組織の力

2017.12.12

健康経営推進をサポートする睡眠の「技術」〈後編〉

ハイパフォーマンスは起床の時点から始まる

企業に向けて睡眠改善研修を行う株式会社ニューロスペース代表取締役社長の小林孝徳氏は、「眠りの質によってビジネスの生産性は大きく変わる」と説き、「睡眠の技術を身につければ、良質な眠りをとることは可能です。その技術習得は、決して難しいことではありません」と語る。後編では、提供していらっしゃる睡眠改善プログラムのエッセンスをお教えいただく形で、典型的なビジネスパーソンが午前中・午後・寝る前にどんな過ごし方をしたらいいのかアドバイスしてもらった。

ベッドでスマホをいじると脳が
「寝床は情報収集の場所」と誤解する

 就寝前の数時間は、睡眠の質に大きく影響する重要な時間帯だという。ここで大切にしたいのが、照明と体温のコントロール。まず就寝予定の2時間前になったら、蛍光灯の白っぽい光ではなく電球色のオレンジがかった光の中で過ごすと、身体が睡眠モードに入り始めるそうだ。そして就寝1時間前には、熱すぎない湯温の風呂でほどよく身体を温める。注意したいのは入浴後の室温だ。
「部屋が寒いと身体の表面が急速に冷え、深部体温が下がりきらず眠気がやってきません。ですから冬はエアコンなどで、25度程度に室温をコントロールするのがポイントです」

 そして就寝前の注意点は、寝床でスマートフォンや携帯電話を見ないこと。ブルーライトを見ることによって目が冴えるといわれるが、弊害はそれだけではないと小林氏は言う。
「ベッドやふとんの上でSNSなどをすると、脳が勝手に『寝床は情報収集やコミュニケーションのための場所だ』と認識してしまい、眠りが浅くなりやすいのです。ですから寝床での読書などもお勧めできません。情報機器や本、雑誌などは寝床から少し離しておいた方がいいでしょう」
 寝床に入ってからも、「仕事のことが気になってなかなか寝付けない」というビジネスパーソンは少なくない。小林氏によると、これは自律神経の交感神経が優位になっている状態によって起きる現象だという。副交感神経が優位になることで入眠できるので、眠りに入るためには自律神経を意識的にコントロールする必要がある。そのための方法として小林氏が勧めるのが深呼吸だ。
「5秒間かけて息を吸い、8秒かけて吐きます。これを10セットほど繰り返すうちに、ふわっとした感覚が訪れて眠りに入りやすくなります」

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 なお、休日の過ごし方も平日の働き方に大きく影響するという。日頃の睡眠不足解消のために普段より起床時間が遅くなる人は多いが、あまり度を越すのは考えものだとのこと。
「平日に睡眠時間が不足している人は、いわゆる『睡眠負債』がたまっている状態です。ですから身体が負債を返済しようとして、休日に長く睡眠を取ろうとするわけです。しかし注意したいのは、睡眠は一括返済ができないということ。つまり、例えば休日に夕方まで眠ったからといって負債を取り戻せたことにはならず、むしろ睡眠リズムが崩れて翌日はつらくて仕方がないはずです。ちなみに、睡眠は貯蓄もできません。月曜が徹夜になりそうだからと日曜に寝だめをしておこうとしても、睡眠を翌日に持ち越すことはできないのです」
 毎日の過ごし方に工夫して眠りの質を高めていくことで、ハイパフォーマンスも得られやすくなる。ただし、小林氏は最後に一つ注意を促す。
「睡眠は、身体を休めるためだけではなく、脳が情報整理をする時間としても不可欠なもの。限られた時間で質のよい睡眠をとることはできても、慢性的な睡眠不足は確実にたまって、脳の機能に悪い影響を及ぼします。布団に入ったら一瞬で眠ってしまうという人やスムーズに目が覚めない人、頭が冴えているはずの起床4時間後に眠気がある人は、必要なだけの睡眠が取れていない可能性が大きいので、生活を見直してみてください」
 頑張って働くあまり睡眠時間を犠牲にする人は少なくない。しかし、よい眠りはよい仕事に直結するもの。睡眠の重要性を念頭に置いて、量と質を確保していきたい。

株式会社ニューロスペース

「睡眠の悩みに関するソリューションの提供」をミッションとして2013年に創業。外食産業やIT企業をはじめとする多くの企業に向けて、大学や医療機関と連携して開発した睡眠改善プログラム研修を提供している。その他、学校現場での睡眠リテラシー普及活動や、最先端技術を取り入れた次世代の睡眠テクノロジー開発などにも精力的に取り組む。

文/横堀夏代 撮影/石河正武