組織の力

2017.11.22

01Boosterが提案する、これからの大企業による事業創造〈前編〉

外部のコミュニティとのつながりが極めて重要

昨今、大企業によるオープンイノベーションや社内起業プログラムが盛んに行われている。しかし、新規事業の創出に至っているケースは「少ない」という株式会社ゼロワンブースターの合田ジョージ氏。新たな事業創造をめざす大企業はどのような課題を抱え、実現するためには何が足りないのか。起業家支援や、大手企業向け新事業開発の支援事業やプログラム開発を行っている同社共同代表 取締役の合田ジョージ氏に話をお聞きした。

また最近は、外的環境も企業内起業家が育たない要因として拍車をかけている。それは、世界的に経済成長が鈍化し、銀行が金融緩和を積極的に行うことで、市場にお金があり余ってしまったため、大企業にいたイノベーターが起業家となって、独立しているケースが増えているのだ。
「逸脱型の新事業を立ち上げようとしたときに、社内だと、先ほどの評価制度の問題の他に、何人もの社内のコンセンサスを得る承認プロセスがあり、時間や手間がかかってしまいます。特に逸脱型はスピードが重視される事業なのに、それが原因でビジネスチャンスを逃してしまうことにもなりかねない。それに対してスタートアップなら、自己責任のもと、何事も自分で決めていけます。そこに世界的に低金利で、ベンチャー投資に対してものすごく期待が高まっているので、意欲がある人材なら外に出る人もどんどん増えてしまいますよね。実際、新規事業の大半が、逸脱型イノベーションなので、この傾向が加速しているのではないでしょうか」
 
 

大企業はコミュニティを閉じるため
外部とのつながりやチームアップという概念は希薄

 
しかし考えてみれば、昔は大企業内でも新たな事業創造は行われ、カタチになっていた。松下幸之助氏や本田宗一郎氏などが今でいうベンチャー企業を立ち上げ、日本を代表するビッグカンパニーとして育てあげてきた。また企業内でも、自分の意見を押し通す人がいて、新しい事業を創り出してきた。そんな環境があったのにもかかわらず、いつから、こうなってしまったのか。
「たぶん1980年代からだと思います。バブル景気があったので、見た目は緩和されていましたが、バブル景気が終わったあたりから大企業を中心に徐々に成果主義が入ってきて、社内でのコミュニティが脆弱化してしまいました。それまでは、同じ共同体としてなかなか結果(売上)が出せなくても“温かい目”で見られていたものが、成果主義の導入により、競争環境の中でさまざまな批判を浴びるようになり、社内での連帯感などが次第に悪化していくことになったのです。またコストマネジメントも強化され、トライ&エラーを繰り返していく新規事業(逸脱型イノベーション)が育たない環境が生まれていきました」
 
はたして、大企業において逸脱型イノベーションと呼ばれる新たな事業が育たない環境は、日本特有のものだろうか? あるいは、世界的にも共通するのだろうか? 
「世界はものすごく進んでいますね」と合田氏はいう。事業創造を進めるために、海外の大企業は、社内で閉じるのではなく、他のコミュニティと組むのがマインドセットになっている。
 
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「事業創造のスタイルも2タイプがあり、英米に代表される『アングロサクソン型資本主義』と、ドイツやスウェーデンに代表される『ライン型資本主義』にわかれます。日本は後者に入ります。新たな事業創造を行う場合、前者ではスタートアップなどの社外の企業と組むことが一般的。しかし後者の場合は、大学や、ベンチャー企業、大企業、行政などの立場や分野の異なる人たちが垣根を超えてつながるスタイルが盛んです。これを“コミュニティ・エコシステム活動”と呼んでいて、日本ではまだまだ浸透していませんが、世界では非常に注目されています」
 
ドイツやスウェーデンなどと同質の『ライン型資本主義』の日本において、“コミュニティ・エコシステム活動”が浸透しないのは、日本の企業が自社内にコミュニティを閉じていることが大きな要因としてあげられるようだ。
「日本の大企業は、コミュニティを社外に拡げようとしないので、世の中の常識とはかけ離れた社内常識が固定化されてしまう。それにより、市場との認識の差異も拡がり、新規事業を生まれにくくしています」
 
ここで合田氏が紹介してくれたのが、イノベーションの理論をつくった経済学者シュンペーター氏による『新結合』という考え方だ。シュンペーター氏は“イノベーションとは新結合”だと主張していて、社内や社外問わず、技術や知識、コミュニティなど、さまざまな要素をつなぐことで、新たな価値(事業)を創造していくことができると述べている。“コミュニティ・エコシステム活動”は、この考え方がベースになっている。
「日本の企業は外部とのつながりが希薄。この『新結合』が非常に弱いため、イノベーションが起こせないというのもうなずけます。もう1つ、日本(人)は自立という観点も海外の人たちとは真逆です。日本の場合は、他に頼らず一人で全てをやり遂げようとしますが、欧米などでは新事業(特に大きな事業)を行う場合はチームで取り組みます。日本の考える自立は、海外からみれば孤立でしかありません。日本は海外に比べれば、まだまだ“チームアップ”という概念も足りません」
 
 

合田 ジョージ(Goda George)

株式会社ゼロワンブースター共同代表 取締役。MBA、理工学修士。東芝の研究開発やグローバルアライアンス、村田製作所の海外拠点戦略マネージメント等に関わり、2011年にはスマートフォン広告のNobot社に参画し、海外展開を指導。KDDIグループによるバイアウト後には、M&Aの調整を行い、海外戦略部部長としてKDDIグループ子会社の海外展開計画を策定、2012年3月末にて退社。現在は同社にてコーポレートアクセラレーター・事業創造アクセラレーターを運用すると共にアジアを中心とした国際的な事業創造プラットフォームとエコシステム構築を目指している。日本国内の企業や行政や大学などで多数の講演やワークショップなどを行い、活動している。


株式会社ゼロワンブースター
運営メンバーの全員が大企業の新規事業開発と起業経験を有するということから、大企業と起業家のいずれの文化も理解したアクセラレータ―として、企業と起業家がコラボレーションできるプラットフォームの構築を行っている。シェアオフィスのほか、独自のメンターやネットワークを活用した教育プログラムによって大企業の事業創出プログラムも手がける。また、同社は世界最大級のアクセラレーター業界団体であるGlobal Accelerator Network(以下 GAN)の日本国内初の「Full GAN Member」にもなっており、グローバルで行われているアクセラレーターの情報やノウハウなどを常に共有している。

文/西谷忠和 撮影/石河正武