ライフのコツ
2018.02.14
公立中高一貫校、人気の理由を探る-後編
「受検」の前に、親が考えるべきこととは?
全国的に年々増加し、人気を集めている公立中高一貫校。私立に比べて安い学費で質の高い教育が受けられると、「受検」(試験ではなく検査なので「受検」の字を用いる)を考えている家庭も多いことだろう。前編では都内の学校を中心に、その特色ある教育やメリット・デメリットについて紹介した。後半では、首都圏を中心に過熱しつつある受検事情や保護者が心がけるべきことについて、引き続き安田教育研究所の安田理氏に伺った。
- 教科横断型の「適性検査」で
知識を応用する力を問う - 公立中高一貫校の人気の理由は見えてきたが、親として気になるのが入り口だ。公立中高一貫校では、「適性検査」により合否を判定する。試験ではなく検査なので、受験ではなく「受検」の字を用いる。適性検査は教科横断型の融合問題となっており、文章や資料を読み解き考えさせる問題が多く、読解力、考察力、論理的思考力、そして表現力が求められる。教科別の試験ではないため、私立中学校入試で出題されるような一問一答で知識を問う問題や計算問題などは出題されない。出題形式は管轄自治体により異なり、自治体ごとの共通問題のところもあれば、学校独自の問題のところもある。都立の場合は2015年度から共通問題が導入されたが、各校が独自に作成する問題と融合して良いことになっており、2017年入試では10校とも共通問題と独自問題の融合(割合はそれぞれ異なる)で出題された。
- 「受験競争の過熱化を防ぐために、学力試験ではなく適性検査とし、出題範囲も小学校の学習範囲内としたわけですが、長い文章を読み、記述量も多いので、現実的には受検対策なしでは合格は難しいでしょう。塾でも公立中高一貫校コースなどができていて、受検のために塾通いをしている子がほとんどです。ダメ元で受ける子も多いので、倍率はとても高くなっています」
- 首都圏21校(東京11校、神奈川5校、千葉3校、埼玉2校)の公立中高一貫校の2017年入試の倍率を見てみると、もっとも高いのが千葉県立東葛飾中学校・高等学校の12.0倍、もっとも低いのが川崎市立川崎高校附属中学校の4.4倍だ。私立中学校入試に比べると、かなり高い倍率になっている。
- 答えを得られる道筋だけを示し、
こども自身に考えさせる癖づけを - 公立中高一貫校の適性検査で求められる読解力、考察力、論理的思考力、表現力といった力は、まさにこれからの大学入試や社会でも求められる力だ。受検の有無に関わらず、こうした力をこどもにつけさせたいと考える親は多いことだろう。家庭ではどのようなことを心がければ良いのだろうか。
- 「小学校高学年のお子さんのいるご家庭、とくに公立中高一貫校の受検を考えているご家庭でやっていただきたいのが、新聞を取ることです。こども向けではなく、普通の新聞がおすすめです。そして、新聞で読んだ記事を題材に、親子で話をしてみましょう。新聞に書いてあることを全部理解するのは到底無理ですし、もちろんその必要もありません。パラパラと読んでいるうちになんとなくキーワードが目に入ってくる、それが大事なのです。また、生活の中で触れる情報について、"なぜ? 何?"を親子で考えてみてください。
例えばスーパーに行ったときには、『入り口に野菜や果物売り場があるのはなぜだろうか?』と考えてみる。親が答えを与えずに、こどもに『なぜだと思う?』と問いかけてみてください。答えをほしがるとつい教えてしまいたくなりますが、そこは我慢です。こどもに考えさせる癖をつけ、わからないようならヒントを出してあげましょう。『図鑑で調べてみたら?』『インターネットで検索してみたら?』と、どうすれば答えが得られるかの道筋を見せてあげることが大切です」 - また、保護者に向けて講演をする機会も多い安田氏は、いつも次ぎのことを伝えていると言う。
- 「保護者の方には、長いスパンの進路選びを心がけていただきたいと思います。いちばん良くないのが、軸がブレること。例えば、私立小学校に入れたものの別の私立中学校や公立中高一貫校が良いのではないかと思い再び受験(受検)。結果的に不合格になり公立中学校へ進学し、高校入試を受け、大学入試を受ける...となってしまうケース。こうなると、こどもは常に受験(受検)を目標にして学校生活を送らなければなりません。これは、こどもにとってとても辛いことです。国私立にせよ公立にせよ中高一貫校へ行く最大のメリットは、6年間という長いスパンで学べる、ということです。その結果として、いろいろな体験ができたり課外学習に取り組んだりできるのです。ですから、どのタイミングで受験(受検)をするか、させるかというのは、ご家庭でよく話し合っていただきたいと思います。そして、一度決めたら迷わずその道を貫くことです。世間一般の評判や偏差値ではなく、我が子にとって何がベストかという基準で、判断をしていただきたいと思います」
- 公立中高一貫校は、今後も続々と開校が予定されている。なかでも安田氏が注目するのが、国際バカロレア(IB)が取得できる学校だ。国際バカロレアとは国際的な教育プログラムで、所定のカリキュラムを受講して最終試験で所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)を取得できる(ディプロマ・プログラムの場合)。例えば、2019年4月開校予定の県立広島叡智学園(全寮制)、大阪市立公設民営学校(名称未定)では、国際バカロレアを取得できるプログラムの導入を予定している。
- 最後に、長年日本の教育動向を追ってきた安田氏は、こう語った。
- 「先回りをして安全な道をつくってやることが、親の仕事ではありません。これからは人生100年の時代だと言われています。今のこどもたちが大人になる頃には、75歳くらいまで働くことになるかもしれません。当然、一つの会社でずっと働くわけではないでしょう。社会も今以上のスピードで変わっていくでしょう。そうした時代を生きるのですから「変われる力」「再び立ち上がる力」を、ぜひお子さんにつけてあげてほしいと思います」
安田 理
安田教育研究所代表。東京都出身。早稲田大学卒業。大手出版社にて雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。その後、教育情報プロジェクトを主宰し、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。日本経済新聞、朝日小学生新聞、「進学レーダー」、「サクセス15」、ベネッセ「教育情報サイト」、サイエンス倶楽部など各種新聞・雑誌、WEBサイトにコラムを連載中。著書に「中学受験 わが子をつぶす親、伸ばす親」(NHK出版)、「中学受験 ママへの『個別指導』」(学研)などがある。
文/笹原風花 撮影/荒川潤