組織の力
2019.02.20
ヤッホーブルーイング流の「フラット」なチームビルディングとは?〈前編〉
経営理念の浸透のカギはコミュニケーションの仕組み化
株式会社ヤッホーブルーイングは、全国で400社近くあるクラフトビールメーカーの中でトップシェアを誇る注目企業であり、人気製品である『よなよなエール』には根強いファンが多い。また、Great Place to Work® Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」ランキングにおいてベストカンパニーに3年連続で選出されるなど、働き方や組織体制においても支持を集めている。代表取締役社長井手直行氏は、「強いチームづくりに向けて社員間のコミュニケーションを仕組み化し、さまざまな場面で経営理念の浸透をはかっています」と話す。同社が実践するチームビルディングと経営理念浸透の取り組みについてお聞きした。
毎朝の雑談が
質の高いコミュニケーションの土壌をつくる
同社では、多様なコミュニケーションを通じて『ガッホー文化』の共有・浸透をはかっている。
「個々のコミュニケーションスキルに頼ることなく行動指針が確実に浸透するよう、コミュニケーションを仕組み化しています。活発なやりとりによって文化が一人ひとりの意識に根づき、全員が『ガッホー文化』、ひいては経営理念を体現できる存在になることを目指しています」
例えば毎朝の朝礼は、全社員を10人程度の少人数チームに分けて行われるが、ユニークなのは仕事の伝達が一切行われないこと。代わりに一人ずつが自分の好きなモノ・コトや近況を話し、楽しく盛り上がる。
「言ってしまえばムダ話です。ですが、雑談によって互いの志向やコミュニケーションのクセがわかると、仕事でも相手の発言の意図がつかみやすくなりコミュニケーションがスムーズになります。また、コミュニケーションの絶対量が増えますから、遠慮せず意見を言い合える雰囲気も生まれます。『ガッホー文化』のベースである『フラット』を実現するための土壌づくりとして、朝礼はとても大切な場だと考えています」
少人数チームの朝礼とは別に、月に1回、情報共有を目的に、全社員参加による朝会も行われている。そこでは、それぞれのセクションや自主プロジェクトが伝達事項を話したり、井手社長が経営理念を具体例を交えながら話したりする。ちなみに、プロジェクトは社員が自由に立ち上げることができ、業務時間の3割はプロジェクト活動に割いてよいことになっている。そのため「『ガッホー文化』の共有・浸透を目指すプロジェクト」や「『よなよなエールの超宴』(同社が定期開催しているファンイベント)の販促グッズ制作プロジェクト」など、社員が多様なプロジェクトをつくり、活動している。
それ以外の場面でも、社長やユニットディレクター(部長職にあたるポジション)が「今の発言は『(ガッホー文化にある)自ら考えて行動する』とはちょっと違うんじゃないかな」といった形で、折に触れて『ガッホー文化』に対するとらえ方のすり合わせを行い、文化の共有・浸透をはかる。こうした積み重ねによって、社員の中に『ガッホー文化』が着実に浸透していくわけだ。
個人としてのスキルより
チームで働くことが好きかどうかを重視して採用
同社では社員の採用にあたって、大きく分けて2つの基準を設けている。「優秀であること」と「ヤッホーブルーイングの経営理念や行動理念、働き方に心から共感するかどうか」だ。「優秀」というのは、新卒なら数年でユニットディレクターとして活躍できそうか、中途入社ならすぐにユニットディレクターに就任できそうかどうかを評価する。しかし、いくら優秀な人材でも、井手氏が「うちに合う人材ではない」と判断すれば採用は見送られる。
「私たちは、チームで仕事をすることに喜びを感じるかどうかを重要視しています。いくら優秀で私たちの経営理念に共感してくれていても、ソロワーク志向の人は採用しません。なぜなら、会社の雰囲気になじめず離職するケースが非常に多いからです。近年は会社の規模拡大によって社員も増え続けているので、企業文化とミスマッチを起こして去る人も増える可能性はあります。しかし、『ガッホー文化』をはじめとする経営理念に心から共感するメンバーが一つになってミッションに取り組むことで初めて、私たちは成長していけるのだと思います」
井手氏は企業成長のターニングポイントを見据え、社内で否定的な声が上がってもチームビルディング研修を断行した。また採用においては、候補者のスキルより企業文化への共感度を重視している。強いチームづくりには、ブレのない姿勢とアクションが必要ということだろう。
後編では、『ガッホー文化』の内容について同社の施策とあわせてさらに詳しく紹介する。
株式会社ヤッホーブルーイング
長野県・軽井沢で1996年に設立され、97年にビール製造を開始。「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げ、日本ビール市場にバラエティを提供し新たなビール文化創出を目指す。『よなよなエール』や『水曜日のネコ』などのクラフトビールがビールファンの間で人気に。Great Place to Work® Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」ランキングにおいて、2017年から従業員100~999人の部門で3年連続ランクインを果たす。