ライフのコツ

2013.12.11

愛の質が高い子育てはまず家庭からはじまる

すべてのことが『おめでとう!』

保育園に預けていると、こどもと接する時間は思った以上に少なくなる。仕事と家事をこなしているとときに「こんな育児でいいのかな?」「こどもはなにをのぞんでいるんだろう?」と不安や疑問に押しつぶされそうになるときもありますよね。「子育てに必要なのは、特別なことではなく、愛の質です」と語るのは茶々保育園グループの迫田圭子統括園長と茶々保育園の海沼和代園長。こどもの発育発達にそって“人”“こと”“もの ”の環境設定を行い、独自の教育を行っている茶々保育園に、自宅でもできる“愛の質”が高い子育て術を聞いてきました。

こどもは母親以外の大人とも"大好き"関係を築ける
「保育園に預けて働いているお母さん方の多くが"母親が見ていないと、こどもの成長に無理が出てくるんじゃないか""甘えられなくて無理しているんじゃないか"と、保育園に預けて働きに出ていることへの不安や罪悪感のようなものを抱えていると思うんですね」と、優しく微笑むように、ワーキングマザーの気持ちを代弁してくださる、茶々保育園の理事を務める迫田圭子氏。女性が働きながら育児することが普通になったとはいえ、どこかでまだ"育児は母親の仕事"と、母親神話がぬぐい去れない人も多いはず。でも、そんな働くママたちに迫田さんは「大丈夫。お子さんは保育園でも大好きな大人を直感的にみつけて、愛情関係を育んでいます」と、太鼓判を押してくれた。
実際に乳幼児でも、 愛情関係を結べるのは、母親だけではない。保育園に着いた途端、こどもが大好きな先生のところへ走り寄っていく姿も、よく見かける光景だ。「誰とでも......ではないけれど、こどもは自分を見てくれている人、安心できる人を選んで"大好き"関係を築くことができるんですね。その人と、目と目がパチっと合ったら、ここには安心できる人がいる、安全基地なんだって、幼くても感じ取る力はあるんです」。
こどもにとって安全基地は日常生活の延長にある
茶々保育園には穏やかで、どちらかというと声は小さく、大人しい雰囲気の保育士さんが多い印象。「こどもはね、とくに乳幼児は、声をかけなくても、にっこりその子と目を合わせてくれる物静かな人も好きなんです。こどものほうから、手を触ったり、脚に触れてきたりして」(迫田さん)。母親が頼もしく感じるテキパキ仕事をこなすベテラン風の保育士さんだけでなく、こどもが好きと思うポイントがあるようだ。「だから、大人の目線だけで判断せず、一度、こどもの目で"大好き"を探してあげたらどうでしょう」と、現場で保育を続けている海沼和代氏。
「こどもが安心できる環境って、まずは受け入れるような温かさなのね。大きな声で歌を歌ってあげるんじゃなくて、手を握っていてあげるとか、日常の中で温もりを感じるようなことなんです」(迫田さん)。これは家庭でも同じことが言えるそうだ。
平日は一緒にいてあげられないからと、土日にお出かけ、イベントと盛りだくさんにしてみたり、一生懸命、おもちゃを駆使して遊んだり......。あの手この手を尽くす母親も多い。「凄いことをしなくてもいいんですよ。小さな声で、その子と目を合わせて、その子の気持ちを言葉にしてあげてください。たとえば、机の上にお花を飾って"きれいだね""黄色だね"って話しかけるだけで、僕だけに話しかけてくれているという安心感から、僕を大事に思ってくれているとこどもは感じとっていくんです」(迫田さん)。
子育てには、一番大切なのが「人的環境」。それは保育士さんだけでなく、母親や父親もこどもとの接し方、受け止め方で、いろんなことが変わっていく。
「乳幼児からの発育発達に沿った環境を整え、独自の保育を行っている『茶々保育園』の迫田圭子氏と海沼和代氏。「こどもの行動にはすべて理由がある」と語り、こどもひとりひとりの成長に合わせた保育を実践している。
すべてのいたずらは成長の証"おめでとう"なんです
「次に大切なのが、発育発達に沿った、あそびの環境を作ってあげることです」(迫田さん)。
たとえば、テッシュを次々と出して散らかし、つい怒ってしまうシーン。これも実はこどもの発育発達のなせる技。ただのいたずらではないという。
「発育発達の過程は大きくいうと、頭部から側部へ、中枢部から抹消へ向かっていきます。首がすわり、腰が座り、足に力が入るようになり、背骨まわりを動かせるようになり、つかまり立ちができるようになる。最初は手のひら全体で床や机を叩くことからはじまって、指が動き出し、スプーンを握れるようになり、指先でものをつまめるようになるんですね。だから、テッシュを次々と出してあそぶのは、実は指先が使えるようになった証拠で、成長の証なんです」(迫田さん)。ただのいたずらと思いがちな出来事は、実は成長した証で、どれも『おめでとう!』に満ちているのだ。

