組織の力
2017.12.25
MOOCが企業の人材戦略を進化させる〈前編〉
グローバル企業や世界の大学がMOOCに注目
世界の高等教育市場において近年、「MOOC(ムーク)」という学びのスタイルがポピュラーになりつつある。学んで知識を得るのはもちろん、MOOCでの学習を通じて就職や転職を実現する事例もアメリカを中心に増えている。前編では、MOOCの特徴やアメリカにおける活用状況について、日本でMOOCの推進活動に取り組む一般社団法人「日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)」で事務局長を務める福原美三氏にお聞きした。
企業が人材育成や
採用にMOOCを活用
アメリカの大手プラットフォームでは、企業を巻き込んだ取り組みにも力を入れ始めている。たとえばUdacityでは、企業での実務に特化した有料の講座群「Nanodegree(ナノディグリー)」を構築した。大手企業とタイアップして企業での実務に特化した講座をつくり、配信する取り組みだ。例えば、人工知能技術者育成のための講座はIBM Watsonやamazon alexa、アンドロイド開発者の養成講座にはGoogleが、資金やノウハウを提供している。学習者は専門分野の知識やスキルを学ぶのと同時に、その講座に名を連ねる企業への就職や転職を視野に入れて受講するのだ。
講座受講中の学習者には、宿題や試験、確認テスト、掲示板でのディスカッションなどさまざまな課題が課され、学習履歴や成績は企業に提供される。企業の採用担当はそのデータから、「この人は着実に知識を積み上げていくタイプだ」「掲示板の発言からリーダー性が感じられる」「知識の吸収力が高い」といった学習者の知的スキルや潜在能力を判断し、自社のニーズに合う人材には積極的にアプローチを行う。受講をきっかけに転職し、キャリアアップをかなえる実例も出てきている。
さらにUdacityは、学習者と中小企業を直接つなぐサービスも始めている。福原氏は企業を巻き込んだ動きに関して、企業と受講者双方にとってのメリットを指摘する。
「これまでは、受講を終えた人がMOOCで取得した受領証を携えて企業を訪問し、学習によって得た知識やスキルをアピールしてキャリアアップするケースがよくみられました。しかしUdacityでは、講座制作から企業と提携し、学習者と企業のマッチングの場を提供している点が画期的です。学習者にとっては、キャリアにつながりやすい点がモチベーションになることは間違いありません。企業にとっても、エビデンスベースでリクルーティングの材料が得られて効率的といえます」
MOOCのプラットフォームが企業向けに研修を提供する取り組みもみられる。例えばCourseraは、「Coursera for Business(コーセラ・フォー・ビジネス)」という企業向け人材育成サービスを開始し、エールフランスやロレアルなどで導入されている。企業は大学や研究機関による幅広い講座から自社の教育プログラムに合う講座を選び、社員にeラーニングによる受講を課すシステムだ。
edXでも、個人・企業向けに「edX MicroMasters(エデックス・マイクロマスターズ)」を開始した。社員が取得した認定証は、コロンビア大学など講座提供大学の正式な学位として認められる。
Udacityも、Nanodegree協賛企業を対象にした社員研修を実施している。
アメリカでは従来から、学びがキャリアに直結する傾向があった。MOOCという学習スタイルにおいても、社会で求められる知識やスキルを学べる環境が整いつつあり、人材育成やリクルーティングの場として認知されるようになってきた。企業にとっても個人にとっても、MOOCの利用価値は確実に上がってきているようだ。
後編では、日本におけるMOOCの拡がりや、日本企業の活用状況を紹介する。
日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)
「学びによる個人の価値を社会全体の共有価値へ拡大するMOOCの実現」をミッションとして2013年11月に設立。配信プラットフォームをまとめるポータルサイトを構築し、2014年4月より大学などが制作する講座の提供を開始。3年間で200以上の講座をリリースし、学習者数は累計で77万人に上る。2016年度からは、企業と提携して行った調査結果を元に社会人向け学び直し基礎講座「理工系基礎科目シリーズ」の提供を開始した。アジアにおける各国MOOCとの協力体制づくりにも力を入れている。