ライフのコツ

2017.10.04

移民大国オーストラリアの英語教育とは

世界の学び/準備学級と特別クラスで英語力の底上げ

世界の教育情報第16回目はオーストラリアからのレポートです。オーストラリアの公用語は英語ですが、第二言語としての英語への取り組みに非常に力を入れています。2016年6月末付の豪統計局の報告によると、オーストラリア居住者の28.5%が外国生まれであることがわかり、移民比率の高さが浮き彫りとなりました。移民の大半は母国語が英語ではないことから、移民が多く住む都市部では、小学校入学時に国の公用語であるはずの英語を挨拶程度しか話せないというこどもも珍しくないのが現状です。しかしながら授業を進めるうえで英語は必須。では、どのように英語力の差を埋めているのか、移民大国ならではの教育方針や英語力の水準引き上げの対策をご紹介していきます。

オーストラリアの初等教育は
準備学級からはじまる
オーストラリアの初等教育は、日本における幼稚園の年長から小学校6年までの7年間(5~12歳まで)で構成されています。最初の1年間は準備学級と位置づけられており、移民にとっては授業についていくだけの英語力をみにつける重要な年となります。この準備学級は州によって名称が異なりますが、オーストラリア最大都市シドニーのあるニューサウスウェールズ州では「キンダーガーテン(通称キンディ)」と呼ばれています。この「キンディ」の入学時期はこどもの生まれ月によって変わります。8~12月生まれのこどもは5歳を迎えた翌年の1月から入学が可能になり、1~7月生まれのこどもは5歳を迎える年の1月から入学できます。ただ、1年間入学を遅らせることもできるので、精神面や英語力に不安を感じて1年遅らせる保護者も少なくないのです。
授業に必要な
基礎英語力って何?
「キンディ」での1年間は、本格的な授業が始まるまでの準備期間で、全員が学校の授業に必要となる基本的な読み書きを1年かけて少しずつ身につけていきます。この1年間で必ず学ぶものの一つが、一目見ただけで理解するべき重要単語「サイトワード(Sight Words)」です。その種類は「in」「at」「to」などの前置詞から「go」「come」などの簡単な動詞まで多岐にわたりますが、ノートに繰り返し書く反復練習で、英語を第一言語としないこどもたちでも無理なく自然に身につけることができるようです。
このサイトワード同様に重要なのが「フォニックス(Phonics)」と呼ばれる単語の発音学習です。Cは「ク」、Aは「エイ」といったアルファベットの文字それぞれが持つ音のほか、単語の最後につくEは発音しない、などといった規則を学びます。フォニックスは、知らない単語でも発音できるようになる画期的な学習法であることから、英語圏では幼稚園や小学校の早い段階で習うのが一般的です。
最後に、「キンディ」でサイトワードやフォニックス同様に力を入れているのが、どの授業においても必須となってくるリーディングスキル(読む力)の向上です。リーディングの能力はこどもによって大きな開きがあり、サイトワードやフォニックスと違って一斉授業が非常に難しいものの一つと捉えられています。このことから、「キンディ」では早くから、リーディングスキルのレベルごとに小グループに分け、できるだけ個別対応ができるような授業体制をとっています。そして、このグループ授業で活躍するのが、こどもたちのママ。クラスのおたよりでは常に保護者のリーディングボランティアを募集しており、希望者にはアシスタントとして授業のサポートをしてもらっています。
オーストラリアの公立小学校では、保護者がボランティアとして学校の業務に関わる機会が多く、そのような環境で育ってきたオージーママにとっては、こどもの学校のボランティア活動に参加することはごくあたりまえで、非常に積極的です。特に入学したばかりの準備学級のこどもたちにとっては、ママの授業参加は心強く感じるようで人気があり、またママたちにとっても、こどもの学校生活や授業の様子を知るいい機会となっているようです。
落ちこぼれをつくらない、
特別クラスが英語力強化の鍵に
サイトワードやフォニックス、リーディングは「キンディ」で全員が学ぶ基礎学習ですが、移民のこどもたちの英語力引き上げの鍵を握るのが「ESLクラス(English as a Second Language Class:第二言語としての英語学習クラス)」です。ESLクラスは、宗教や道徳など主要科目以外の授業中に空き教室で個別に開講されており、対象者のみが補講として参加できる仕組みとなっています。受講は移民のこどものみならず、英語力が一定の水準に達していないと学校側から判断されたこどもたちも対象となります。ESLクラスでは、こどもたちに不足している語彙力や口述書き取りの強化、フォニックス学習をさらに集中して行うことで、授業についていけるだけの英語力を養っていきます。ESLは、外国からの編入生や留学生も対象となり、受講者の多くは6カ月間~1年未満で通常の授業についていけるだけの英語力がみにつくようです。
実際に、小学生のころESLクラスを受講していたという人たちの意見を聞いたところ、「外国からの編入だったが、単語や熟語の強化のおかげで授業にもすぐについていけるようになった」、「理解が難しかったフォニックスなどをESLクラスで強化したことで、その後の授業で非常に役に立った」と高く評価していました。授業に必要な語学力が身につくのはもちろんのこと、英語でのコミュニケーションに不安のある移民のこどもたちが、学校生活に早く馴染めるよう配慮された有益なプログラムの一つといえるでしょう。
グローバル化がますます進む現代。日本やその他アジア諸国では、英語圏の国々への進学や親子留学が盛んですが、同時に英語での教育や異文化環境に馴染めるかといった不安要素もつきまといます。その点、オーストラリアの手厚い英語プログラムは、英語を第一言語としないこどもとその親にとって、大きなメリットとなることは間違いないでしょう。
参照URL(豪統計局):http://www.abs.gov.au/ausstats/abs@.nsf/mf/3412.0

MF

グローバルママ研究所リサーチャー。2003年に来豪。
日本で外資系製薬会社の秘書として勤務後、オーストラリアではメディア企業に従事。
家族はオーストラリア人の夫と8歳・11歳の息子二人。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。