「そういうとき、頭ごなしに怒っちゃダメね。大人でも最初から否定されたら嫌なもの。 まずは共感してあげる、一緒に喜んであげましょう」(迫田さん)。
カラフルなフェルトでつくったボタンフォルダー。発達段階にあわせてあそびも展開できる。
くるみの数ゲーム。あそびながら数を量として理解する。
発育発達のサポートは家庭の環境づくりから
「そして、母親がしてあげられることは、このタイミングでできるあそびを増やしてあげることです。テッシュを出しはじめたら、指先を使うボタンにチャンレンジするなど環境をつくってあげることが大事ですね」(迫田さん)
茶々保育園には、オリジナルの手づくりおもちゃがたくさん用意されている。たとえば、ボタン掛け練習用のカラフルなフェルト、ネジを回したり、ひねったりする木のおもちゃ......。ボタン掛け練習用のフェルトは、いきなり衣服の着脱の中で行うのは難しくても、意外とすぐに服でもできるようになるのだとか。
「今だ! というタイミングがあるんですね。それがいたずらをはじめたとき。そのときに、いろんな物を触らせるんです。タイミングが大事で、そのときにやると上達も早いんです」。
茶々保育園には「からだのお部屋」「数を数えるお部屋」「植物のお部屋」など、10以上のあそぶスペースが用意されている。
園内のおもちゃは使い終わったら、棚の名前に貼ってある場所に片付ける。
何歳になったから、そろそろお箸とか、そろそろこんなあそびを......と、つい年齢で区切って、教育しようとしてしまう。それが上手く出来ないと、発達が遅いんじゃないか? とまた悩みを抱えていく。だけど、目の前のこどもの成長を観察していれば、できる! というタイミングに満ち溢れているのだ。
「よく観察していると、発達過程が見えてきますから。そこを間違って怒るんじゃなくて、"やった!"と喜び、そのときにできる学びの環境をつくっていくことですね。たとえば、片づけもそのひとつ。自分で物を出しはじめたら、その物のお家を用意してあげたらいい。帰ってきて、靴を脱いだら「○○ちゃんの靴のお家はここね」と、揃えて置く環境をつくってあげるんです」。
そのためにも、家の中にある程度のルールつくりをすることも大切。脱いだ服、カバンの置き場所を決めておく。こどもがあそぶおもちゃにも、帰るお家(片づける場所)をつくってあげる。
「環境づくりといって、特別な物を買い与えなくても、日常の生活の中で、ひとつひとつの成長をより育んであげる方法はたくさんあるんですね。何をさせてあげたらいいかより、まずは家庭の中でできる工夫を繰り返してみてください」。

【茶々保育園のレシピ】
「洗濯ばさみのひげあそび」 「フェルトのボタンあそび」 「牛乳パックのブーメラン」 「紙コップけん玉」 「ペットボトルのカスタネット」

迫田圭子氏(右)海沼和代氏(左)

【迫田圭子氏】茶々保育園グループの創設者。園長として18年
間保育にあたる。その後、(株)コンビチャチャにて外出支援事業・
保育事業指導、立正大学にての保育士養成教育に携わる。平成25年同大学の教授を退任し、現在同大学の非常勤講師。 現在は、
理事長職も退任し、茶々保育園グループの理事兼統括園長として
日々現場の保育士育成に携わる。 【海沼和代氏】保育士歴30年
のベテラン保育士。茶々保育園の勤務歴は20年。平成18年度
より茶々保育園の園長を務める。 家庭では2児の母。
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  文/坂本真理 撮影/西邑泰和