リサーチ

2021.10.20

仕事と育児・介護を両立するワーカーが抱える課題と求められるサポート

「孤立への不安」を解決する組織文化づくりが急務に

時代の変化、働き方の変化により、育児・介護と仕事を両立するワーカーが増えている。こうした制約のあるワーカーに活躍してもらうために、企業は何に取り組めばいいのか。コクヨ株式会社が実施した調査から見えてきた両立ワーカーの働く現状から課題を読み解き、効果的な施策を考察する。

仕事と育児・介護を両立しているワーカーは約4割

今回は、1万9000人のワーカーに向けて調査を実施しました。うち4割の人が、育児または介護、あるいは両方と仕事を両立している(またはしていた経験がある)ことが明らかになりました。

男女・未既婚別に見ると、既婚女性は育児または介護と仕事を両立している(またはしていた)人が5割超で、ほかの属性のワーカーに比べて明らかに高いことがわかります。 年代別グラフを見ると、20代で仕事と介護を両立している人が1.3%みられ、30代の1.5%、40代の2.2%とあまり差がありません。この数値から、介護両立者の若年齢化がうかがえます。

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仕事と両立するうえでの悩み・不安

介護・育児の両立ワーカーに「仕事との両立で悩んでいることは何ですか?」と質問したところ、「日々の仕事の調整」と「突発的な業務の調整」に悩む方が多いことがわかりました。介護も育児も多くの時間を必要とするうえ、突発的なトラブルが起こるなど予定通りにいかない面が多々あるためと考えられます。


介護両立者の不安は特に大きい

「仕事との両立で悩んでいること」の回答状況を示すグラフを見ると、ほとんどの項目で、介護両立者の数値が育児両立者を上回っています。育児は子どもが成長するにつれて手が離れていきますが、介護の場合は時間経過と共に物理的・精神的負担や金銭不安が増す場合が多々あります。そのため介護ワーカーは育児ワーカーに比べて不安が大きく、多様な悩みを抱えていると考えられます。

さらに介護両立者では「職場に状況を話せる相手(理解者)がいない」や「職場で状況を打ち明けられる機会がない」を悩みとして挙げた人が、それぞれ育児両立者より約10ポイント高くなっています。不安が大きい介護について周りに打ち明けられないと、ワーカーにとって大きなストレスになると推測できます。

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企業側の課題

育児・介護との両立ワーカーが悩みをもつ理由はさまざまですが、企業側の制度・施策や風土に問題があるケースも多々みられます。


制度・施策が利用されていない

両立サポートに関する制度・施策の導入・実施状況を聞くと、「導入・実施されているが、対象者は必要な場合でも活用できていないように思える」という回答が各項目で1割以上みられました。特に「男性の育休制度」は33.9%、「介護休暇」は25.8%と高い数値で、当事者が制度・施策の活用をためらっている実情が見えてきます。

さらに、「時差出勤」「短時間勤務制度」「在宅勤務」以外については、「(自社にその制度・施策があるか)わからない」という回答が6~16%程度ありました。両立している当事者に時間的余裕がなく、自社の制度・施策について把握しきれていないことも一因かもしれませんが、企業側が十分に周知していない可能性も考えられます。

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ハラスメント

勤務先のハラスメント状態を質問すると、育児・介護とも「ハラスメントを受けたことがある」、「人が受けているのを見たことがある」という回答数が一定数みられました。

令和2年度の「厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、ハラスメントの内容で多いのは、「上司による、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」や「嫌がらせ的な言動、業務に従事させない等の継続的な嫌がらせ」でした。 なお、育児に比べて介護に関するハラスメントの割合は低いですが、この結果から「介護両立者はハラスメントをあまり受けていない」と捉えるのは早計です。なぜなら、隠れ介護をしている両立ワーカーも少なくないからです。

また、厚生労働省が発表している介護離職者は2010年代以降増加し、近年では年間9~10万人で推移しています。介護との両立が難しい自社の環境に働きづらさを感じて、介護していることを隠したり、離職を決断したりする人もいると推測できます。

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企業に求められるサポート

育児・介護者が過度の負担なく仕事を続けていくには、企業側の取り組みが欠かせません。具体的には、ワーカーをサポートするための制度・施策をつくったり、両立に関する知識を共有することで組織文化をアップデートしていく必要があります。


