ライフのコツ

2015.09.10

学びと仕事が一致するフィンランド流働き方

世界の学び/フィンランドの最新教育情報③

世界の教育情報第12回目はフィンランドの働き方についてお届けします。人口540万人の小さな国が、デザインやITなど様々な分野で注目される理由は、独自の教育に秘密があるのかもしれません。日本と北欧を繋ぐコーディネーターである戸沼如恵さんがお伝えします。

フィンランドは日本の「県」と同じくらいの大きさ?
「フィンランドと言えば?」と聞かれたらどんなキーワードを思い浮かべますか?
ムーミン、サンタクロース、サウナ、オーロラ、かもめ食堂、マリメッコ...?フィンランドデザインは華やかで日本人に人気がありますし、その他には学力世界一になった教育大国、Nokia(ノキア)に代表されるIT大国としてご存知の方もいるかもしれません。
いろいろな意味で○○大国と言われるフィンランドですが、実は人口が540万人しかいません。日本の福岡県の人口が507万人なので、ちょうど一つの県で「国」を作っているといえばわかりやすいでしょうか。
540万人で国を作るということは、政治はもちろん、水道、電気、ガスのインフラから学校、病院の運営、鉄道や飛行機の運航など、あらゆる職場に「そのスキルのある人」が働いているということです。フィンランドの教育では、学びと仕事をどう一致させているのでしょうか?
中学校の職場体験って?
「あの~、○○中学校のMikaと言いますが、そちらのレストランで働かせていただけますか?」
フィンランドの中学生の職場体験(中2と中3で)は、自ら働きたい職場を自分で探して自分で電話をかけるところから始まります。
電話をかけることはとても勇気が要りますが、それも大事な経験です。企業にコンタクトする際のマナーも含め、就活のノウハウも学びます。お店や会社側もその時期になると中学生から電話がかかってくることがわかっていますから、予め受け入れ枠を作っておき、「大丈夫そうですよ。それでは、○日の○時に面接に来て下さいね。」と生徒たちに伝えます。
簡単な形ではありますが、学校で学んだ事を思い出し、面接で自分を売り込む所から実習内容の契約まで自分たちで採用者に伝えます。
レストランや病院、会社で生徒たちが働く姿を大人たちは優しく受け入れ見守ります。また中学校からは教員とは別のキャリアカウンセラーという先生もいて、その授業を通して各自の人生設計をイメージしてこの先の進路を考え始めます。生徒たちは自分の興味のある仕事をするにはどんな学校に進めばいいのかを相談することができます。
こどもたちは保育園や小学校の頃から自分自身を知る、自分とは違う考えの友達がいるんだと言う事を学ぶ経験をしていきますが、中学からはいよいよ、基礎教育後の進路を決定する為に、各自が自分の将来の夢や人生のイメージをしっかりつくって,その先の進路選択をしようと努力しています。
学年末の授業で先生に挨拶をする生徒たち。挨拶の仕方も学びのひとつ。
大学に行くより手に職をつけたい!!
小中学校を卒業すると高校進学となるわけですが、フィンランドのこどもたちは「大学進学のための高校」と「資格をとって職業につく学びをする職業高校」の大きくわけてどちらかを選択して進学していきます。近年の特徴としては、職業高校への進学率が上がっていて、特に男子生徒の約6割が職業高校を選択していることです。職業高校といっても日本の商業科や工業科というより、専門学校に限りなく近いといってよいでしょう。
2015年5月にヴァンター市内にある職業学校Variaを視察してきました。中学校を卒業して入学した生徒が約2,800人、成人教育の一環として資格を取りに来ている大人が約1,200人の合わせて4,000人が通う大規模な学校です。
電気工学、エンジニアリング、流通、社会福祉、飲食、美容師、ツーリズムなどあらゆるジャンルの職業につくための専門スキルを身に着ける学科がズラリと揃っています。
とても面白いのは「学びと仕事と経済が一致していること」です。美容師のクラスでは、実際に学生による美容室がオープンしています。地元の方が割と安価で髪を切ってもらえるのでいつも予約でいっぱいだそうです。また、大工、電気工学、配管、家具インテリアの専門の学生達で家を建て、販売しています。もちろん、専門家の指導のもとで建てられますので落ち度はなく、最新の材料などを使っているのでやはり人気があるそうです。
レストランも週に何度かオープンしています。こうした実践的な学びがフィンランドらしいですね。
「大学院を卒業して社会に出るころには25歳でしょ。それなら早く手に職をつけて仕事して25歳には家を買えるようになりたいな」・・・これは職人になった女の子の言葉です。
大学生のうちからアントレプレナー!?
大学や大学院に進学した学生にもユニークなチャンスが訪れます。学生のうちからプロの事業主としての仕事が来るかもしれないのです。
Marimekko(マリメッコ)のプロダクトデザイナーに、彼の経歴をインタビューしたところ、こんな答えが返ってきました。
「大学生の頃にMarimekkoでパートタイム数か月働き、その後は日本の会社とデザイン契約して約半年日本で過ごし、大学院時代にはArabiaでデザイナーとして仕事をし、卒業後にMarimekkoのデザイナーになったんだよ。いろんな会社で経験を積んだおかげでMarimekkoが自分にとって合っているとわかったんだ」。
会社は学生をインターンシップで働かせるのではなく、一事業主と見て仕事の契約を結ぶ・・・これは学生が早くから「○○会社で働く」のではなく「私の仕事は○○だ」という意識が育っているからでしょう。もっと言えば、いつ何時でも会社に雇われずアントレプレナーとして自立してやっていこうとする意識であり、それがフィンランドの教育の成果といってもいいかもしれません。
職業高校で配管作業をしている生徒。分からないことがあれば先生に聞くが、基本的には自主学習。
ポジティブにあきらめよう
社会は多様性に富んでいて、お互いをよく知ることで足りないところを補い合いながら生きていくことができるものです。
フィンランド在住の日本人の方がいっていました。「フィンランドに来て一番学んだことは『ポジティブにあきらめること』でした。フィンランドの冬は寒くて暗いけど、それを嘆いても仕方ありません。もうあきらめましょう。だったらどうやってその中で楽しむか、それを考えましょうよってことです。人生も同じで、できないことをくよくよ悩むより、そんな私でもどうやって楽しく生きていけるかを考えていきませんか。そう考えるようになってからとっても楽になったのです」
フィンランド流働き方とは「自立しながらも、助け合って補い合う」という人と人との心地良い関係性がベースにあるのかもしれません。

戸沼 如恵

北欧ツアーコーディネーター 日本と北欧のかけはしコーディネーター。
長女のデンマーク留学をきっかけに2010年北欧情報を発信するエコ・コンシャス・ジャパン(合)を立ち上げる。2012年より北欧の教育、エネルギー、デザインなどにフォーカスしたオンリーワンの北欧ツアー事業を展開し好評を博している。また日本と北欧の架け橋として、講演、イベントプロデュース、執筆など各方面で活躍中。

撮影/梅田眞司