ライフのコツ

2015.04.28

『市民の憩いの場でありたい』

世界の学び/フィンランドの最新教育情報②

世界の教育情報第11回目は、フィンランドの公共施設のお話。日本でも図書館に『居場所』の機能を併せ持つ公共施設も少しずつですが、増え始めています。フィンランドの人たちはその『居場所』をどのように活用し、どのように過ごしているのでしょうか。北欧と日本を繋ぐコーディネーターである戸沼如恵さんのレポートです。

スナフキンに憧れる
『おだやかな人生なんてあるわけがないですよ』と旅をしながら人生を語るスナフキン。
フィンランドの男の子達は今でもスナフキンに憧れ、釣りをしたり旅をしたがったりするのだとか・・・。
ムーミンの著者トーベ・ヤンソンが生まれ育ったフィンランドは、国土が338,144㎡(日本の国土の90%)で、森と湖が80%を占め、ヨーロッパ最北端の国として一部は北極圏に属しています。冬になると-20度を下回る日があり、厳しい寒さの中でも明るく快適に室内で過ごすために、MarimekkoやIttalaなどに代表されるテキスタイルや明るい室内装飾デザインが発展しました。
また、サウナ好きな国民として知られており、自宅だけでなく、オフィスにもサウナを持っているところが少なくなく、年齢や立場を超えて本音を語り合える憩いの場となっているようです。
図書館で本を読まなくていい?
秋冬は室内でより多くの時間を過ごすフィンランド人は、2011年の統計によると一人当たり年に10回図書館を訪れ、18冊の本を借り出す「図書館をよく利用する読書好き」としても知られています。大きな荷台に本を積んだ自転車移動図書館が街中に登場する日もあれば、野外図書館が開かれる日もあります。1回で最大40冊まで借りることができ、市内であればどこの図書館でも返却可能。そんな充実したサービスが図書館利用率をあげていることは言うまでもありません。ところが、図書館は本を読み、借りるためだけの場所ではないのです。
2014年5月に訪れたエスポー市の図書館セッロは、毎日3,000~4,000人が訪れ、年間およそ100万人が利用しています。街の大きなショッピングモールに隣接していて、買い物ついでに気軽に図書館に立ち寄る人達で賑わっていました。
「ここは女の子だけの専用コーナーです」と案内された一画には赤やピンクのクッションやマットレスが敷かれていて、とても図書館とは思えない雰囲気です。
「本を読まなくても、おしゃべりしたりゲームしたりする場として図書館に来てほしいのです。若者の本離れが進んでいることは事実です。ただ友達とまったりする環境に本があり、健全な大人がいる。このことが大切だと思うのです」と図書館司書のウッラさんは話してくれました。
そこに誰がいるかが大事
ヤングコーナーの入口近くにチェスを楽しめる空間があり、周りには若者の喜びそうな漫画やゲームが置いてあります。またフィンランド語以外の言語の本も数多く並んでいました。そこに物腰の柔らかい40代の男性がいて、ウッラさんが「彼はコソボからの難民でしたが、今はここで働いています」と紹介してくれました。
遠い国からフィンランドに働きに来た移民や難民が、居場所を求めてこの図書館に来たとき彼と話したらほっとするのではないか・・・「市民の憩いの場でありたい」フィンランドの図書館はそこまで想像して人材配置をしているのです。
ティーンのたまり場を市が提供!?
ヘルシンキ市内に10代の若者が(17歳まで)学校帰り~夜の8時まで立ち寄れる『ユースセンター』という場所があります。ここは体を動かしたり、ゲームをしたり、パーティーをしたり、自由におしゃべりができる、いわゆる「若者のたまり場」です。
「ようこそ」と出迎えてくれた職員は30代の男性で、ティーンの若者にとって頼れるお兄さんのような存在感がありました。
館内のあちこちにポスターが貼られています。
「煙草を吸っている人の肺はこんな色。それってかっこいい?」と考えされるものや、性教育やドラッグについてのポスターなど、立ち止まって考えたくなるものばかりです。
また、時には『ユースセンター』の職員が学校に出向いてカフェを開いて「若者の居場所」があることをアピールします。そして常に学校と連携を取りながら、不登校になりそうな若者や家出など居場所のわからなくなった若者を探し出して、「憩いの場」を提供し、彼らの問題と次のステップを一緒に考えていくのです。
こうしたたまり場を市が提供することで、若者は揺れながらも健全な大人に出会える機会と、健全なメッセージに触れることができるのです。
思春期のこどもたちへの配慮が行き届く、女の子だけの空間。きっとガールズトークに花が咲くだろう!
『ユースセンター』の館内に貼られたたばこやドラッグの啓蒙ポスター。
夏休みこそ・・ここにおいで!
女性の社会進出が進み、フルタイム勤務しているお母さん達にとって夏休みは仕事と家族とのバランスに苦慮する時でもありますよね。
ヘルシンキ市内にある『プレイパーク リンヤ』は出産前のカップルから、赤ちゃん連れのママ、そして学校を終えてやってくるこども達、時にはパパだけのためのあらゆる「居場所」を提供しています。午前中は保健所や児童館、午後からは学童保育所の機能を同時に兼ね備えていると言えばわかりやすいでしょうか。
夏休みなどこどもたちの長期休暇には普段『プレイパーク リンヤ』に通わないこども達のためにも開放され、スープ等の簡単なランチは無料で提供されます。
「夏休みこそ、ここを訪れて欲しいのです。ランチを無料にしているのはヘルシンキ市の伝統であり、どんなこどもにも健康で健全に暮らして欲しいと言う思いがあるからです。大変な時もありますが、私はこの仕事に誇りを感じています」と職員のミンナさんは言います。
『プレイパークリンヤ』では、離乳食教室の日もあれば、父親料理教室の日も!
あなたは一人じゃない
強く太い網の目のようなフィンランドのセーフティネット。どの年齢のどの状況でも必ず「見守ってくれて」「話を聞いてくれて」「次への健全な指針を示してくれる」人がいる・・・。
人口540万人の小国フィンランドにとって、こどもは社会の財産であり、問題があれば社会全体で解決し、育てていこうというコミットメントがあります。その成果として2014年Save the Children(セーブザチルドレン)は「世界一お母さんに優しい国」はフィンランドであると発表したのです。http://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=1505

戸沼 如恵

北欧ツアーコーディネーター 日本と北欧のかけはしコーディネーター。
長女のデンマーク留学をきっかけに2010年北欧情報を発信するエコ・コンシャス・ジャパン(合)を立ち上げる。2012年より北欧の教育、エネルギー、デザインなどにフォーカスしたオンリーワンの北欧ツアー事業を展開し好評を博している。また日本と北欧の架け橋として、講演、イベントプロデュース、執筆など各方面で活躍中。

撮影/梅田眞司