組織の力

2017.11.13

個人と組織の可能性を拡げるパラレルキャリア〈後編〉

越境する人材が組織に新しい風を呼ぶ

組織に属しながら、社外でも社会活動や副業・兼業に取り組むビジネスパーソンが増えてきている。法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授は、このような生き方を「パラレルキャリア」と位置づけ、「パラレルキャリアは、個人にとっても組織にとっても役立つライフスタイルです」と強調する。後編では、組織にパラレルキャリアを取り入れるメリットについてお聞きした。

パラレルキャリア人材が
組織の競争力を高める源に

石山教授は、パラレルキャリアの対極にある生き方を「シングルキャリア」という造語でとらえ、シングルキャリアは個人にとっても組織にとってもリスクがあると説明する。前編では「個人にとってシングルキャリアがなぜ問題なのか」を解説していただいたので、今回は組織にとってのデメリットについてお聞きした。

石山教授は、「そもそも日本型雇用においては、シングルキャリア人材は増えやすいのは当然」と指摘する。
「これまでの日本では、終身雇用・年功序列を前提とする組織が多く、『組織にどれだけ忠誠を尽くしているか』が人事評価の基準とされてきました。現在でもまだまだ目立ちます。このような組織に属する個人は、高評価のためには長時間残業や急な異動を受け容れることが当たり前とされてきました。ですから、社外でさまざまな活動をしたり、個人の専門性を高めたりする機会をもつのは難しい。これはまさにシングルキャリアの状態といえるでしょう」

もちろん日本型雇用にも、「成果を出せなくても努力が評価される」「安定した雇用が保障される」といったよい面がある。地元密着型の企業などでは、年功序列・終身雇用のスタイルを維持し、社員から高い満足度を得ているケースがみられる。しかし、シングルキャリア人材が多数を占める組織では、新しい価値観やスキルが流入しにくいため、イノベーションは起きにくい。

「同質な価値観の中では、新しいものを生み出すのに時間がかかります。高い技術力に支えられた製品やサービスは期待できるかもしれませんが、スピードで負けてしまう可能性が大きいのです。逆にいえば、パラレルキャリア人材が組織内に増えれば、競争力につながる可能性があるということです」


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副業を認めることによって
「離職率が下がった」という声も

パラレルキャリアの一形態として、企業に属するビジネスパーソンの兼業・副業に目を向けてみよう。厚生労働省が現在公表しているモデル就業規則には、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という一文がみられる。「原則として会社員の兼業・副業は禁止」ということだ(ただし、厚生労働省はモデル就業規則に、原則として副業・兼業を認める規定を盛り込む方針を示している)。

実際、副業を禁止している企業は多い。例えば、JAD(一般社団法人全国産業人能力開発団体連合会)が「会社が推進する柔軟な働き方とパラレルキャリア」というセミナーを主催した際、参加企業にアンケートをとったところ、「パラレルキャリアや副業を認めていない」という回答が全体の59.7%に上った。認めていない理由としては、「経営者が認めていない」「仕事量が増え、本業がおろそかになる」「情報漏洩のリスクがある」などが挙がった。

しかし、副業を認めている企業からは、肯定的な声も目立つ。「日本の人事部」(株式会社アイ・キューの運営による、人事に関するナレッジコミュニティサイト)が発表した『人事白書2017』によれば、副業を許可している企業に「副業の弊害」について質問したところ、55.9%が「弊害はない」と回答したというのだ。さらに、「副業の効果」に関する質問では、「社員のモチベーション向上」を挙げる企業が多かった。

興味深いのは、「離職率が低下した」と答える企業が少なくないことだ。「副業を認めているということは、すなわち社員の多様な働き方を肯定していることになります。このような企業のあり方は、社員にとって魅力的と映り、離職のストッパーになっているのではないでしょうか」と石山教授は分析する。


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石山 恒貴 (Ishiyama Nobutaka)

法政大学大学院政策創造研究科教授。NEC、GEにおいて人事労務関係を担当し、米系ヘルスケア企業の執行役員人事総務部長を経て現職。人材育成学会理事などを務め、人的資源管理や雇用の分野で精力的に研究活動を行う。著書に『時間と場所を選ばないパラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)や、『組織内専門人材のキャリアと学習』(日本生産性本部生産性労働情報センター)など。

文/横堀夏代 撮影/石河正武