組織の力

2018.06.25

『健康経営』を文化にする、渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム

『健康経営』の施策は、経営に貢献するべきものを選ぶ

2016年にCHO(Chief Health Officer)室を創設し、いち早く『健康経営』に取り組んできた株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)CHO室室長代理の平井孝幸氏。2017年8月に、同氏は自社だけにととまらず、渋谷にある企業らと連携して『健康経営』を推進していく団体『渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム(略称ウェルネコ)』を立ち上げた。ウェルネコの理事長である平井氏に立ち上げた経緯や活動内容を、そして今後の展開などについては、ウェルネコの事務局長を務める、コクヨの働き方改革コンサルタントの坂本崇博氏に伺った。

全国に『健康経営』を根付かせるために、
ウェルネコを創設

『健康経営』という言葉をご存知だろうか。これは企業が従業員の健康管理を経営課題としてとらえ、健康増進を図ることで、企業の生産性の向上などを目指す一つの経営施策である。経産省は東京証券取引所と共同、2015年度から、従業員への健康保持・増進活動を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定するなど、国を挙げてその推進に力を入れている。

昨今、この『健康経営』を推進している企業は増えているが、多くの企業や団体を巻き込んで、エリアで『健康経営』の輪を広げようとしている団体がいま注目されている。それが『渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム(略称ウェルネコ)』だ。
創設した経緯について、ウェルネコの理事長であり株式会社ディー・エヌ・エーのCHO室室長代理の平井氏に尋ねると、これまでも数々の企業の『健康経営』を推進してきた経産省の藤岡雅美氏と話したことがきっかけだったと言う。

「藤岡さんから『平井さんがそこまで健康経営に熱い気持ちがあるのなら、渋谷の企業を巻き込んで展開したらどうですか?』とアドバイスをもらったんです。この提案を聞いて、『健康経営』を推進する会社がもっと増えたほうが、世の中への影響力も大きくなる。コミュニティをつくる意義はあると思いました」


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その後、コクヨの働き方改革コンサルタントの坂本崇博氏を事務局長、東京商工会議所のサービス・交流担当部長、藤田善三氏を理事として迎え、2016年6月に渋谷の企業9社、2団体でウェルネコを創設。経産省が助成する採択事業にも選ばれた。

「『健康経営』を価値のあるものだと感じている企業は多いものの、それに取り組んでいる企業はまだまだ少ない。だからこそ、渋谷というひとつのエリアを中心に、『健康経営』の魅力を発信していくことで、日本中の企業が『健康経営』に積極的に取り組めるようになるのが、私たちの目指すところです。ウェルネコを通じて感じるのは、企業1社だけでやっているときと比べて、波及効果が大きいということ。しかも東急電鉄(東京急行電鉄株式会社)のように健康銘柄を取得している企業と、まだ健康経営に取り組んでいない企業とでいろいろな施策をコラボレーションすることで、自社の当たり前が、当たり前でないという新たな気づきも得られ、よい相乗効果も生まれてきました」(平井氏)


ウェルネコに参加することで
いち早く情報を収集・共有できる

ウェルネコでは月1回ペースで定例会を開き、参加企業同士の取り組み状況などを話し合う情報交換会や、おもしろい取り組みをしている企業や団体を招いた勉強会などを行っている。参加企業の中には、ウェルネコでの他社事例に刺激を受け、自社の社員の健康課題を解決するために、平井氏のサポートのもと、社内でヨガ教室を開催した企業もある。
その他にも、一参加企業のプロジェクトに他の参加企業が加わり交流を広げていく「分科会」と呼ばれる取り組みも行ってきた。

分科会の1つとして、ウェルネコに参加している一般社団法人JFTD(花キューピット)が推進役となって、農林水産省が推進する「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」の一環で行なっている「フラワービズ」を広めるためのイベント『生け花マインドフルネス』の開催も実現している。

2017年8月にはウェルネコ発の事業、『日本健康企業推進者協会(JWCLA)』も発足。自社の社員に健康促進を指導する『健康企業指導員』の育成を行っている。新しい資格にも関わらず、健康経営に関心のあるビジネスパーソンが数多く参加しており、『健康経営』に対する関心の高さが証明された。

「ウェルネコに参加して情報やノウハウの共有をするなかで、各企業が独自で行っているセミナーにお互い参加しあったり、場合によっては共同実施などによる交流も期待できる」と平井氏はいう。

たとえば、東急電鉄が推進役として行った『ウォークビズ』もウェルネコ参加者への情報共有の一例である。従業員を中心に会社では歩きやすい靴(機能的な革靴やスニーカーなど)での通勤・勤務を推奨し、ひと駅歩いたり、社内もエレベーターではなく階段を活用しようと呼びかけた。このプロジェクトは、国民全体の健康増進にも広がりをみせ、スポーツ庁が推進する『FUN+WALK PROJECT』が始動している。


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渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム(略称ウェルネコ)

他社に先駆けて“健康経営”に取り組んでいる株式会社ディー・エヌ・エーを中心に、渋谷にある企業・団体が集まり、“健康経営”を世の中に広めていくために、2015年6月に創設された。ウェルネコの理念に賛同し、東京急行電鉄やミクシィーなど業種や文化の異なる多くの企業が参加。1社単独では実現の難しいイベントや事業立案の場を設け、地域共創の活性化にも貢献している。2016年度経済産業省採択事業にも選ばれた。

文/西谷忠和 撮影/ヤマグチイッキ