとボールとスタンプと呼ばれる3本の棒を使って行われる、野球の原型とも言われるイギリス発祥のスポーツです。インドには植民地時代にイギリスから持ち込まれました。 ボールと板があればすぐにでき、広い競技場も不要であったため、貧困層の多いインドでも広く普及しました。国中のどの地域、どの階級、どの年齢層においても幅広く好まれ、生活に深く根づいています。 クリケット人気の背景には、インドが世界で1、2を争うクリケットの強豪国であることが影響しています。スポーツ界では自国のチームが強いほど国内のアマチュア人口が多いとされていますが、インドにおけるクリケットも例外ではないようです。 インド人の平均収入は一般的に日本人の五分の一程度といわれていますが、国内には年俸数億円を稼ぐプロのクリケット選手がたくさんいます。中にはスポンサー収入も併せると年俸数十億円というスター選手も存在し、貧困層が多いインドの子どもたちにとっては憧れの職業であることも人気の要因です。街の公園や広場では、手作りのバットなどを使い、クリケットに興じる子どもたちの姿がよく見られます。
クリケットのプロ化により ビジネス面でも注目される
ビジネスとクリケットの結びつきも非常に強く、多くの地元企業やグローバル企業がスポンサーとして名乗りをあげています。プロ化が進んだことで、スポンサー料は高騰、試合の放映権獲得を目的とする放送局の買収が行われるなど、ビジネスの場面で話題にのぼるネタも増えています。 またクリケットの試合そのものについても、大きな試合の翌日には、社内や商談の場で話題となることも多々あります。
クリケット観戦は 競技場より家のテレビがインド流
本来のオーソドックスなクリケットの試合は、終了までに半日から最長で5日かかることもあり、試合中にランチタイムやティータイムをはさむのが一般的です。こうしてゆったりと試合が進行することから、イギリスの国技として「紳士・淑女のスポーツ」などと呼ばれています。 クリケットの試合時間が長いことから、インドでは競技場で観戦するよりテレビやネットで観ることが多く、家で家族や知人と盛り上がります。また、フードコート設置のテレビでも日常的にクリケットが放送され、ワールドカップの時などは多くの人が集まって盛り上がります。 こうして、日常的にクリケットを観ていることから、プレーしなくてもルールを熟知しているインド人は多く、テレビでの試合観戦でも十分楽しめるようです。また、最近ではテレビ放送向けに2時間程度で終わるようにルール設定された試合もあります。
社会的背景から 娯楽としてクリケットが人気
ドイツのサッカーと比べれば競技場で観戦したり仕事仲間とプレーしたりという機会が少ないにもかかわらず、クリケット人気が高いところがインドという国の特徴です。 その背景には、生活水準の低さや貧困、社会環境の悪さなど日頃の厳しい現実から逃避するための、身近で手軽な娯楽としての意味合いが強くあるといえます。インドの娯楽といえば、歌にダンスにド派手な美術で独特の世界観が魅力のボリウッド映画が有名ですが、同様にクリケットも現実社会における厳しさを払拭する娯楽として一般大衆に好まれているようです。
娯楽としてテレビ観戦を楽しみながら クリケットの知識をインプットする
娯楽の少ないインドでは、クリケットは一番の娯楽であり、週末には多くのインド人がテレビで試合観戦を楽しんでいます。そのため、ビジネスの場面でもクリケットが話題になることが多く、インドでビジネスをする際には、押さえておきたい知識の一つです。 クリケットは日本人にとって馴染みの薄いスポーツなだけに事前の情報収集が不可欠です。まずは、クリケットの基礎知識をネットや書籍などで調べてから、テレビで試合を観戦し、ルールや試合の流れを把握したり、プロリーグや主力選手についての知識を深めていくといいでしょう。 また、試合のチケットはネットで購入できるので、1度は競技場に足を運び実際の試合を見ることもおススメです。競技場ならではの臨場感もあり、より楽しめると思います。 多くの日本人にとって、クリケットは未知なスポーツかもしれませんが、ルールが理解できれば難しくありません。日々クリケットに触れるうちに、自然と理解が進み、クリケットに関するジョークなどでも笑えるようになります。インド人はクリケットについて熱く語りたがるので、相槌を打ちながら耳を傾けるだけでも会話はスムーズに進むでしょう。 ドイツのサッカーとインドのクリケットは国民的スポーツとして奥が深く、両国のビジネスとも深く結びついています。それぞれの文化や国民性を充分に理解したうえで、ある程度の基礎知識として身につけておく、といった心構えが大切ではないでしょうか。 会話のきっかけになる以上にどれくらい重要なのか...ということが伝わるといいですね。
坂田 英宣
Southampton Business Schoolにて経営学修士(MBA)課程修了後、デジタルエージェンシーや外資系コンサルティングファームにて、システム開発や新規サービス企画など多数のプロジェクトに従事。3年前からドイツのデュッセルドルフに在住し、日本企業向けにコンサルティング業務を行っている。(ドイツ) 小寺 宏和 日清食品ホールディングス(株)のインド子会社へ3年間出向し、主にマーケティング業務に従事。2017年から関西ペイント(株)に勤務し、インドを含む南アジアやロシア地域での経営戦略策定や事業企画業務に携わる。現在は定期的にインドへ出張し、既存事業拡大に向けたマーケティングや経営企画などの業務を手がけている。(インド)