組織の力

2017.03.27

NTTコミュニケーションズのベテラン社員活性化施策〈前編〉

「中高年」とひと括りにせずきめ細かく向き合う

2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法を受け、継続雇用制度を導入する企業が増え、中高年のワークスタイルに注目が集まっている。一方で、これからの働き方に不安を感じ、未来を描けずに悩むベテラン社員もみられる。モチベーションやスキル、抱える背景がさまざまな50代以上の社員にどうアプローチするかは、多くの企業にとって一大テーマとなっている。その中で一つのヒントとなるのが、リクナビNEXT主催の「グッド・アクション2015」を受賞したNTTコミュニケーションズ株式会社の取り組みだ。ベテラン社員の活性化を成功に導いたヒューマンリソース部 人事・人材開発部門の浅井公一課長にお聞きした。

気がつけば面談対象者と共に
キャリアビジョンを探っていた

面談に先駆け、同社では対象者に向けてキャリアデザイン研修を実施した。入社から現在までのワークヒストリーを細かく振り返って年表を作成させたり、2人の50代社員を主人公としたオリジナルドラマを見せたりとユニークなプログラムを実施し、自分の価値観や仕事観をより明確に意識させることを狙った。

「面談では、50歳の社員に今後のキャリアビジョンを描いてもらい、そこから一人ひとりのモチベーションを判断しようと考えていました。しかし、いきなり考えろといっても難しいので、まず研修でこれまでの軌跡を振り返ってもらい、自分にとって大切なものを見つめ直してもらうことにしました。つまり、面談で一人ひとりを判断するための土台をつくるために、研修を行ったわけです」

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そして研修の終わりに課題を出した。面談までの1~2か月の間に、「10年後にありたい自分と、そのための短期・中期目標」というテーマで上司と相談し、文章にまとめる、というものだ。この内容を材料に面談を行うことで、社員の熱意を的確に判断できると考えたのだ。なお、面談は浅井氏が一人で190人全員を担当することに決めた。複数で面談にあたると、価値観や指標がぶれやすく、実態が見えにくくなると考えたからである。

綿密な段取りを経て、いよいよ面談がスタートした。浅井氏は当時51歳。50歳の面談対象者たちとはまさに同世代だ。多くの対象者は、「会社の成長に自分も合わせなくては」という圧迫感を持ち、「どうすれば社内で評価されるのかわからない」と焦っていた。彼らと一人ずつ向き合うなかで、浅井氏の心に変化が生まれたという。
「面談を企画した時点では、私のミッションはあくまでも『対象者について客観的に判断すること』だと考えていました。ただ、実際に面談を始めたら、同年代の仲間がさまざまな悩みを抱えてもがく姿を見て、放っておけなくなってしまったのです」

浅井氏の熱意に火をつけたのは、対象者たちが面談にあたって書いてきた文章だった。「10年後も組織に貢献していたい」「先輩・後輩から頼られる存在になっていたい」といった無難な内容が多く、浅井氏からみて明確なキャリアビジョンを思い描けていないように感じられた。
「私は思わず、『もっとワクワクする目標を考えよう』と声をかけました。そして気がつけば、65歳以降にも活きる資格を提案したり、得意分野のプロフェッショナルをめざすことを勧めたりと、その人が輝く方法を一緒に考えていました」

浅井氏と話すことで自分なりの「ワクワクする目標」を見つけ、希望に満ちた表情を見せる対象者は多かった。元気になる社員たちを目の当たりにして、浅井氏も静かな手ごたえを感じ始めていた。しかし面談5日目、突然の嵐が訪れた。
「あなたに何がわかるっていうんですか!」
 ある対象者が、面談の席で激昂して声を荒げたのだ。この事件をきっかけに、浅井氏は面談のプロセスを大きく変えることになった。

後編では、対象者の実情にさらに迫るために浅井氏がとった方法をはじめ、面談を通じて見えてきたものや、目標を見つけたベテラン社員に起こった変化などについてお聞きする。


文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