柔軟な働き方を支える制度・施策

育児・介護と仕事の両立に関して、「重要だと思うもの」と「自社で実施してもらいたいもの」をそれぞれ挙げてもらったところ、時間をフレキシブルに活用して働ける制度に人気が集まりました。「仕事と育児・介護を両立するうえで悩んでいること」として「日々の仕事の調整」を挙げている人が多いことからも、企業は在宅勤務や短時間勤務制度、介護休暇、スーパーフレックスタイム制など、柔軟な働き方を支える制度・施策を積極的に導入していくべきでしょう。 さらに、制度・施策をつくるだけでなく、従業員に向けて周知することも大切です。両立ワーカーがスムーズに働けるよう、企業側は積極的に情報発信していくことが求められます。

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キャリア形成と人事制度

両立をサポートする制度の中でも、「両立者のキャリア形成のサポート」や「決められた時間で働くのではなく、アサインされた業務の成果によって評価される人事制度の導入」は、少なからぬワーカーが関心を抱いています。特に介護両立者では、成果主義の人事制度に関心のある人が24.1%と、高い数値を示しています。

両立ワーカーは限られた時間で働くことが多く、「思うようにキャリア形成ができない」「労働時間で評価されるのは不本意」といった悩みや不満を抱えがちです。1人ひとりの状況にフィットするキャリア形成サポートや人事評価が求められています。



制度・施策を活用しやすい組織風土

フレキシブルに働ける制度・施策の導入に加えて、企業に求められるのが「制度を活用できる組織風土」です。両立サポートに関する制度・施策の導入・実施を問う質問では、どの制度に関しても「導入・実施されているが、対象者は必要な場合でも活用できていないように思える」という回答が1割以上、項目によっては2~3割みられました。

勉強会などを通じて両立の苦労を社内で共有し、制度・施策をいつでも活用できる環境をつくることが不可欠といえます。また、介護両立者が1人で不安や悩みを抱え込まないために、同じ立場の従業員同士が話せる機会を組織単位でつくることが、今後必要になっていくかもしれません。



上司の理解

「両立の大変さを職場の誰に一番理解してもらいたいですか?」という質問に対して、4割超の人が「直属の上司」と回答しています。直属の上司は仕事を評価する立場であるうえ、部下が無理なく働けるよう業務を調整するなどの役割を担っています。ですから両立ワーカーは直属の上司に対して、「自分の状況を理解し、配慮してもらいたい」と感じていると推測できます。 なお、上司が両立ワーカーをサポートするにあたっては、上司自身が意識を高めるのはもちろん、企業全体が両立への理解を深めるよう取り組むことも必要です。



組織の意識変革

先ほど紹介したハラスメントの有無を問う質問への回答から、育児・介護の両立ワーカーに対して、「制度の利用を阻害」「嫌がらせ」などが一定数起こっていることが明らかになっています。 これらのハラスメントが起こる最大の原因は、組織全体の意識がアップデートされていないことにあると考えられます。

ハラスメントが起こる環境を改善していかないと、両立者は働きづらさを感じて離職したり、より働きやすい職場を求めて転職したりすることが容易に予測されます。貴重な働き手が流出することは、企業にとって大きなマイナスになるはず。企業としては、上司・同僚の理解を促進するための勉強会や、悩みを相談するためのメンターサポート、両立ワーカー同士の意見公開などを実施し、組織の意識変革に努めていくことが重要です。




まとめ

近年、介護業界では「レスパイトケア」という用語が広まりつつあります。これは「介護を行う人の休息やリフレッシュ」といった意味で、レスパイトケアのためのサービスも増えつつあります。

職場は、両立ワーカーにとってレスパイトケアの場のような役割を果たしているといえるのではないでしょうか。働くことは休息ではありませんが、数時間でも介護や育児から離れて仕事に集中することは、社会との接点や自信、やりがいにつながり、心身を健康に保つのに役立つと考えられます。また、仕事を続けることは経済的な安心感にも直結します。

今後、大介護時代が到来するといわれ、介護を中心に両立ワーカーがさらに増えると予想できます。育児や介護を通じて人間的成長を果たしたワーカーは、仕事においても企業に新たな付加価値をもたらす可能性が高いでしょう。企業はワーカーが無理なく働ける制度を整えたうえで、組織風土の変革にも力を入れていくことが不可欠といえそうです。


調査概要

実施日:2021.6.22-23実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカーのうち「介護との両立」「育児との両立」もしくは両方行っているワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:310件(予備調査18,984件)

【図版出典】Small Survey「両立ワーカーの実態」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部